月夜裏 野々香 小説の部屋

    

架空歴史 『釈迦帝凰』

 

 

 

 第10話 『前途拗々』

 地中海・大西洋沿岸で一つの噂が広まっていた。

 日本の幕府海軍船 “玉龍” に天地をひっくり返すお宝が二つ積まれていると・・・

 一つは、善心と悪心を体系的に解釈したもので、人に良心の呵責を強いらせ、

 社会規範の目安になる側面を持っていた。

 もう一つは、善悪混在の人が聖なる人生に殉じた証しであり、証拠品であり、

 そのモノを保有するなら聖なる加護を受けられるかもしれない・・・の偽物・・・

 人の心は、状況次第で光にも闇にも転ずるのであり、

 善悪の指標がハッキリしたからと言って、悪が消えるわけもなく、

 この世を照らす光は、便宜上の例えに過ぎなかった。

 それは、世俗で法律が定められ、善悪を分けたモノと似ている。

 それは、一旦定められれば、抑制が働き、善の側にいたいのも人情と言えた。

 ローマ法王が後に送る聖遺物を守るため、作為的に流された噂に過ぎない。

 そして、それがどんなものであれ、モノの価値を決めるのは人間だった。

 噂を聞きつけた者たちは “お宝” に目の色を変え、

 彼らを欲の皮を突っ張らかせた妖怪に変貌させる。

 客観的に振り返るなら、現物の一つは、写本に過ぎず。

 もう一つも、聖人未満の神父の遺骨の一部で、偽物・・・

 しかし、噂は、金塊と宝石であるという、壮大な勘違いを生み出した。

 結果的に噂と勘違いが、ヒンズー教の経典と偽物の聖遺物の価値を高め、

 その価値に魅入られた人々の騒ぎが価値を証明し、不動の既成事実にしてしまう。

 

 地獄の沙汰も金次第、

 バルバリア海賊が跳梁跋扈する地中海も、通行料を支払うなら見逃される。

 そう、それは、安全保障上の費用であり、

 国家が国民に押し付けたり、

 その世界のアウトローが利用者に押し付ける類のものだった。

 金額は、利用者が傭兵を雇うより安く、

 海賊が危険を冒して襲撃することを思いとどまる程度の負担であり、

 利用者は、交易が成功すれば、一定以上の収益が見込める範囲に収まる。

 ある意味、先行する海運業者の特権であり、

 同業者の蔓延を防いで価格を維持させるための自然の機構であるともいえた。

 とはいえ、ある程度、資本力がある者にとって、地中海は安全といえた。

 しかし、いくつもの海賊が跳梁していた場合は、違ってくる。

 噂を聞きつけた海賊たちは、海賊同士の領域を超えても良い気分にさせ、

 約束を違えてもいいような気分にさせた。

 

 

 地中海沿岸の酒場

 金貨の山が載せられたテーブルを男たちが囲む。

 「・・・聖遺物が日本に運ばれるそうだ」

 「ついに、この時が来たか、このままでは、日の本が魔の巣窟から解放されてしまう」

 「我々の聖域が脅かされるな」

 「禍根を断とうぞ」

 「「「「おおー!!!!」」」」

 男たちは、紙切れを見つめつつ

 「「「「「・・・・・」」」」」 大きな溜め息をついた。

 「御苦労さまです」

 「枢機卿。何でこんなセリフを吐かねばならんのだ?」

 「最近、プロテスタントが隆盛気味でしょう」

 「聖遺物の価値を高めるのは、カトリック再興のためですよ」

 「へいへい。まぁ 金さえもらえるのなら、構わないがね」

 「適当に頼むよ。適当にね・・・」

 「それ以外は、こっちの仕切りでも良いんだな」

 「構わないよ。まぁ せいぜい、伝説を作って、聖遺物の価値を高めてくれ」

 「行くぞ。野郎ども」

 金貨が海賊たちの袋に入れられていく、

 

 

 風の弱い地中海では、手漕ぎのガレー船が有利だった。

 しかし、手漕ぎの奴隷は高騰し、大砲とマスケット銃は、兵力差を補うようになり、

 帆船に比べ、ガレー船は、費用対効果で不利になろうとしていた。

 とはいえ、大砲とマスケット銃はガレー船にも積まれて相対的な差に過ぎず、

 風と状況次第でガレー船が帆船を圧倒することができた。

 地中海の海賊のガレー船戦隊は、風に逆らい、

 巧みな戦術機動で護衛していたスペインのジーベック帆船を煙に巻き、

 玉龍は、ガレー船に取り囲まれてしまう。

 「どこの海賊だ?」

 「さぁ 東地中海側の海賊では?」

 「それとも相手にされていない弱小海賊?」

 「弱小海賊がガレー船を20隻も持ってるわけないだろう」

 「商用で落ち目のガレー船が生き残りをかけてんじゃないか」

 「ちっ」

 「護衛のジーベックは?」

 「間に合いません」

 風はほとんどなく、ガレー船はみずすましのように軽やかに死角へ回り込んでいく、

 「やれやれ、こっちは砲の射線に晒され身動きできずか」

 「神に見捨てられたな」

 「むしろ神の存在を疑いたくなるよ」

 「いや、性格の悪い神がいると思うな・・・」

 ガレー船は、玉龍に横付けし・・・

 「降伏しろ! お前たちの負けだぞ!」

 「・・・日本語じゃないか」

 日系人とおぼしき船長が乗り込む、

 「おまえ、日本人だろう?」

 「なんで日本人が地中海で海賊しているんだ?」

 「ああ、フランスに渡ってフランス人に騙され」

 「ギリシャ人に売られ」

 「仲間と逃げ出して強盗して、巡り巡って地中海で海賊なんかやってるよ」

 「よく船長に収まったな」

 「ああ、似たような境遇の連中ばっかりだし」

 「たまたま、船に詳しくて、日本語が分かるから、日本刀と短銃の仕入がしやすくてね」

 「なぁ 同郷のよしみだ。もちろん、助けてくれるんだろうな」

 「なんで?」

 「「「「・・・・・」」」」 ため息

 「お宝を見せろよ。金銀財宝だ」

 「「「「・・・・」」」」

 凪いだ海で玉龍は、身動きの取れず、

 大砲の数でも兵員の数でも勝ち目がなかった。

 「・・・なに? これ? 金銀財宝じゃないの?」

 日系人の地中海海賊船長は、玉龍の船倉に入ると呆然とする。

 「親分・・・」

 「・・・・」

 「だから言っただろう。お前らが言ってるようなものじゃないと」

 「「「「・・・・」」」」

 「どうする・・・」

 「・・・よし、そうだ!」

 

 

 チェニスの酒場

 イスラム圏では、宗教上の理由で酒が禁止されている、

 しかし、飲まなきゃやってられないと思う人々は多く、

 飲酒は好まれており、隠れて飲まれていた。

 「例の日本船。実は金銀財宝を満載させているらしい」

 「はぁ? なんで?」

 「外交上の利益だそうだ」

 「「「「・・・・」」」」

 「なんで、もっと、ふっかけなかったんだ?」

 「いや、比較的、小さい船だったから相場だろう」

 「大変だ! イタリアの海賊が日本の遣欧船を狙っているらしい」

 「はぁ 本当に?」

 「あのヘタレ海賊どもがか?」

 「ちっ 保証金を受け取って、それじゃ 格好がつかね」

 「ああ、俺たちの海を荒らそうとしている」

 「あの野郎・・・」

 「なぁ ついでにドサクサにまぎれて・・・」

 がた! がた! がた! がた!

 

 

 玉龍は、チェニス沖を漂流させられ囮にされた。

 「お前たちは、ここで囮になってもらう」

 「「「「・・・・」」」」

 「しばらくすればチェニスの海軍が来るだろう」

 「「「「・・・・」」」」

 「せいぜい、粘って、連中を外海まで引っ張って行ってくれ」

 「「「「・・・・」」」」

 噂を聞きつけたチェニス海賊が暗闇を利用して押し寄せ、

 見張っていた海賊のガレー船が逃げ出し、

 玉龍の甲板で戦いが始まる。

 「護空。駄目だ。大砲がないだけで数で負けてる」

 「五条! 後ろだ」

 白海の太刀が五条と海賊の間を一閃、

 海賊の剣を圧し折り、チェニス海賊を押し返した。

 「助かった・・・」

 !?

 不意に南側の闇が照らされ、

 アジトが燃やされていることを知るとチェニス海賊たちが騒ぎだす。

 そして、海賊たちは、慌てて、退き・・・

 「風だ!」

 「これで、オスマントルコも敵に回したんじゃないか」 ため息

 「いいさ、とりあえず、危機は脱することができた」

 「それに地中海からも、出られるだろう」

 

 

 北大西洋

 300トン級の玉龍は、1000トン級海賊船2隻に追撃されていた。

 海洋の条件や軍用・商用など多用な形式の船があったとしても、

 排水量の差は、純粋な戦闘力に比例しやすい。

 「しつこい海賊だな」

 「アゾレス諸島にも、カーボベルデにも行かせない気だな」

 「ガレオン船2隻か・・・」

 「まともにぶつかっては勝てないぞ」

 「船長。このまま南側に押しやられるとまずいのでは?」

 「サルガッソー海域だが、まともに戦っては、勝ち目がない」

 「じゃ サルガッソーで捕らえられるのか?」

 「いや、ガレオン船の方がマストが高く、風を受けやすいが、船体が重い」

 「一緒にサルガッソー海に入り込むと、こっちの方が先に抜け出せて有利なはず・・・」

 「では、どうするつもりだ」

 「こっちをサルガッソーに追いやって、後退するのでしょう」

 「では、出てきたところを狙って?」

 「いえ、人数からして、食料が先に尽きるの向こうのはず・・・」

 「いったい何が目的で・・・」

 「たぶん、この船にお宝が積んであると知ってるのでしょう」

 「聖遺物はニセモノだし。あるのはヒンズー教の経典だぞ」

 「キリスト教徒にとっては二束三文だろう」

 「聖遺物をニセモノだと知らないんだろう」

 「ひょっとして、餓死させて、漂流させて聖遺物を?」

 「げっ!」

 「」

 「」

 

 

 玉龍の甲板

 「みずぅ〜」

 「お腹空いた〜」

 「船長。魚釣れないの?」

 「山蔵様御一行は、山伏なんでしょ 釣れないんですか?」

 「山があればね・・・」

 「神通力で、どばっと豊漁にしてくださいよ」

 「サルガッソーは魚が獲れなく有名なところらしいよ」

 「駄目だ・・・」

 「もう、何日も食ってねぇ・・・」

 「魚・・・」

 「八海・・・おまえ・・・肉余ってんじゃないか?」

 「ば、馬鹿言うなよ」

 「あははは・・・」

 すぅ〜

 風が吹くと帆が膨らみ、玉龍が動き出した。

 「風だ・・・」

 

 

 イギリス領 北アメリカ東海岸

 一隻のスクーナー船が座礁していた。

 「なんで、座礁するんだよ!」

 「よりによって、三大陸国家連合側の領地だろう」

 「しょうがねぇだろう。手近な陸地で水と食料を必要としていたし」

 「ハリケーンを避けようとしたら、こっちに来てしまったんだろうが」

 「まぁ いまのところ、戦争しているわけじゃないから・・・」

 「くっそぉ〜 北大西洋中の海賊が動いてるんじゃないのか」

 「それはあるかも・・・」

 人だかりの中、女連れの若い日本人が近付いてくる。

 「へぇ〜 酷い事になったね」

 「「「「・・・・・」」」」

 

 

 その日、300t級スクーナー船 玉龍は、叩き売られ、

 6頭立ての幌馬車5台に化け、

 20人の乗員は、それぞれの馬車に分乗して西に向かうことになった。

 「本当に北アメリカ大陸を横断するつもりか?」

 「朱印船は、東海岸に来ることはめったにないし」

 「フランス船とスペイン船の奴隷船が来るくらいだが、それに乗ると約条に反する」

 「聖なるモノだからか・・・」

 「イスラムから奪う時は、豚肉の中に隠したそうじゃないか、何で奴隷船が駄目なんだ」

 「まぁ 迎えに来る朱印船に乗せるより、北大陸を横断させる方が安全かもしれないがな」

 「どっちもどっちで、いい勝負だ」

 「一応、日本向けの空箱を倉庫に残してある」

 「海賊たちは、そちらに気を取られて、俺たちの移動に気付かないかもしれない」

 「我々が北西アメリカの日本領すめらぎに辿り着けるなら、荷物は日本まで届けられるはずだ」

 「やれやれ、インディアン戦争真っただ中だというのに・・・」

 「じゃ よろしく頼むよ。船長に、山蔵様」

 女連れの若い日本人が微笑んでいた。

 「そりゃ 仲介料代わりにすめらぎ領まで連れてやってもいいけどさ」

 「護衛も頼むよ」

 「へいへい」

 女連れの日本人は、後ろの幌馬車に乗り込んでいく、

 「なんなんだ。あの日本人は?」

 「吉祥世之介。全財産を注ぎ込んで赤人、黄人、青人、白人、黒人で女の園を作った酔狂人だろう」

 「道楽バカが、女護が島を探して25000両も浪費しやがったらしい」

 「草葉の陰で先祖と親が泣いてるぞ」

 「人間の屑が・・・他人事でもムカつく」

 「まぁ おかげで助かったわけですし」

 「仲介の交渉は上手かったですし、商才と頭は切れるようだが?」

 「財産だけでなく、親から受け継いだ才能も浪費してるんだ」

 

 北アメリカの東部、北東から南西方向にかけ山脈が延びていた。

 アパラチア山脈は、全長約2600km、幅160kmから480kmに達し、

 山脈を西に越えると広大なフランス領ルイジアナが広がっていた。

 隊列の一つの幌馬車から官能的な呻きが漏れる。

 女の園は、若い黒人、インド人、ロシア人、インディアン、イギリス人と多彩な人種がいた。

 そして、女奴隷の一人か、二人が交替で御者を勤め、手綱を引いていた。

 「ったくぅ〜 世之介の野郎・・・昼となく夜となく朝となく、よくやるよ」

 「なんか、船と交換して、海路を言った方が良かったんじゃないかって思うよね」

 「座礁は海賊たちに知られたし」

 「迎えの和船が来るまで、安全を確保できそうになかったし」

 「小さな船を別に買っても、海賊に狙われてるから無理だと思うよ」

 「くっそぉ〜 金銀財宝なんて、どこのバカが言いふらしたんだ」

 「さぁね、取り敢えず、英語の分かるやつは少ないし、世之介は東海岸に詳しい」

 「たぶん、役に立つよ」

 東海岸はイギリス人が多く、アイルランド人、ドイツ人、スウェーデン人が混ざっていた。

 内陸に向かうにつれ、白人は減り、インディアンが増えて行く、

 焚き火が円陣を組んだ6台の幌馬車を赤く照らし、周囲の闇を深くしていく、

 多くの者たちが銃から手を離せず、剣をそばに置き、交替で闇を見つめる。

 あぁ あぁ ああああ〜

 がしゃん!

 錫杖の音が響く、

 「うぜぇ・・・」

 「まったくぅ〜 修行の邪魔な奴らだ」

 「自分の子供を5色人種の女に孕ませたいんだと」

 「アホが」

 「金に執着するより、生命の根源に近いし、価値のある一大事業かもしれんがな」

 「金がなかったら、タダの性犯罪者だ」

 「欲望に正直な奴ってことだろう」

 「我々にとっては、いい試練かもしれんが・・・」

 玉龍の乗員たちは、上の空で妄想していた。

 「・・・しかし、アパラチア山脈は、悪くないな」

 「ああ、大山や羽黒山に劣らない霊山のようにも思える」

 「山伏は、インディアンと共感すべき点もあるな」

 「インディアン全体がそれだと、世俗中心の白人世界に勝てん気がするね」

 「日本人にもだ」

 「とにかく、イギリス領を出るのが先決だな」

 「ああ・・・しかし、フランス領が安全とも限らんが」

 「3つの方法で幕府に北アメリカを横断して、すめらぎ領に行くと知らせを送らせている」

 「一つでも辿り着くなら、支援してくれるだろう」

 

 

 

 インドで廃れ、

 日本で再生したダマスカス鋼は、試行錯誤を重ねられ、

 品質を向上させつつ安定させ、生産量を増やしていた。

 旧来の日本刀は、切れ味で勝っていたものの、

 錆びに強いダマスカスの剣は好まれ、

 日本の輸出品の一つとなり、生産量も増していく、

 この時期、船舶と家屋の建材である森林伐採が懸念されており、

 建材を浮かせるため、鉄皮、銅皮の船が検討されつつあった。

 もっとも、製鉄は硫黄と燐を含まない木炭で行っていた時期であり、

 鉄皮船も銅皮船も森林伐採と同意だった。

 そして、石炭を使った製鉄は、森林資源を消費せずに済むため、

 各国とも試行錯誤が進められていた。

 日本 鍛冶屋

 刀剣の試し斬りがされていた。

 「石炭は火力は良いけど、鉄が脆くなって、駄目だな」

 「イギリスの石炭は中国大陸のモノより、質が良いようだが」

 「それでも、石炭をそのまま使うと鉄が脆くなることには変わりない」

 「中国大陸の石炭は、ピンキリだよ。一概に悪いと言えないだろう」

 「石炭の方が木炭より火力が強くて、上質の鉄が作れそうなんだがな」

 「ダマスカス剣を持って行けば、石炭も木炭も腐るほど載せて帰還できる」

 「それほど、困るわけじゃないが、石炭が使える方が楽だな」

 「そうなると、ダマスカスの剣を輸出しない限り、幕府は貿易黒字にならない」

 「清国を強化させると、いろいろ不味くならないか」

 「かなりまずいが、産業として独占できる方が良い」

 

 

 

 コリヤーク(カムチャッカ)半島

 ダイヤモンドダストが輝き、大地を白銀に照らしていた。

 日本人の入植は、蝦夷、樺太と同様、夏季前に工夫が増えて居留地を建設し、

 冬季前に工夫を内地へ帰還させる手法が用いられていた。

 先住民の名を由来にした半島の存在は17世紀、ロシアに知られ、

 17世紀末には、ロシア人の入植がはじまる。

 日本とロシアのどちらが先に半島を発見したか、定かではない。

 しかし、ロシア人の入植がはじまった頃、

 商藩から派遣された日本人入植者が木材を伐採し、

 木炭生産し、消費地へと供給していた。

 当初、危険でうまみは少なかったものの、商藩の予見は的中し、

 日本国内木の価格が高騰し、コリヤーク半島の木炭需要は高まっていた。

 朱印船の性能が向上するにつれ、安全性と採算性も向上していた。

 1697年に日本人・アイヌ人とロシア軍の最初の戦闘が起こった。

 日本人は、ヒグマと狼対策で銃を保有していたことから、

 ロシア軍は、慌てふためき、

 さらに極寒地の戦闘は、冬季の訪れとともに膠着状態に陥ってしまう。

 次の年、ロシア人と日本人たちは、経済的な理由から和解し、交易が始まる。

 ロシア人入植者は南方から穀物を得られるなら助かるため戦うより、交易する方が望ましく、

 日本人入植者は、毛皮が得られるなら極寒の半島で生活がしやすかった。

 そして、樺太と並び、コリヤーク半島も先住民、日露混在で所属不明の地となっていた。

 もっとも、樺太の人口の7割は日本人であり、

 3割は先住民であり、清国人とロシア人はわずかしかいない。

 コリヤーク半島の日露入植者も徐々に増えたものの、

 人口の9割を先住民が占め、日本人は1割も満たず、残りがロシア人だった。

 日本人やロシア人が強力な武器を持っていることを除けば、地の利で先住民であり、

 日本人とロシア人も海岸線の一ヵ所に集まり、

 大地から必要なモノを得て、祖国へ供給していたに過ぎなかった。

 

 日本の砦

 アザラシの黒い肉が炭火で焼かれていた。

 あまりの味に、好んで手を付ける者はいない。

 しかし、冬を乗り切るには、食べるべきであり、

 毛皮欲しさで獲って、肉を捨てるのは、あまり良いとは言えない。

 海に捨てれば、魚介類の餌になり、来期の豊漁が期待できるものの、

 少しくらい食べるのが道理といえよう。

 越冬中は、干し肉が増えるものの、

 ここに住む者は、氷漬けされた生肉も腐りにくいと、誰もが知る。

 内地から運ばれてきた米があり、毎日、少量ずつでも食べることができた。

 「ロシア皇帝ピョートル1世が亡くなったらしい」

 「では、ロシア情勢も変わるのか」

 「後継者不在で、皇妃のエカチェリーナ1世が継ぐらしいが」

 「いや、それも終わってピョートル2世の時代だそうだ」

 「じゃ ロシアの国政はどうなっているんだ?」

 「狩猟者の話しだと、有力貴族のドルゴルーキー家とゴリツィン家が幅を利かせ」

 「ロシア皇帝は傀儡化が進んでいるようだ」

 「それだと、ムガル帝国と同じか」

 「徳川幕府はどうなるかな」

 「清国に対応するのなら幕藩統合だけど」

 「幕藩統合になったら、関東を基盤にした徳川の屋台骨は、根底から崩れるだろうな」

 「そうはいっても直轄領の佐渡金山は、駄目だろう?」

 「いま、金を作っているのは、清国市場と直結している八島と、金山の南アフリカ」

 「そして、商品経済の進んでいる蝦夷と樺太の商藩だからね」

 「このままだと、内地の方が遅れた地域になっていくぞ」

 「蓬莱の方が商品経済が進んでいると聞くが?」

 「あそこは、禁忌だけど、セメントと煉瓦が良いからな」

 「木の方が肌触りが良いんだけどな」

 「外側をセメントと煉瓦で、内側を板にすればいいだろう」

 「問題はロシア軍だな。あいつらは攻めて来そうで怖いよ」

 「来年は、城郭を大きくすればいいだろう。それでロシア軍は大人しくなる」

 「だといいけどな」

 

 

 

 封建社会は、主従関係によって成り立ち、

 その忠誠は国家でなく、王に向けられ、

 権力構造も王権を支える機能を優先していた。

 王制は、なにモノにも左右されず、いかなる反対勢力も介在させない、

 上意下達と即時性と実効性において優れており、

 絶対王制は、その最たるものと言えた。

 しかし、残念な事にこの世に完全な統治者は存在せず、

 また、完全な臣下と領民も存在しなかった。

 社会的な軋轢と野心を解消すべく、権力構造の破壊と糾合が繰り返され、

 不正と腐敗を解消するため中央集権と地方分権が繰り返された。

 時に封建社会は、王位継承が一つの節目となった。

 それは、王に気分よって、臣下の地位安泰は決まり、

 どの継承者に付くかは、臣下の命運と直結していた。

 王位継承者が両立、または、乱立する場合、

 そして、王位継承者が存在しない場合など、様々な権謀術数と権力抗争が行われた。

 西欧諸国の目は、継承問題を起こしそうな中央の二国に注がれていた。

 その一つ、

 東欧ポーランド・リトアニア共和国は、1572年から国王を選ぶ国王自由選挙が行われ、

 権力分散の時代を迎えていた。

 血統上の権利と貴族の支持で国王が選出される。

 聞こえは、良いものの、貴族にとって都合の悪い国王が排除されるという事であり、

 貴族の支持を得るため、国王は貴族に対し妥協させられることを意味した。

 逆にいうと貴族にとって都合の良い国王が選出され、

 貴族の領民搾取も思いのままということにもなりかねなかった。

 また外国勢力は、次期王位継承に干渉していた。

 強権を発動しにくいポーランドの王権は低迷し・・・

 第9、11代国王は、絶倫王アウグスト2世の治世、

 列強は、毎度の如く、選挙に干渉し、貴族たちの欲に付け込んでいた。

 その結果、ポーランド・リトアニア共和国は、大北方戦争に勝利したにもかかわらず、

 戦利品を拡大できず、国力と裏腹に弱体化し、

 ポーランドは政策上の混迷を深めさせていた。

 

 

 もう一つ継承問題を囁かれていたの国は、オーストリアだった。

 神聖ローマ皇帝カール6世は、適当な嫡子継承者がおらず、

 娘のマリア・テレジアに皇位継承がなされつつあった。

 女帝の誕生に周辺国が介入しないはずはなく、

 フランスとロシアは、オーストラリアの皇位継承に干渉しようとし、

 イギリスも対フランス同盟を欲して、中欧諸国で画策していた。

 

 

 ワルシャワ

 街のポーランド人たちは、東洋の男たちを珍しそうに見ていた。

 ロシア人と一緒にいる日本人にポーランド人は手を出そうとはしない。

 これがロシアとポーランドの関係であり、現在のポーランドの問題でもあった。

 幕府の遣欧使一行は、ワルシャワに到着し、当面の宿舎を決める、

 極寒のシベリアを抜けて温かく感じたのか、毛皮のボタンを外し始めた。

 「・・・フランスから日本人が迎えが来るはずだがな」

 「到着予定は、二日後だったから、こっちが早過ぎたんだよ」

 「馬でシベリア横断は、辛過ぎるよ」

 「そうだな。陸路の大陸横断は寒くて厳し過ぎる」

 「せめて温暖な清国を横断できるならね」

 「清国か。シベリア横断自体が清国に対する牽制みたいなものだからな」

 「雍正(ようせい)帝が日本と敵対する可能性は、そんなに高いのか?」

 「いや、対日参戦で苦戦し手間取ると、漢民族の反清運動に発展しかねないはず」

 「清国軍は大軍だが、侵攻能力があるだけで、実行力となっていない」

 「どこもかしこも問題だらけか・・・」

 ポーランドの宿舎の下、路地裏で帯刀した怪しげな男たちがヒソヒソと話し、

 走り去っていく、

 自分たちを狙っているのかと思えば、そうでなさそうであり・・・

 「・・・この国もな」

 「国民を見ると自由みたいだ」

 「傍若無人な王より、傍若無人な貴族の方が庶民の受ける打撃が大きいと思うが?」

 「それは、王が貴族と庶民のどちらの味方をするかにもよるよ」

 「板挟みの貴族が王と庶民のどっちの味方をするかにもよるな」

 「強い方の味方をすると楽なのは確かだ」

 「しかし、いくつかの民族が一緒に集まって国を作っている」

 「強権を発動できないと不都合が多いだろう」

 「貴族によって王が選出されると、強権を発動し難いだろうな」

 「中産階級が自由を謳歌できるならいいが、国防を考えると厳しいな」

 「おれは自由がいい・・・」

 「ところで、針ヶ谷。フランスの新撰組に入る気なのか?」

 「ああ、そのために横須賀のフランス人町で、剣術を教えながらフランス語の勉強をしたんだ」

 「四男坊は、自由なんだな」

 「予備の予備の予備だからな」

 「西洋サーベルは、細長くて、速いそうだが?」

 「ふっ 無住心剣流(むじゅうしんけんりゅう)に敵はないよ」

 「1対1で強いだけだろう。1対多になる覚悟もしとかないとな」

 「無住心剣流は、そういった剣術じゃないよ」

 「強かったのは、爺さんじゃなかったのか?」

 「負けないよ。爺さんの名に賭けて・・・」

 

 

 オーストリア

 薄暗いワイン蔵は、ワインだけでなく、悪巧みも熟成させる。

 「カール6世は45歳。男子に恵まれることはないそうだ」

 「そんな年でもないだろう」

 「まぁ そういう事もあるさ」

 「フランスの枢機卿と何人かの貴族がマリア・テレジアに皇位継承を応援するそうだ」

 「その貴族の中にオルレアン家とコンデ公が入ってるのか?」

 「それは言えんが有力貴族だ」

 「条件は?」

 「フランス国内での権益強化だろう」

 「権益強化というより、ルイ15世の失態待ちだな」

 「フランスも内憂外患だな」

 「フランス国内事情は悪化しているらしい」

 「その方が権力の簒奪がしやすいわけか」

 「では、フランス国内の奸賊は、オーストリア継承問題を利用するつもりなのか?」

 「ああ、フランス人民は、ブルボン王朝に愛想を尽かし始めている」

 「植民地権益と、フランスとスペインの関税統合で持ち直していると聞いたが」

 「権益を切り崩さない限り、貧富の格差が広がるだけだよ」

 「どちらかというとプロシアが怖いがな」

 「いや、フランスは、まだ欧州最強だよ」

 「それでな、ルイ15世だけを失墜させる方が良くてな」

 「今度、日の本から遣欧使が来る」

 「フランス国内で日本の遣欧使が襲撃されれば、ルイ15世は打撃を受け」

 「フランスの某貴族たちは、日本との関係を強化できるし」

 「ブルボン王朝包囲を強められる」

 「それで?」

 「遣欧使の動きを追って欲しい」

 「なるほど・・・」

 

 

 日本から出発した遣欧使は、シベリアを横断し、西洋に至り、フランスに入る。

 徳川幕府は、インド洋・大西洋の海路に頼らず、

 陸路の移動でフランス到達が可能か確認すべく、

 幕府の遣欧使をロシア人のコサック(皮革業者)と組ませ、実行させていた。

 外交ルートとパイプは、国力に換算することもでき、

 日の本と南インドとの関係が悪化した時に備えての緊急避難だった。

 そして、外交のパイプは、江戸幕府の権力基盤の保障にもなった。

 征夷大将軍の地位は、天皇に認められた武士の頭目でしかなく、

 その権限は、名目上、日の本の国内に限られ、

 国外に対する国権の代表は表向き、天皇家だった。

 徳川幕府の外交交渉は、謁見行為であり、

 三大陸国家連合との戦争も売られたケンカを買っただけに過ぎず、

 対印、対清、対欧の交渉で積極的な外交を展開できないでいた。

 幕府は、天皇家と外交権の委譲で折衝を続けており、

 天皇家は、主導権を得ようと画策し、幕藩統合で外交権を委譲してもよいと抵抗していた。

 

 この頃、日の本の人口2600万ほどだった。

 諸外国視点でいうなら、日の本は、金銀の持ち出し制限で市場規模が小さいと見られていた。

 とはいえ、日の本は、フランス、スペイン、南インドと同盟関係であり、

 三海洋国家連合の一翼を担い、

 刀剣類の品質と生産力で一流。

 大砲と銃の品質で並み生産量で一流、

 船の品質と生産量で並といったところだった。

 なので陸路で横断する幕府の遣欧使節団と敵対するのは面白いと言えず、

 各国とも日本と外交ルートの成立は、望ましいと考えられていた。

 幕府の遣欧使は、ロシア帝国に貢物を送った後、ポーランドへ移動。

 フランスに足場を作っていた日本人と合流し、

 ポーランドから神聖ローマ帝国を縦断し、フランスに到達する。

 

 

 フランス

 日系人は、独自のヒエラルキーとテリトリーを得ていた。

 それは、糞尿の街パリを花の都に変えた力であり、

 臆病なほど保守的で大勢側に付きやすく、

 ルイ王朝に忠誠を誓う事で得られた地位だった。

 それは、三大洋国家連合の一角としての利権共同体である事で生じた特権であり、

 フランスから見て日本は、インド圏を挟撃できる位置に期待していた事も含んでいた。

 フランス・神聖ローマ帝国国境

 「日本の遣欧派遣団ですね」

 「はい」

 「銃士隊です。迎に来ました」

 「お迎え御苦労さまです。新撰組が来ると思っていましたが」

 「新撰組は、行政官の護衛で、ボルドーへ向かった後でしたので、我々しか・・・」

 「随分と多いですね」

 「反三大洋国家連合の画策があると情報を掴みまして」

 「そうですか、フランス領内に入れば一安心です」

 「いえ、狙うとしたらフランス領内に入ってからでしょう」

 「まさか・・・」

 「残念ながら1エキュ(銀貨)あれば、一日一人雇えますし」

 「10エキュなら人殺しを雇えますからね」

 「10エキュで・・・・」

   ※ 1エキュ=3000円

 「・・・その気になれば外国から来た人間でも即席の私兵軍を集められます」

 「そんな・・・」

 「まぁ 安心してください」

 「我々 銃士隊は、訓練されていない農民がいくら集まっても蹴散らせますよ」

 「「「「・・・・」」」」

 欧州最強のフランスは、社会全般でモラルが低下していた。

 それは、貧困層だけにとどまらない。

 むしろ、貴族の皺寄せの貧しさから犯罪が多発したとも言えた。

 貴族は、己が私財を守ること、搾取することに熱中し、

 名誉を賭けた決闘は、年平均235人の死者を出すほどで毎日のように行われ、

 死に至らない場合を含めると数倍に達した。

 フランス陸軍は、王権から独立し、まともな装備もなく、

 指揮官は、水増し兵士の給与で私腹を肥やしていた。

 フランス王が信じることができる軍は、宮廷費で維持された私兵部隊だけという惨状だった。

 新撰組は、日本人街の自衛組織を兼ねて、街の負担だったものの、

 一般的なフランス軍よりモラルが高く、王の信任を得ていた。

 フランスの農民は、農主、領主から税を取られ、教会からも税を取られていた。

 複雑な土地では、複数の領主から二重三重に税を取られ、

 さながら生き地獄のような社会が作られていた。

 貧困層は、奪わなければ、生きていく糧を得られなくなり、

 街なら強盗、沿岸なら海賊、山野なら山賊といった選択を迫られていた。

 もっとも、中世の治安は、多かれ少なかれ似たようなものであり、

 単にフランスが悪化していただけで、五十歩百歩でしかなかった。

 

 

 パリ郊外

 銃声が響き、

 剣と剣が弾かれ、鍔迫り合う、

 日頃から鍛錬している銃士隊は、農民上がりの野盗に1対1で勝り、

 野盗たちは、大人数で夜襲を仕掛けたにもかかわらず混戦に陥り、苦戦していた。

 「日の本の遣欧使を守れ!」

 「「「おお!」」」

 銃士隊の鉄壁の守りに寄せ集めの強盗たちは、たじろいだ。

 野盗たちは、奇襲に失敗した時点で優位性を喪失しており、

 戦いの天秤は、精鋭の銃士隊へ傾いていた。

 特に遣欧使の用心棒は、襲撃を察知するだけでなく、

 無類の剣捌きを見せ、野盗を寄せ付けない。

 野盗が崩れ落ち、

 サムライは、静かに剣を拭う余裕を見せた。

 血糊の下から木目状の刃紋が姿を現し、野盗たちを怖気づかせる。

 「・・・もう、退いたらどうだ?」

 「「「「・・・・」」」」

 サムライと銃士隊は、命より名を惜しみ、

 野盗たちは、金より、命を惜しむ、

 そして、割が合わないと気付けば退いていく、

 「やるな」

 「・・・・」

 「俺は、アラミス。お前の名は?」 銃士

 「針ヶ谷 巴 (はりがや ともえ)」

 「ハ、ハリガ、ヤ、い、言い難いな」

 「トモエでいい」

 

 

 

 大国の健在は、周辺国にとって脅威だった。

 清国は、比較的優れた皇帝が続き、満州族の漢民族支配は強まっていく、

 しかし、それは、大多数を占める漢民族への妥協の産物であり、

 北狄(ほくてき)支配の清国に傍迷惑な中華思想が刷り込まれていくことにもなった。

 清国で中華思想が強まるにつれ、日本との間で朝貢問題も大きくなり、

 5代 雍正(ようせい)帝の治世・・・

 八島(舟山)諸島

 産業が大きくなり収益が増えるに従って八島の価値は、高まっていた。

 価値に比例するように星型城塞は、増築が続いて、幕府の負担も増し、

 際限のない八島投資と外交処理は、徳川外交最大の懸念事項となっていた。

 八島所司代は、戦争回避のため、清国の内政と深くかかわり、

 さらに三海洋国家連合のフランス、スペイン、タミル、マラヤラムの商館も並べ、

 日本人だけでなく、白人、インド人が増え、国際外交戦略でも清国を牽制し、

 八島は、人口30万を超える国際都市となっていた。

 「最近、木炭や木材の価格が高騰しているようだ」

 「いくら大国でも鄭和型ジャンクガレオン船を何十隻も建造していたら森林は減るだろう」

 「どいつもこいつも、欲の皮突っ張らかせて、ぼったくろうとしてるんじゃないのか」

 「物価が上がれば材木も高騰するよ。当然、日本刀も高騰する」

 「まぁ 貧困層は、ますますモノを買えなくなり、貧困層になっていくわけか」

 「匪賊は減らないな」

 「清国が匪賊対策で、戦争しようとしなければ良いがな」

 「戦争するなら、漢民族弱体化のためだろう」

 「大敗すると清国の権威を落として、権力基盤が崩れる可能性もあるがね」

 「対日戦で、船ごと漢民族を沈めてしまえば、清国も安泰かも」

 「それだけは、防ぎたい」

 「だが清国の脅威を利用して幕藩統合を進めることができるかもしれない」

 「取り巻きが臆病だからな、将軍吉宗様では無理かもしれぬな」

 「中興の祖で駄目なら、改革などできまいよ」

 「上が血を流さずとも出来ることを先延ばしすれば、下は血を流して起こさなければならなくなるのに・・・」

 「理を追うと殺される。情に流されると自滅する。意地を通すと殺してしまうからね」

 「しかし、清国の脅威を利用して改革とはな」

 「そういう世界だと外圧でも利用しなくちゃ」

 「国内に改革勢力を作るより、穏便に済ませられるよ」

 「商藩、島津、長州は、その気じゃないのか?」

 「関所にうんざりしている庶民は多いさ。イザとなれば蓬莱も・・・」

 「入りたがってるの?」

 「まぁ 共和制なら妥協できると思ってる勢力はいる」

 

 

 西洋は、大航海で世界を目覚めさせ、

 東洋は、中華圏という単一で最大の帝国を誇っていた。

 そして、中洋は、人口比で世界の中心だった。

 釈迦帝凰以降、

 歴代帝凰の言語統合政策は、暗黒期であると同時に国家群の盤石な礎を作り上げた。

 18世紀、インド大陸は、9言語にまで統合され、

 国家群は、欧州諸国を超えるほどの国力を有し、

 海外へ船出できるだけの社会基盤が作られていた。

 とはいえ、大陸は、資源が足り、

 国力が大きいほど内需に満足し、海外に依存せずに済んだ。

 インド人の目を世界へ向けさせたのは、皮肉な事に西洋から来たバスコダガマであり、

 タミルとマラヤラムが海外へと船団を組ませたのも、

 ムガル帝国の脅威から逃れようとしていた南インドの都合に過ぎなかった。

 一旦、海外に莫大な利権を構築すると、インド諸国の海外雄飛も継続される。

 インド諸国が世界を支配しきれなかったのは、いくつか理由があった。

 インド人が森林を伐採し尽くすことを躊躇したこと、

 また、狡猾であり、利己主義であること仲間内の疑心暗鬼を広げ、海外覇権の障害になっていた。

 そして、ムガル帝国の分裂後、南インドの海外依存の意欲を僅かに低下させ、

 ベンガル王国が船団を海外へと向けさせた。

 ベンガル海軍 ダウ・ガレオン船

 「ベンガル王国がロシア帝国やオスマン帝国と国交を結ぶ事で、何か利益が得られるのか?」

 「利益が得られるかもしれないから行くんだろう」

 「まぁ 三海洋国家連合とも三大陸国家連合とも事を構えたくないわけか」

 「余った国がロシア帝国とオスマン帝国に行くのは安直過ぎないか」

 「あと、中欧諸国とも国交を結んでもいいだろう」

 「やれやれ・・・彼は?」

 陣笠を被り、腰に日本刀を差した男が立っていた。

 陣笠は、簡素な円錐だったものの、和紙、皮、鉄皮を幾重にも合わせ、

 鉄砲玉を逸らすこともでき、

 陣笠を盾の代わりに使う流派もあった。

 「日本の傭兵だよ」

 「日本人は、欧州に足場を持っているから通訳にもなる」

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 日の本は、幕と藩の寄せ集めから、国家統合の共和制に移行できるでしょうか、

 釈迦帝凰の西遊記は、地球を西に向かって一周してしまいそうです。

 日の本の盟友フランスは、国内事情がヤバそうです。

 日本人街は、どうなるでしょうか、

 ちなみにフランス王の銃士隊は4つ、

 ルイ15世 − 銃士隊  - 黒銃士隊 約100人

                - 白銃士隊 約100人

                - 新撰組(日本人) 40人

                ‐ ヴィシュヌ隊(タミル人) 20人

 革命前の新撰組は、三銃士のような活躍をするでしょうか、

 マスケット銃が増えて日蔭者となった刀剣類は、最後の花を咲かせられるでしょうか、

 

 

 前途拗々(ぜんとようよう) 将来の展望が拗れ拗れてるという意味です (笑

 

 

 

 

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