月夜裏 野々香 小説の部屋

    

架空歴史 『釈迦帝凰』

 

 

 第11話 『元祖、多国籍産業は』

 フランス

 封建社会は、主従関係で成り立つ、

 その世界は、国益でも法でもなく、主君の私利私欲に服従する関係のみが重視され、

 国籍、人種、宗教、言語、文化を超える、

 ブルボン王朝の封建社会が最後の灯を煌めかせようとしていた時代、

 ブルボン王朝と主従関係を結び、己が人生とフランスの歴史を紡ぐ者が現れる。

 フルーリー枢機卿と立身出世を望む日本人たち

 「いま、台頭しようとしている議員勢力は、国家と国益を標榜し、ブルボン王朝を蔑ろにしている」

 「国家国益など名ばかりの建前でしかない」

 「人と人の関係は、主従関係で成り立ち、全ての現象は、権力抗争の結果に過ぎない」

 「パリ高等法院が建言権を得れば、王権に対抗し」

 「私利私欲を果たす己が牙城とするではないか」

 「帯剣貴族に権限を渡せば、私利私欲に走り、己が牙城とするではないか」

 「牙城とは、結局のところ、己が目的のための主従関係ではないか」

 「これは、ブルボン王朝に対する明確な反乱であり、逆賊行為である」

 「貴族と民主が声を上げるたびにフランス王朝は、弱体化している」

 「諸君! フランス唯一の権力者、ブルボン王朝に付き従い、功名を上げ、出世するのだ」

 「「「「おー!!!!」」」」

 パチ パチ パチ パチ パチ パチ 拍手

 

 

 パリ

 日本人の入植により、下水道は広がり、道路が整備され、

 花の都と言われる街並みが広がり、日系人の財力も大きくなっていく、

 新撰組のダンダラ羽織はパリの名物であり、

 剣を斬り付けずとも相手を捕らえ、

 フランス人以上に法の裁きを順守すると有名になっていた。

 綺麗になった街路のカフェテラスで、フランスの若者たちが政治に付いて語り合い、

 様々な政策と討論が繰り返され、一つの潮流を作り出そうとしていた。

 フランス人と日本人

 「日本人は、結束が固くていいな」

 「少数派だからね」

 「フランス人の敵は、ほとんどの場合、フランス人なんだがな」

 「そういえば、貧困層が増えたみたいだ」

 「日本人は流通を握ってるだけあって、よくわかるじゃないか」

 「上が厳しいと大変だろう」

 「まぁ 横の繋がりで身を守ってる場合もある」

 「横の繋がり?」

 「ああ、フリーメイソンがそうだな」

 「へぇ〜 どんな組織?」

 「まぁ 日本は自然と作っているようだがね。互助会みたいなものだ」

 「こういう時代だと、特に会員が増えやすい」

 「フリーメイソンの場合、規約が作られているせいか、国全体に広がってる」

 「ほぉ・・・」

 フランス日系社会とフリーメイソンの繋がりも作られ、

 日系人がフランス社会に溶け込みやすい状況が作られていた。

 

 

 場末の酒場、

 怪しげなイギリス人とオーストリア人

 「ちっ 異邦人の癖にブルボン王朝の番犬どもが・・・」

 「異邦人だからこそ、忠誠心がある場合もある」

 「しかし、民衆に自由主義勢力を広めたからといって、成果は、今一つだな」

 「ん・・・暴動は鎮圧されるからな」

 「このままだとフランスの財政は、立て直されるかもしれない」

 「なんとかフルーリー枢機卿を失脚させるか」

 「しかし、彼より優れた宰相が現れるかもしれない」

 「オーストリアは継承問題で困ってる。いまはフランスに一時の混乱でも欲しい」

 「それともフランスにスペイン支配下のイタリア争奪戦をたきつけるか」

 「イギリスがジブラルタルを占領できていたら可能だったかもしれないがな」

 「スペインは大西洋の制海権で弱体化している」

 「スペインが地中海で覇権を伸ばすなら、自然とフランスと衝突するだろう」

 「じゃ フランスを煽って地中海で覇権を伸ばさせればスペインは怒るかもしれん」

 「しかし、フランスは、日本人を利用して、スペイン支配を強めようとしている」

 「同じブルボン王朝だからな」

 「下は違う」

 「王権と民衆は、別物だよ」

 「関税をなんとかできてもフランス人とスペイン人は、水と油だ」

 「だが、フランスからスペインに持っていくとき関税がないのに」

 「スペインからフランスに持っていくとき関税がある。小さな摩擦ではない」

 「力関係だろう。それがフランス財政を緩和させている」

 「力関係は、軋轢となって同盟を別つだろう」

 「突け込めそうか?」

 「そうだな・・・」

 「面白くないがスペインにベネチアを占領しないかと囁いてみるか」

 「そんなことになったら、オーストリアは困るだろう」

 「だがフランスは確実に介入して、フランスとスペインは仲違するかもしれない」

 慌てた男が寄ってくる。

 「おい、まずいぞ、俺たちの事がばれたかもしれない」

 「何だと?」

 「五日前、カレーに伝書鳩が届いた」

 小さな紙切れが渡される。

 「アメリカ東海岸を独立させたがってるやつが、イギリスを弱体化させたがってるらしい」

 「それが、なんで・・・まったく・・・」

 「そいつが俺たちの情報をフランスに売って、独立資金にするらしい」

 「馬鹿が、せっかく作った機関がズタズタにされるぞ」

 「いつ来るんだ?」

 「セーヌ川を遡るから、あと二日だな。船はトラブーだ」

 「途中で殺るしかないな」

 

 

 日本人のフランス入植は、フランス人の剣に対する認識を改めさせていた。

 個人の力量を嘲笑する銃に反発する勢力は、少なからず存在し、

 懐古主義なのか、パリに公営の道場を作らせてしまう。

 使用料さえ支払えば、誰でも利用でき、他流試合も本人同士の自由だった。

 そして、決闘騒ぎで貴重な手足を失っていたブルボン王朝も飛び付く、

 木刀の使用が義務つけられた公営の道場は、第三者の目が多く、

 公平な戦いができると、決闘の場として使われる。

 フランス人と日本人が決闘の様子を見ていた。

 公開決闘は、エゴとエゴの決着を付ける場であり、

 法的手段で物事を決める裁判以上に人気があった。

 そして、賭けの対象にさえなり、人気も上がっていく。

 

 無住心剣流(むじゅうしんけんりゅう)は、陰流・新陰流の流れを汲んでいた。

 禅を修養し、内面的な精神状態における結果として剣が振るわれるため、

 その極意は、目に見える技より、その内面的な精神状態に求められた。

 勝つことより己が死生観を直視し、

 勝ち逸る対戦者の気持ちと策を見透かしてしまう。

 精神状態が良ければ、相手の剣捌きさえ予見してしまう。

 相手より常に上の精神状態を保つため、

 さながら店先で、どうやって盗みをしようと考えている子供を見ているような錯覚を覚える。

 そう、同門同士の戦いとなると勝ち逸る気を読まれないよう動き、

 互いに策を弄することもできず “相抜(あいぬ)け” と呼ばれる睨み合い、

 そして、相打ちといった現象も起きた。

 !?

 対戦者の目と素振りで最初の一閃を払い、

 木刀の先端をフランス貴族の喉元に付ける。

 「ま、参った・・・」

 体格で勝り、剣技の鍛練に明け暮れたフランス人の猛者をして、

 “なぜ、トモエの剣が強いのかわからない”

 そう言わさせしめた。

 それが無住心剣流と戦って負けた者の感想だった。

 無住心剣流は、精神修養と剣技の鍛練の二重で極めなければならない、

 人が流派を選ぶのではなく、流派が人を選ぶ剣だった。

 そのため、日の本の本国でさえ、無住心剣流は衰退しつつあった。

 「トモエ。仕事は終わったか?」

 決闘の代行は、実入りよく懐が温められた。

 寝取った男に味方し、

 寝取られた男を負かしたのは、良心が痛む、

 没落貴族のなれの果てと言えなくもない。

 「アラミス。どうした?」

 「銃士隊の仕事だ。手伝わないか?」

 針ヶ谷 巴 (はりがや ともえ)は、フランスの銃士隊であるアラミスと仲良くなり、

 まだ本決まりとなっていない新撰組と行動するより、

 フランス銃士隊のアラミスと行動を共にすることが増えていた。

 「今度はなんだ?」

 「イギリスの間者連中が動くらしい」

 「情報屋を迎えに行ってくれだと」

 「そんなにイギリスの間者がいるのか」

 「同じ白人だからな。日本人と違って、フランス語を話せたら、分からなくなるよ」

 「しくじると、暴動が増えるし、フランスとスペインの戦争にもなりかねない」

 「それは、蕎麦が値上がりして困る」

 「ふっ そういうことだ」

 銃士アラミスは、トモエを銃士2.5人分と計算していた。

 戦時は量が求められ。平時は質が求められる。

 権力者の謀略を目立つことなく、闇から闇へと果たしていく、

 一騎当千の少ない人数(費用)で最大の成果(利益)を上げる、

 平時、信用のできる銃士は、最強の切り札だった。

 そして、日本の新撰組は、フランス民衆を敵に回すことを恐れ、

 殺さずの技も訓練され、敵を捕らえたいときに最適だった。

 

 セーヌ川の岸辺

 実り豊かな田園風景が広がっていた。

 フランスは欧州でも豊かな穀物生産を誇り、

 兵力動員数に反映させることができた。

 しかし、絶対王政の最盛期ルイ14世の時代が過ぎ去り、

 ルイ15世の時代、絶対王政の終焉を迎えていた。

 とはいえ、王権を支持する貴族層の搾取は増え、

 特権階級である貴族たちの見栄のため多くの庶民が飢えで殺される。

 フランスの貧富の格差は広がり、民衆の怒りは燻ぶり、

 その怒りの矛先は、王権へ向けられていく、

 そんな生かさず殺さずの生き地獄のフランスで、海賊稼業、山賊稼業は人気があった。

 アトス、ポルトス、アラミス、トモエは、一見、平穏な風景の中を馬に乗って進んでいた。

 「トモエ。銃は大丈夫か?」

 「持っているが得意ではないな。乗馬もだがね」

 左の腰に日本刀、右の腰に短筒があった。

 どちらも重く嵩張り、

 荷物と一緒に馬に負わせたくなる。

 しかし、武士の誇りと、身の安全を守る二つの気概が、この二つをぶら下げさせた。

 「周囲に気を配ってくれよ。最強の剣術家が撃ち殺されては笑えんからな」

 「そうだな」

 「・・・国民が飢えていてもブドウ畑は多いんだな」

 「水代わりにワインを飲むからな」

 「国民に行き渡るだけの穀物はあるよ」

 「金と交換されていないだけだな」

 「日本はどうなんだ」

 「まぁ だいたい、同じだな」

 「世の中そんなもんだ」

 セーヌ川沿いの田園に煙が立ち昇る。

 「・・・なんだ?」

 「行こう、トラブーかもしれない」

 1本マストの前後に帆のあるカッターが川岸に停泊し、

 数十人の野盗に襲撃されていた。

 4頭の馬が駆け抜け、

 「トモエ、怪我だけだ。致命傷は負わせないでくれ」

 「了解した」

 4人は、カッターに乗り込もうとする野盗たちを襲撃する。

 襲撃者側は、攻撃されると思わず、

 最初の銃声で首謀者が撃たれ、十数人が逃亡し、

 残党の十数人も命が惜しいのか、勢いに負けて、次から次へと逃げていく、

 「駄目だ。間に合わなかったぞ」

 「船の乗員たちは全員が殺されていた。

 「いいんだ。トモエ。用があるのは、こいつらの方だ」

 アトス、ポルトス、アラミスは、首謀者たちを捕らえていく、

 「!?」

 「全部、芝居でな」

 「銃士隊と新撰組はいつも見張られていたから俺たち4人だけで密かに動いたわけだ」

 「教えてくれよ」

 「知らない奴が一人いた方が疑われずに済むだろう」

 「トモエの真似をしてればいいんだからな」

 「・・・・」 憮然

 

 

 スペインの没落は、制海権の喪失だけが原因でなかった。

 海外領土からの収奪に頼り、

 改革を行う勢力を排斥したことで国内産業を衰退させてしまう。

 スペインは、新大陸に莫大な富を有しながらも、欧米列強との国力差は縮まり、

 ついには逆転され、フランスと同君同盟を結ぶことで勢力が保たれた。

 スペイン継承戦争は、三海洋三大陸にまたがる世界大戦へと発展しつつも、

 スペインは、辛うじて勝利する側に立つことができた。

 しかし、その後もスペインは改革されず旧態依然の封建社会のまま取り残されていく、

 そして、イギリスのみならず、

 欧州各国が欧州最強同盟のフランスの財政難とスペインの衰退を増長させ、

 フランス・スペインを離反させる画策をしていた。

 欧州諸国は強国となると、イタリア支配を望み始める。

 それは、欧州全域を支配下に置いたローマ帝国の再興であり、

 ローマ皇帝は、欧州最大の称号だったからといえた。

 この時期のイタリア半島は、ヴェネツィア共和国を除く、

 ローマ教皇、トスカーナ大公国、ナポリ王国、ミラノが、スペインの属国か、保護領となっていた。

 イタリア諸王国がスペイン軍の駐留を甘んじて受け入れたのは、地続きでないからであり、

 それい以上の理由はなかった。

 ローマのイタリア人たち

 「スペイン人め、碌な産業を興せない癖に領土拡張したがる」

 「ミラノは、オーストリア側に付く算段をしてるらしい」

 「ヴェネチアみたいに独立したいものだ」

 「イタリア半島を統一しない限り無理だろう」

 「スペインは、ヴェネチアも狙っているんじゃないのか」

 「まさか、スペインは、フランスに首根っこを押さえ付けられてるよ」

 「それは、フランスの国力が勝ってるからだろう」

 「いまのところはな、フランス財政は大変らしいし」

 「ローマもだ」

 

 

 ヌエバ・エスパーニャ副王領

 スペイン領フィリピン

 日本人街は、人口数万人規模の大きさになり、

 この地で建造されるガレオンは、日本人の職人で造られるようになっていた。

 スペインは、三海洋同盟のためか、日本の海運力を恐れてか、

 日本人を排斥するより利用する、

 この地で帆船が建造されるのは、最高峰の船材チーク材が多かったこと、

 そして、マニラ湾という良港があったことに過ぎない。

 日本人は、フィリピン以外にも良質のチーク材を求め、

 東南アジアの各地に日本人街建設し、拡大していた。

 260t級スクーナー型帆船(全長50m×全幅8m)が出港する。

 ガレオン船より早く建造でき、

 複雑な風に対応しやすく速度と機動性が良いことから武装は少なくて済み、

 その分、積み荷を増やすことができた。

 そして、短期の投資で回収率の良い帆船は、日本人に好まれた。

 日本人たち

 「この船の最初の積み荷は、チーク材か」

 「北方の商藩が欲しがってるらしい」

 「チークとエゾマツじゃ 格が違うからね」

 「そういえば、鉄か銅で船体を建造する話しは、どうなったのかな」

 「さぁ 内装だけでもチーク材にするつもりかな」

 「外装がチーク材なら買ってもいいけど、その逆はないな」

 「国内でチークが生えるインドが羨ましいよ」

 「必要なモノが国内に揃っているんじゃ 戦争が終わると出不精になりそうだな」

 「下のカーストは海外に出たがるんじゃないか。日本より厳格だからな」

 

 

 メキシコシティ

 新大陸発見前、2500万人いたとされるインディオは、

 スペイン人が持ち込んだ麻疹と天然痘など疫病によって命を落としていた。

 インディオは、スペインに反乱を起こし、

 小規模ながらも戦いを繰り広げていたものの大勢は決し、

 インディオは搾取されながら衰弱し、人口100万まで激減していた。

 一方、白人とインディオの混血メスティーソと、奴隷の黒人は増えていた。

 この時期、メキシコの銀は、世界の産出の半分を占めていたことから、

 スペイン人の入植は多く、同盟国の日本人商人も増えていた。

 日本人たち

 「大変な量の銀だな」

 「メキシコは銀で、南米は金だからスペインは、世界一のお金持ちだよ」

 「それがそうでもないらしい」

 「まぁ スペイン人は昼寝のし過ぎかもしれないが」

 「しかし、インディオが悲惨だな」

 「すめらぎ領は、インディアンと・・・上手くやっていないか」

 「それでも連合軍を作れる程度は結束している」

 「そういえば、すめらぎ領は大陸側に所司代を移したんだっけ」

 「まぁ 日本人が増えたし、北方にも広がっているようだ」

 「フランスとスペインに、すめらぎ領を占領されたりしないだろうな」

 「さぁ 日の本は三海洋連合だし」

 「いくらなんでも大砲や銃を持ってる国と戦ったりしないだろう」

 「だといいがね。インディオの様子を見るとそう思えなくなるよ」

 

 

 金持ちは喧嘩しない。

 他人の喧嘩で漁夫の利を得て儲ける。

 それは、富める国家も似ていた。

 しかし、個人と国家では、違いもある。

 安全な聖域に隠れ、祖国と国民を戦わせ、己が野望と権勢に利用する奸賊もいた。

 また、貧富の格差の底辺にあって、動乱を望む者も少なくなかった。

 貧困層は、例え、利用され、捨て駒にされるとしても、

 一途の望みを動乱に賭けるしかない、

 そういった貧困層を抱えている国家ほど、兵士を動員しやすかった。

 そして、戦争を利用し、弱者、無法者を淘汰し、軋轢を解消し、資産を再分配することもできた。

 過去において、支配欲と功名で戦争が行われた事もあった。

 しかし、次第にそういった傾向は失われ、

 経済的な理由から戦争が行われることが増えて行く、

 そういった移り変わりの中、

 支配欲と野望を求める地位のある権力層と、

 そういった立場にない庶民は、ストレス解消を安直な形で・・・

 北アメリカ大陸

 「王手角取り」

 「・・・・・」

 「今日の炊事も護空さんだね」

 「世之介・・・お前、将棋も強いんか?」

 「ふふふ・・・」

 白人と黒人の娘に挟まれた世之介は、得意満面。

 大陸横断のため世乃介は、物々交換用の物資を選んでおり、

 そのおかげか、支障なく、アパラチア山脈を越え、

 西の平原も越えられそうだった。

 バッファローの干し肉が串刺しで焼かれ、芳ばしい匂いをさせていた。

 「いや〜 晴天のど真ん中、四方を地平線に囲まれて指す将棋は、格別だね」

 「世乃介。毎日、毎日・・・病気になっても知らんからな」

 「若い生娘ばかりで病気持ちは選んでないよ」

 「・・・なんか、凄い羨ましいやつだな」

 「えへへへ」

 「ようやく、山脈を越えたと思ったら、だだっ広い荒野が永延と続いてんだから、どうなってるんだか」

 「大自然って感じでいいじゃないですか、インディアンも純朴そうだし」

 「とても、そうは思えんな」

 「白人と戦争してるからかな」

 「そのうち、すめらぎ領も白人に攻撃されるかもしれない」

 「黄色人種の方が勢力大きいし、三海洋同盟を敵に回せる国は少ないはずだ」

 「インドの権力層は白人系で三大陸の有力者で計算すると白人が強くなる」

 「世乃介。おまえ、詳しいな」

 「伊達に商売しながら、北アメリカまで来てないよ」

 「本当に商売してたのかよ」

 「座礁したところに俺がいて運が良かったんだぞ」

 「何を売ってたのやら・・・」

 「まぁ 人身関係かな」

 「はぁ〜」

 「俺たちは、国境と人種と宗教を越える世界市民だ。凄いだろう」

 「それが多国籍人身売買組合でなければな」

 「残念ながら俺、正直だから宗教の適性がなくてな」

 「悪かったな。宗教関係者で」

 「三海洋国家連合が北アメリカとアフリカの間を押さえてたから、いい商売になったよ」

 「あ・・そう・・・」

 「自分の利益のため生きて、殺される」

 「綺麗事の宗教関係者に聖戦に駆り出されて殺される」

 「そんなに悪いわけじゃないさ」

 「ここで領民の献身と国の成り立ちを話さなければならないわけじゃないだろうな」

 「あははは・・・」

 「しかし、この辺は、フランス領のはずだけど、フランス人は、ほとんどいないな」

 「フランス人の入植は、まだカナダか、ミシシッピー河口だよ」

 「じゃ 前人未到の北アメリカ大陸を横断するわけか」

 「ミシシッピーの主流なら奴隷を売ったことあったから、知り合いに会えるかもしれない」

 「・・・・」

 「狭い日本の土地を巡って殺し合ってたのに、海の向こうは手付かずの土地か・・・」

 「知ってたからって、領主は、大事な働き手を手放したりはしないだろうがな」

 

 

 

 インド大陸は、3つの勢力に分かれていた。

ムガル帝国 (北インド) 9350万    
ヒンディー王国 5100万 グジャラート王国 1360万 ベンガル王国 1870万
ウルドゥー王国 1190万 マラーティー王国 1700万
 
ドラヴィダ連合 (南インド) 5610万    
テルグ王国 2040万 カンナダ王国 850万  
マラヤラム王国 850万 タミル王国 1870万  

 南北の人口比は、ムガル帝国が有利だったものの、

 ベンガル王国がドラヴィダ連合に付くと勢力は7480万となり拮抗していく、

 もっとも人口を国力比で比較しやすくても、

 人口は、そのまま戦力比とならないこともあった。

 特に利己主義と相互不信が高まり、敵より味方が信じられなくなったときであり、

 だれが得をし、誰が損をするか保身で汲々となって、戦争できなくなる。

 ムガル帝国は、そういった時期を迎えていた。

 ムガル帝国と国境を接するテルグ王国とカンナダ王国は、用心していたものの、

 戦争続きだったマラヤラム王国とタミル王国は、勢力均衡で勝ち取った平和に酔いしれていた。

 カンナダ王国 (850万)

 日本人たちは、表意文字から変化した文字に馴れており、

 丸みを帯びたカンナダ文字に苦労していた。

 幕府公館 宗教関係者たち

 「文字は中国から、宗教はインドからか・・・」

 「インドで生きて考えないと宗教は難しいな」

 「二道五火説は、自然の循環だな」

 「二道は、再生する人の道と、再生しない神々の道に分かれる」

 「再生する人の道は、五火の段階で分けてる」

 「第1火で、死の世界、あるいは、生まれる前の世界の月にいて」

 「第2火で、雨となって大地に戻り」

 「第3火で、植物に吸収されて食物となり」

 「第4火で、食べた男の種となって、女と交わることで胎児となる」

 「第5火で、誕生で、その繰り返しだ」

 「魂みたいなものが、雨で地表に降りるのが微妙だな」

 「この際、魂は抜きにして考えた方がいいような気がするね」

 「んん・・・それだと、自然の循環が主で、魂の方は付属物のような印象になるな」

 「大体、言葉が今一つだと、インド人が、どの程度本気なのかわかりにくいよ」

 「むしろ理屈より、勢いで納得させられる部分もある」

 「そういうのは、幕府に戻った時、困るね」

 「幕府だって似たようなものだろう。声のでかいやつが勝つ」

 「そして、幕府と藩を腐らせる」

 「幕府か・・・どうするんだろうな。幕藩合体」

 「幕藩合体しないと、八島(舟山)どころ日の本も守れなくなってるんじゃないか」

 「木を伐れよ。艦隊を作れば、清国海軍に対抗できる」

 「日本と中国で同じ数だけ木を伐ったら、日の本は戦わずして滅ぶ」

 

 

 多くの者が郷土に残り大成することを願った。

 例え、生かさず殺さずの封建社会で、

 人権が著しく狭められた運命でも死ぬまで、そこで生きることを望む民は多い。

 人が生まれ育った大地を離れる時、

 それは、生きることも食うことも叶わない敗残兵となった時であり、

 そして、未来を見据えた時くらいであった。

 南凰(オーストラリア)大陸

 タミル王国が南凰大陸を発見したころ、幕府朱印船も発見していた。

 両国とも細々と上陸し、細々と入植し、

 やはり、細々と勢力圏を広げていた。

 タミルは、ムガル帝国の攻勢を挫いて、国内とアフリカ大陸に目を向けており、

 日本は、清国の脅威に対する備えと、既に足跡のある“すめらぎ”領に意識が向かっていた。

 どちらにせよ、南凰大陸の飲料水不足は、タミル人と日本人の入植を鈍らせてしまう。

 南凰大陸の北の島、亜夷(ニューギニア)は、暑過ぎて、すめらぎ領に人気を奪われ、

 新たに発見された北イザナミ島と南イザナギ島(ニュージーランド)は、環境が良く、好まれた。

 しかし、こちらも遠方であることから入植は、細々としたものだった。

 そして、幕府の支配が及びにくい南洋入植は、諸藩に好まれ、

 ひそかに船団を送らせることが多かった。

 そして、南太平洋上で二つの船団が擦れ違う。

 薩摩丸

 「長州藩の船ほいならんか」

 「いけんやら考ゆっこたあ同じらしかな」

 「ムガル帝国は、権力層がアフリカ大陸に避難地を作い」

 「日の本は、諸藩が南洋に避難所を作ってか」

 「それだけ、幕府のくびきが強いちゅうこっだろう」

 「そいどん、いい加減、幕藩合体せんと、日の本は空中分解しかねんぞ」

 「商藩と組む藩ならまだいいが」

 「豊臣の扶桑国どころか。清国、ロシアに通じて倒幕すう動きも噂で聞く」

 「諸藩も一旦勢いが付いたら止まらんだろうな」

 「ああ、止まらん」

 檻が完全に鎖されている時は、檻を壊すしかない。

 しかし、檻が半開きの時、

 諸藩の選択肢は増え、血を流すことを恐れる檻からの脱出組と、

 血を流すことを恐れず檻を破壊する倒幕組に分かれ、勢力が分散された。

 それは、幕府にとっては、時間稼ぎになった。

 外洋の噂は、日の本の民衆も聞くところとなり、

 知識は、民衆の選択肢も広げつつあった。

 幕藩体制という檻は、民衆の力でも崩される勢いを見せ始める。

 そう、日本民族の海外雄飛は、非徳川幕藩体制が可能であることであり、

 日本民族の海外雄飛は、日本国の弱体化も伴っていた。

 

 

 

 

 八島(舟山)所司代

 3月頃、国際色豊かな八島城下町は、ほのかな紅色に照らされる。

 桜の花は、殺伐とした日清関係を空気を和ませ、一時の安らぎを与えた。

 八島城塞は、平時は城郭で、戦時となれば要塞の地下へ移る計画で造られ、

 日本風の城郭を持ちながらも、星型要塞の機能を有していた。

 城砦備え付けの大砲の数と保有する銃の数は、日本有数であり、

 防衛力も日本有数と思われていた。

 とはいえ、清国雍正(ようせい)帝が本気で八島を攻撃するなら、

 八島城は落ちると計算され、

 問題は、征服王朝の清朝の屋台骨を支える八旗軍の安寧が保たれるかであり、

 海の戦いで騎馬隊を失うことの恐れが、清朝を怖気づけさせていた。

 そして、日本民族は、少数民族の支配層である満州族と組む油断ならない味方でもあった。

 花見の場

 日本人たち

 「今年も金銀持ち出し制限は変わらずか・・・」

 「「「・・・・」」」 どんより

 「やはり、幕藩合体しないと清国にやられそうだな」

 「幕府は、幕藩合体で徳川の権力基盤を公家に奪われ、失うことを恐れているのさ」

 「年月を失う方が、離反が増えて危険だと思うがな」

 「関所のない巨大な一枚岩のすめらぎ領に行きたがる日本人も増えている」

 「民衆は無知でないし、世界を知って比較している」

 「実は、そうでもないのに他の国の方が良く見えることもあるだろう」

 「徳川3代は、軽挙妄動な民衆に邪魔されたくなかったから鎖国しようとしていたらしい」

 「いまさら、それを言っても遅かろう」

 「それに世界から孤立するのは、自分の首を絞めるようなものだ」

 「世界は、広いよ。首が絞まるまで至らない」

 「そうかな。木を伐って船を作れば狭くなる」

 「木を伐り過ぎるとはげ山になるぞ」

 「次の三大陸国家連合との衝突で日本は、清国と戦いになる可能性があるだろう」

 「同盟を離脱すれば」

 「幕府が南アフリカ会社の金に、どれだけ頼ってると思っているんだ?」

 「佐渡金山の金採掘が増えたと聞いたぞ」

 「ああ、なんか、ポンプで水を汲み出したらしい」

 「ポンプ?」

 「よくわからんが、フランスやインドで造られたモノを真似したようだ」

 「どちらにしろ。商藩が生産する商品との交換で流れてしまうから足りんよ」

 「そういえば、商藩に脱藩する人間と領民が増えてるらしいな」

 「寒いところだが、連中は目端が利くし、このままだと、北が別の国になるかもしれない」

 「というより、北の商藩が強くなるかも・・・」

 「そうなれば、日の本はバラバラになる」

 「やはり、反幕勢力もいるのか?」

 「既得権で食ってる地侍は、そうだな。最大が徳川だよ」

 「潰すか潰されるかになるぞ」

 「だから、幕府は外地への流出に目を瞑っているのだろう」

 「将軍が日の本の空気が変わりつつあるのが読めないと騒乱になるぞ」

 「かもしれないな」

 

 

 北アメリカ大陸 北西域

 太平洋沿岸から1000kmの内陸、

 そこは、すめらぎ川の源流域に辺り、

 水源の源泉を押さえるため軍を駐留させ、日本風の城郭を建設していた。

 日本領すめらぎの東の果てを証明する城でもあった。

 白地に赤の幟。赤地に菊の幟。白地に葵の紋の幟が並んでいた。

 日の本の侍たちが領境を警備していた。

 「東のヌーベルフランスより、南のヌエバ・エスパーニャの方が成長してる気がするな」

 「すめらぎは、インディアンを丸抱えするからややこしくなるんだ」

 「まぁ 山に登れば従うだろう」

 「山登りに勝てればな」

 「だいたい、何かを決めるたびに山に登るのは・・・」

 見慣れない幌馬車4台が城門の前に現れ、

 旅人たちが城を見上げる。

 「ほぉ〜」

 「何者だ?」

 「おーい 日本人だ〜」

 「なにい?」

 北アメリカを縦断した山蔵一行が、すめらぎ街道の入口に到達する、

 この頃、日本人の入植人口は130万ともいわれていた。

 その勢力は、すめらぎ領の先住インディアン108部族を圧倒して最大だった。

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 豪州・東南アジア域もそろそろ書かないと、と思いました。

 ぽつぽつ入植がはじまってそうですが、白人たちと違って、植民地化は、遅いかもです。

 徳川幕府は縦割な地域主義を破壊し、幕藩合体移行を決断できるでしょうか。

 幕藩合体を俗っぽくいうと、

 足並みの揃わない70〜80の地主・大家が共同名義で再開発する感じでしょうか。

 そんなことするくらいなら滅ぼされえる方がいいみたいな。

 聞いたことがないので、難しいかも、

 

 

 スペインの改革の失敗は、

 「親父、土地を半分売って、紡績工場作ろうぜ!」

 「馬鹿もの!」

 でしょうか。

 

 

 多国籍企業(multinational corporation、MNC)

 複数の国に活動拠点を置く合法的な営利企業。

 

 多国籍人身売買組合(multinational trafficking association)

 複数の国に活動拠点を置く非合法的な営利集団。

 まぁ 多国籍産業の先祖は、アウトローの互助会でしょうか (笑

 

 

 

 

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第10話 『前途拗々』

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第12話 『産業革命と奴隷制度』