仮想戦記 『バトル オブ ゼロ』
著者 文音
第04話 ゼロの戦い編
1939年(昭和14)九月
独逸、スロバキアがポーランド侵攻。九月一日を持って第二次世界大戦始まる。
イタリア、米国は中立を表明。
日本、フランス、英国連邦国家で独逸に宣戦布告があいつぐ。
ソビエトがポーランドに進攻。独逸とソビエトによるポーランド分割占領の後、独ソ友好条約調印。
駐日英国大使館
「日本に求めることは、潜水艦狩りをしてほしい。それと英国植民地の保護をしてくれ。それと希少金属を英国に送ってくれ。英国籍の輸送船の護衛をお願いしたい」
「了解いたしました。世界各地の英国植民地並びに保護領にパレスチナ、ユダヤ人を兵隊としてお送りいたしましょう。我々が備蓄いたしましたタングステンをこれだけ英国にお送りいたしましょう」
「おーーー。これはすばらしい。戦車の砲弾にぜひ加工しよう」
「輸送引き受けですが、アメリカにお任せいたしても問題ないでしょうか」
「ふむ」
「われわれは、イタリアに疑心暗鬼をかかえております。イタリアが中立である限り問題ないのですが、イタリアと戦端を開きますとエルサレム信託地まで一日で到着されてしまいます。今は、海軍戦力を動かせないことを了承してもらいたくあります」
「もちろんだ」
「我々といたしましては、今まで独逸から購入していました工作機械の代換輸入先をたてたいと思うのですが、どこかございますか?」
「うーーむ。我が国がアメリカへ仲介を務めよう。いや、危急を要する案件だ。シンガポールから日本へ送り、シンガポールへはアメリカから取り寄せよう。もし、次回購入する必要があれば、最初に述べた方法でいこう」
「ありがとうございます」
同年十一月
ソ連がフィンランドに進攻。国際連盟よりソビエトを除名。
ラプラタ沖で、英独海戦。英国最初の勝利に歓喜する。
1940年(昭和15)一月
白い家
「英国との取引はどうかね」
「はっ。戦時体制に移行し、航空部品や鋼板などを我が国に発注しております」
「ふむふむ。我が国の工場に特需をもたらせたわけだ。よしよし」
「それが、食品工場には発注が入っておりません」
「なぜだ。囲い込み運動をやっていた国だぞ、食料は植民地からの移送か?」
「食料生産に関しては、我が国の先を行って追います。実際、食料自給率は国内生産だけでやっていける体制を整えております」
「我が国より食品生産が優れているのかね?」
「穀物生産は、大豆なるものを飼料作物として挟み込み、混合農法をさらに進歩させた形に進んでおります。この大豆は、飼料としてよし、食用油としてよし、牛肉の代わりとなるトーフステーキとしてよし、我が国からの牛肉輸入を必要としておりません」
「くっ」
「さらに、小麦は超短諫品種を採用し、単位面積当たりの小麦生産量は世界一レベルです。そのため、我が国から機械部品を輸入し、折り返しの便でマグヌードルを輸出させています」
「なんと、我が国の育種メーカーは何をしていたんだ」
「どうやら、日本から資材と技術が導入されたものとのことです」
「えーい、いまいましい英日同盟だ」
1940年(昭和15)三月
フィンランド、ソビエトを退けるものの国土の10%を失う。独逸に接近。
同年四月
独逸、デンマークとノルウェーに進攻。
デンマークがドイツに降伏。
同年五月
独逸、フランスに進攻するためにベネルクス三国へ進攻。
英国がアイスランドに進攻。
独逸、オランダ、ベルギーを降す。
同年六月
独逸がダンケルクを占領。現地の英仏軍の大半は脱出。
独逸がノルウェーを降す。
イタリアが枢軸国側で参戦。
パリ陥落(十四日)
ソビエト、バルト三国に進駐。
独仏休戦協定。
英国により残存フランス艦隊を自沈させる
同年七月
零式戦闘機。日本陸海空軍で制式採用。
名古屋工場
「急げ、九七式飛行艇に今まで生産した一一型零戦(翼端の折りたたみなし)をつみこめ、地球を半周するぞ」
「ロレンス元師に連絡せよ。こちらは零戦をすべて送りだしたと」
「はっ」
八月十日
ケント州
「ロレンス元師、何とかめどがつきましたね」
「なんとか、20、7.7mm機銃とその弾の生産を請け負ってもらった。次は、引き込み式主脚か。これは難しいな。こっから先は、規格のないものばかりだ。設計図通りに作ってもらうしかない」
「後は、イギリス空軍のハイオクガソリンで問題が発生しなければいいのですが」
「オクタン価が低い規格の戦闘機にハイオクガソリンを使うのは本来なら問題ない」
「しかし、ぎりぎりまで軽量化した零戦にハイオクを使うと急旋回をしたときに限界速度をこえ、ばらばらになるかもしれないか。設計者泣かせだな」
「英国空軍の計算では、500km/hの飛行機にオクタン価仕様が百でなく百二十のハイオクガソリンを使用した場合、最高速度が30km/hほど上昇するといわれました」
「機体の寿命が一カ月ほど短くなるだけで済めばいいんだが、なんとしても整備点検を徹底して、パイロットの確保に努めなければならない。機体なら補充がつく。しかし、今いるパイロット百名の補充はないだろう」
「イタリアが怪しい動きをしてますからね」
「戦闘機ならなくなったらスピットファイアを使えばいい。しかし、補充要員は送られてこない」
「これ以上は言っても仕方がない。第二十飛行中隊の存続をかけてやるだけだ」
メイドストーンの日本人街
「しかし、日本人街の地面をコンクリートで固めていたのはもしかして、我々が飛行場として活用するのを見越した上だったんでしょうか?」
「さあな、ロレンス元師が制式前の零戦をみて、この日本人街の設計図を見た後、決断したそうだ。その考えでいくとロレンス元師をスカウトした水瀬中将がいて、英国で補充部品を発注できる体制を作りえる人材でなければ、という過程にまでさかのぼらねばならない」
「ウィーーーン」
「お、空襲警報だ」
「俺たちの出番はまだか?」
「まだだ」
「英国の戦闘機で十分足りている。俺たちが相手をするのはMeじゃない、Doだ」
東京 統合本部
「空軍からの要求を中島、三菱、川崎に見せたが反応はどうだ?」
要望規格
爆撃機を護衛する戦闘機
機関砲 13mm四丁
最高速度550km/h以上
航続距離 二千キロ以上
操縦席を防弾
エンジンを防弾
防火装置
無線装置
エンジン 十八気筒仕様を前提とする
仕様ガソリン オクタン価100、オクタン価120でも使用できる耐久性を要求する
「どこも頭を抱えてましたよ」
「確かにな。しかし設計者の夢でもあるんだがな。英国から欧州大陸へ反戦、爆撃をする」
「長い航続距離と運動性能の二つを軽量化により零戦という形で達成した後に、長い航続距離と防弾性を今度は求められた。しかもハイオクタン価仕様。エンジンさえあればできるという設計者が出てきてくれたら何とかなるかもな」
ホワイトホール
「我が国の重要な港湾施設は南西部にあり、独逸の勢力圏と接しています」
「バックスは、港湾施設の一時的な封鎖を要求してるが、ロイヤルネイビーとしてその他策は?」
「英国海軍が責任をもって護衛任務をおいます」
バックス
「海軍の馬鹿どもめが、わが空軍には船舶の護衛に割く戦闘機はない。フランス防衛戦線で失った戦力のせいで戦闘機乗り千人の確保にもことかき、英国連邦から二割の派遣兵でしのいでいるのに。お前らのメンツだけで国をつぶすのか」
「レーダー監視兵にいっておけ、君たちのスキル上昇のみが救いだと」
カレー空軍基地
「爆撃機の護衛任務がないのはいいね」
「戦闘機乗りは、ドーバーに出て戦闘機が出てきたらその相手をし、戦闘機が出てこなければ、爆撃機に船舶を攻撃させる」
「ある意味、一種のフリーランスだね」
「大体数で敵軍を上回っているのだから、敵機がちかづいてくる限り押し切っているね」
「海上でなら、双方の飛行距離が拮抗する領域かな」
「このままの状態で、ドーバーの海上封鎖を続ければいいのにね」
「ロッテ戦法はいいね。このまま戦闘機による敵戦闘機のすりつぶしをつづければいいのに」
「国家元師様がまたろくでもない作戦を考えてくれるだろうね」
「やれやれ」
「それより、敵が海岸に張り巡らせた百メートル鉄塔と波長12メートルの怪電波はどうしたものかね」
七月十日
ビックベン
「我が国は、独逸からの屈辱ともいえる降伏勧告を断固拒否する」
正午からのBBCラジオ放送
「我々は、本日の国会採決においてドイツからの降伏勧告を満場一致で退けました。これは、自由を渇望するための戦いであり、自由にはそれを守る義務があります。自由を勝ち取るために我々は国民の皆様にご迷惑をおかけすることになりましたが、何としてもそれを成し遂げるつもりです。またそれを国民の皆様が達成できるだけの勇気と能力を持ちえてるものと信じています。
そしてわれわれは、そのために今日より二十番目の飛行場を運用いたします。ぜひとも国民の皆様の協力を期待しています」
「やっと俺たちもお披露目か」
「さあ、やってきなさい」
七月十九日
バックス
「本日、わが軍の戦闘機であるハリケーン十機を失いました」
「対する敵の損失は?」
「戦闘機一機、その他四機です」
「くうーー。我慢だ我慢」
七月二十五日
バックス
「ドーバーに向けMe四十機編隊接近中。敵、高度六千メートル」
「第32中隊、第615中隊、ドーバー通過中の輸送船のために迎撃に向かってください」
「了解、ハリケーンを出します」
ドーバー上空
「こちら、109、敵と戦闘の末、燃料が切れた、引き上げる」
「こちら、ハリケーン。フルスロットルによりガス欠。帰還する」
「くっ、Ju87編隊が石炭輸送船に向かった」
「双方の戦闘機が戦ってくれたから、俺たち、爆撃機乗りは妨害なしで輸送船を襲うぞ」
英国船団、ドーバー海峡通過中に攻撃を受け、十隻が被弾。夜間を除き、海峡通過禁止令が発令。
「ふー。沈没寸前までいったか、海軍のアホめ」
「雷撃機がないから船長にしてみれば、上空さえ、気をつければいいと海軍が押し切ったがな。今日の結果は、無残だ」
「ついに、海軍もメンツどころでなくドーバー封鎖に踏み切らされたか」
「ただし、こちらの戦闘機はスピットとハリケーンがそれぞれ三百機しかない。厳しい」
同年八月一日
ベルリン官邸
「ハイル、ヒットラー」
「ゲーリング元師、今日私が言わんとすることが分かるかね?」
「英国に鉄槌を」
「わかっていればよろしい」
「では、これより爆撃機(Ju、Su)千機、急降下爆撃機(Do)四百機、戦闘機(Me109,、Fw190)千機、戦闘爆撃機(Me110、210)四百機をもって英国空軍を黙らせてきます」
「頑張りたまえ、君に栄光あれ」
バックス
「本日の損失七機。敵機十六機迎撃」
「まだ我慢だ、我慢。レーダーだけが頼りだ」
「損傷のひどい一中隊を後方へ下げろ」
八月三日
メイドストーン
「橘中尉、緊急スクランブルだ。すぐさま、南に飛んでくれ。五分で敵に接触するだろう」
「了解。十機編隊で向かいます」
「敵は、英国軍の第一波を潜り抜けた。我々は、敵の十二機編隊で飛ぶ爆撃機を撃沈してくれ。敵の高度は六千mだ」
「了解。只今南下中」
「敵機。双発(Me110)護衛機三機、爆撃機九機を確認。私と関、蒲原の三人が護衛機の相手をする。後は爆撃機を狙え。散開」
(我々は高速移動する大砲部隊。敵からの攻撃を受けたら脆い。しかし、レーダー連動なら先に敵の編隊を確認できる。しかも敵編隊数で敵の戦闘機数がほぼ当たる。このへんは、独逸の気まじめさか。さて、手負いの敵を倒さねば)
「双発の後ろを取った。撃て、撃て、撃て」
「護衛を二機撃墜」
「爆撃機四機撃墜」
「双発一機、炎上し落ちてゆきます」
メイドストーン
「加藤少将、南に向けて発進をお願いします。敵機は爆撃機のみの編成で五機まで減少しています」
「了解。五機編成で迎え撃ちます」
交戦中部隊
「橘少将、飛行場より加藤少将率いる五機編成が飛び立ちます」
「おまえら、弾を打ち尽くした機から離脱せよ。加藤に後は任せる」
「了解」
「エリンコ(20mm機関銃)は当たれば必中だが、二回斉射をしただけで使い切るだけの量でしかない。素人泣かせの弾だな」
「手柄は加藤に譲るか」
パラシュート降下中のミッシェル大尉
「スピットを潜り抜けた後に、連続して二回かぶられた。部隊は全滅か」
「ホールドアップ」
「ヤー」
「おい、こいつはどうやら独逸野郎らしい。すぐさま、警察を呼んで来い」
「イエッサー」
「あーあ、英国に落ちたら捕虜か」
飼料用のフォークをつきつけられた独逸兵がとぼとぼと大豆畑を歩いていった。
ルフトヴァッフェ
「英国本土の中に入っていくと生還率が悪いな」
「敵は前線に古参兵。後方の飛行場に新兵のパイロットを配置している」
「諜報部からの報告によれば、敵は我々が知らないものを開発し、我々の飛行機が接近するとすぐさま捕捉し、スピットファイアをそれに向けて迎撃を差し向けているらしい。すくなくとも、敵の無線を傍受した限り、戦場を見渡す何かがあるのはたしかだ」
「攻撃側でありながら、防御側に先手を取られてしまう」
「対策といたしましては、鉄搭を最初の攻撃目標に設定しました。作戦は、鉄搭の破壊にかかってると思われます」
「Meの双発機は、単発機に後ろを取られる。単発の109は、護衛とするには飛行距離が短い。ドーバー海峡越えをするなら、二倍の二千キロを飛行しないとな」
「は、109が戦闘に使える時間は十五分であります」
「戦車と組み合わせると飛行距離は短くていいんだが、爆撃機との組み合わせは戦闘機乗り泣かせだな」
「空中戦では、109はスピリットファイアと互角以上の戦いをしてると報告が上がってきております」
「敵の戦闘機乗りのほうが先に人材枯渇に陥るとの報告も上がってきています」
「よし、再編成したら鉄搭を第一目標に。その作戦を使おう」
八月十二日
ルフトヴァッフェ
「おい、X電波を黙らせたのは本当か?」
「はっ、110が一トン爆弾を用いて鉄搭の爆破に成功した模様です」
「ポーツマスへの侵入サイトを確保できたものかと」
「よし、明日の作戦をたてる。明日は英国南西部に総攻撃をする」
バックス
「レーダーが攻撃されたのか?」
「ベントナーサイトが沈黙しました」
「復旧状況は?」
「最優先でおこなってますが、明日までの復旧は厳しいかと」
「やむを得ん。明日を乗り切るために切り札を切る。電話回線を二十番飛行場へ」
メイドストーン
「はい、こちら第二十番飛行場。は、只今、元師へ」
「へロー、ロレンス元師」
「ハイ、エドワーズ大将、レーダーのことかい?」
「そうだ、今まで君たちを前線に引っ張り込まないですんだんだが、ベントレーのレーダーが破壊された。明日までに復旧は難しいと出た。明日はすまないが、ポーツマスの護衛を頼みたい」
「もとよりその覚悟です。明日は上空で待機をしていましょう。お任せください」
「すまん、国家の存続がかかってる」
「明日までに緑色の飛行機は同盟軍であることを自軍に徹底してください。さもなくば、ポーツマス上空までにいらない苦労が生まれます」
「もちろんだ」
「聴いていたと思うが明日からは前線に出る。明日はポーツマス上空で待機。敵が迎撃機を数で上回っていたら、爆撃機を狙ってくれ。ポーツマスの港湾施設防御が明日の仕事だ」
「イエッサー」
八月十三日
ポーツマス
零戦二十機がポーツマス上空で待機。
「さあ、今日からは厳しいね」
「今日は特にそうだ。今までレーダーと連動していたから、第一波をスピットファイアが待ち伏せできた。今日はおれたちがその役目だ」
「俺たちは一時間、増槽で空中待機できる」
「スピットファイアではできない芸当だ」
「俺たちが次の待機部隊と交代する前に来なさい。独逸野郎をびっくりさせて先手をとろう」
「ウィーーーン」
「お、空襲警報だ」
「敵機三十機」
「増槽を切り離せ」
Do17編隊機
「おい、敵が上空で待ち受けているぞ」
「ブラフだろ。すぐ引き返すだろ」
「いや、新型」
「機体が灰色でなく緑だ」
「まっすぐ、爆撃機を狙ってくる。なんて運動性だ」
「護衛機を無視だ。こちらを狙ってくる」
「109、迎撃します」
零戦
「おいでなすった。今日はお前らの相手をするほど暇じゃない」
「俺の相手は、爆撃機だ」
「一機迎撃」
「くそ、後ろを取られた」
「背面飛行について来れるかな」
109
「くそ、スピットより格闘戦に強い。スピットなら宙返りの最中にガス欠を起こすのに。新型だ」
「く、燃料がない、引き返す」
零戦
「あちゃ、被弾した。やむを得ない。道路に不時着だ」
「さて、障害物のない道路はあるか?」
「あっちの道が広いな。しばらく旋回して、安全を確保」
「おっちゃん、ありがと。道を開けてくれて」
「キッキーーー。プスン」
「ホールドアップ」
「ハイ」
「ドイツの野郎にも見えないな。どこのどいつだ?」
「ゴー ツー メイドストーン」
「どうやら、メイドストーンに行きたいようだが」
「あそこは、日本人街があったな」
「あれま、昨日のラジオ放送で言ってた第二十飛行中隊でないか」
「そうだそうだ、緑の上下を着ているから間違いない」
「ボブ、お前のトラクタで警察まで送っていってくれ」
「おしっ」
メイドストーン
「ポーツマス、港湾施設に爆撃三か所。すべて重要施設を外しています」
「敵機、引き返します」
「零戦、二機被弾。二機とも郊外の道路に不時着しました」
「二機とも回収に向かってます」
「操縦士二名、陸路で帰還中です」
「よし、幸先いい。加藤隊をポーツマスに送れ。上空待機だ」
「はっ」
シュルブール
「おい、さっきポーツマスに出かけてきた連中が新型を見たらしい」
「X電波なしで、待ち伏せを食らったらしい」
「て、ことはこれからも待ち伏せを食らう可能性があるのか?」
「味方と交戦した後、悠々と敵編隊は引き返して行った。飛行距離はスピットファイアをはるかに上回るだろう」
「戦闘はどうだったんだ?」
「爆撃機に照準を合わせるのが早い。さっと、命中をさせて味方の護衛機を振り切ってゆく」
「厄介な敵だ」
ルフトヴァッフェ
「新型に関する情報を集めろ。帰還部隊からの報告をすぐさま送れ」
「今日の編成からポーツマスへの二次攻撃を外せ」
「ポーツマスに関しては、情報収集を優先する」
「ち、待ち伏せさえなければ英国空軍を数で押せるものを」
「実際、ポーツマス以外では待ち伏せはありませんでした。敵機の緊急発進を発見していた時には、こちらは帰還に向かってました」
「うまくいかんものだな。待ち伏せがないはずだが効果半減だ」
「250機の帰還率が上昇したことをもってよしとするしかないか」
「攻撃目標への爆撃成功率も上々でした」
「緑の新型だが、零ファイターと命名する。スピットファイアの弱点をなくした機体のようだ。零には長大な飛行距離があるが、少数のため、スピットと同じレベルの敵だとしてあたれ」
バックス
「今日はやられたな」
「はっ。迎撃にスクランブル発進したスピリットファイア五十機は、敵を逃がしてしまいました」
「引き続き、レーダーサイトの復旧に全力を挙げよ。敵が零ファイターの情報収集に躍起になってる最中に夜間攻撃を行う。攻撃目標はドイツの都市間運河だ。爆撃機軍団に命令を出せ」
「本日、飛行場の滑走路にいた戦闘機が多数被曝しております。さらに南部の港湾施設が軒並み爆撃を受けました。ほぼ、がれきにかえしました。敵の爆撃機は百機単位で南西部を襲っておりました」
「今日の爆撃部隊に期待するしかない」
「たった今、報告です。レーダーサイトが仮復旧しました」
「おしっ」
八月十三日
ルフトヴァッフェ
「本日、悪天候にて、空爆中止を各飛行場に通達せよ」
「はっ」
「第二爆撃空隊、当初の予定通りイーストチャーチに向かいます」
「第二十六部隊より、第二爆撃空隊、応答せよ、応答」
「だめだ、無線機の故障のようだ。いずれ、俺たちが先に引き返し爆撃部隊を置き去りにするだろう」
五分後
「くそ、第二十六部隊にやつら、俺たちを見失いやがった。この雲の中だ、爆撃を実行する」
「シュート」
「ほらみろ、帰ったら罵ってやろう」
「敵機接近中、敵を振り切れ。今日は厄日だ」
「Do四機撃墜。そのほかに多数の銃撃を与えました」
「よくわからんが、爆撃機だけの部隊だな。引き返す」
ルフトヴァッフェ
「午後より快晴のため、予定通り爆撃を行う」
バックス
「この敵戦闘機による誘い出しを無視して、スピットを動かすな」
「敵Su接近中、スピット発進せよ」
「Su六機撃墜。残り三機にも銃撃多数」
「本日、敵機の確認数千五百。味方の迎撃出撃数六百」
「本日の迎撃は、四十六機を撃墜」
「ふむ」
「六十機を損失」
「やむなしかね」
「たった今、報告が上がってきております。独逸の夜間空爆により、バーミンガムのスピット製造工場損傷」
「明日も我慢だな」
メイドストーン
「本日、バックスより連絡があった。敵が総力を挙げて英国本土に殺到している」
「明日より、メイドストーンに接近する敵機をたたく。こちらも総力戦だ」
ルフトヴァッフェ
「おい、明日からは、ノルウェーから第五航空軍も参加させる」
「はっ」
八月十五日
アグリントン基地
「敵機、ノルウェー方面から高度六千メートルで接近中。敵三十機と思われます」
「こちら、第72中隊、スクランブル発進により、十二機で迎撃に向かいます」
「ラジャ」
「こちら、第72中隊、敵機百機を確認。すぐさま増援要請とともに敵機上空千メートルから爆撃機をたたきます。」
「了解。増援を送ります」
「敵爆撃機のみ。最初に110をたたく」
「後方より斉射」
バックス
「本日の北部損失。爆撃機十機、戦闘機一機」
「ふむ」
「迎撃数、爆撃機十五機」
「よし、よーーし」
「続きまして、全体の損失は五十機」
「うーー」
「迎撃数七十五機」
「もう少しの我慢だ。季節が秋になれば、ドイツの上陸は悪天候に阻まれる。後一カ月勝負だ」
ルフトヴァッフェ
「駄目だ、110は使えん。戦闘機としては後ろを取られる」
「爆撃して戦闘機として使う、その理論は大したものだが、戦闘機としてハリケーンにおとされる」
「明日からは、爆撃機の護衛は109にする。爆撃機の行きで護衛一機。その帰りで一機使用する。急降下爆撃機にはさらに行きに一機だ」
「やむなしだな」
「明日からは、109の行動範囲である英国南東部のみで勝負だ」
Me110、夜間爆撃機に使用法を変更。
八月十六日
メイドストーン
「離陸したらすぐさま、敵がうじゃうじゃいやがる」
「これが総力戦か」
「ただし、戦闘範囲が南東部のごく限られた地域に限定された」
「まだ、どこに飛べばいいか指示が出せる余裕があるな」
「ふー。やっと日本から零戦の補充が来た」
「これから総力戦となる前の最後の補充だな」
バックス
「本日、プライス=ノートン基地にJu88による夜間空爆がありました」
「敵の爆撃により、滑走路上の練習機53機を損失。さらに格納庫にあったハリケーン十一機を失いました」
「夜間空爆か。だれも責めれない。また明日は来る」
「後敵は戦法を変えてきたとの報告があります。爆撃機に護衛機が常に肉薄しております。急降下爆撃機には護衛がさらにもう一機ついている模様です」
「爆撃機の高度か。確か六千メートル以下だったな。よくわからんが、スピットの最適領域だ」
「迎撃手の健闘を期待する」
「敵は109に有利な高高度を爆撃機のために捨てたか」
「後は、味方の戦闘機乗りの枯渇を防ぐことか。もはや、多国籍の戦闘機乗りに滞空時間十時間の新米までつぎ込んで、中隊維持をはかってるからな。これも我慢か」
八月二十日
ビックベン
「人類史上、かくも少数の人がかくも多くの人々を守ったことはない」
チャーチル首相
八月二十五日
バックス
「独逸の総攻撃により、ロンドンに空襲を許してしまいました」
「上は何と言ってる?」
「報復をせよと」
「わかった、ベルリン爆撃部隊の選抜を行う」
「また、敵の護衛方法が変わりました。高高度に戦闘機が護衛してるとのことです」
「厳しいな」
「敵の攻撃目標は、空軍基地を狙ってます」
「ついに来たか」
「さらに敵は爆撃精度をあげる装置の開発に成功した模様です」
「むむっ」
「昼も夜も爆撃は続くか」
メイドストーン
「ロンドン空爆か、やられたな」
「テムズ川河口から北上したようだ」
「俺たちもそいつらに対処する余裕がなかったな」
八月二十六日
「本日、109による偽装工作を見抜き、敵機と接触することなく、戦闘機部隊は爆撃機のみと戦闘することができました」
「それはどうゆうことかね?」
「109は迂回してレーダー探査をかいくぐろうとしましたが、ガス欠により本来の護衛ができなくなったためと思われます」
「ふむ」
「それを含むと損失、三十一機」
「迎撃、四十一機となっております」
「よし」
八月二十九日
「本日109、五百機の飛来に対し、地上待機を行いました」
「109は時間切れとともに、引き返してゆきました」
「よし、よーーし」
ルフトヴァッフェ
「敵の遅延行為に対し、明日からは総攻撃を行う」
「さらに、109はドーバー周辺に集めよ。航続距離のうち、往復距離を短くして戦闘時間を確保する」
八月三十日
バックス
「敵機六十機、南より侵入してきます」
「これは見送る」
「ラジャ」
「敵機百機以上、接近します」
「南西部の戦闘機すべてをぶつけろ」
「ラジャ、戦闘機スクランブル発進」
「ケンリー及びビギン=ヒル空軍基地に敵第三波、やってきます」
「くっ。飛行場はものけの空だ」
「レーダーサイトダウンしました」
「敵は戦闘機飛行場に的を絞った模様です」
「味方、全ての戦闘機飛行場に被弾しています」
メイドストーン
「全ての零戦をあげてくれ、基地上空で接近する敵部隊を地上からの目視観測で集まった情報で一番近い部隊にぶつける」
「了解」
「ついに飽和攻撃か。数日続いたらどうなるんだ」
「戦闘機が飛べなくなる可能性があります」
バックス
「損失二十四機、迎撃三十六機です」
「明日は飛べそうか?」
「明日は飛べそうです」
八月三十一日
「今日も飽和攻撃か」
「ホーンチャーチ基地、被弾、滑走路上のスピット三機破壊。滑走路に被弾」
「味方レーダー網沈黙。最優先で復旧にあたっています」
「ホーンチャーチ及びビギン=ヒル基地に爆撃」
「滑走路上のスピット二機破壊」
「被害は、三十九機と戦闘機乗り十三名です」
「迎撃三十九機となっております」
「レーダー網、夕刻に仮復旧」
「パイロットの補充がない。各自、疲労回復に努めよ」
「明日は、とりあえず飛べそうです」
九月一日
バックス
「戦闘機乗りのローテーションができるのもあと数日か。戦闘機乗りも定員千人のところ二百人余り欠損している。戦闘機も二百期減った。明日はくるといいな」
ルフトヴァッフェ
「独逸の損失は、八百機か。英国は粘るな。どちらが先にねを上げる?」
「こちらは、爆撃機一機に対し護衛機三機をつけるようになってから、飛行機乗りの疲労はすさまじい。護衛機の減少に伴って、爆撃回数自体が減少している」
九月三日
バックス
「本日、迎撃と損失、ともに十六機」
「飛行機乗りの戦死者八名」
「ついに、ローテーションが破たんしそうだな」
九月四日
バックス
「航空機工場に敵は照準を合わせられました」
「きついな」
「ただし、この二週間は、修理済みもしくは製造出荷の戦闘機補充が損失を上回りました」
「後は、パイロット次第か」
九月七日
バックス
「緊急警報、敵機はロンドンを目指して爆撃を行おうとしています」
「全機、スクランブル発進」
「敵の数は五百機を上回る模様」
「ロンドンより北側からも戦闘機をロンドンに向けてくれ」
「今のうちに戦闘機飛行場の修理をさせろ」
「英国魂をなめるな」
メイドストーン
「全機、緊急発進。敵の狙いはロンドンにあり」
「おいでなすったか」
「ここは、ロンドンへの通り道。迎撃にも送り狼にもやるだけだ」
「敵機の数は五百機を上回る模様」
九月九日
バックス
「只今の第十一戦闘機集団(英国南西部を担当)戦力は、スピット五十機、ハリケーン九十機、零三十機」
「どん底だ」
「ただし、季節が秋に移り変わったため、爆撃機も戦闘機も雲に隠れることが多く、爆撃目標を見失うことが多くなっています。また、ロンドンに攻撃目標を移したため、109のいない敵爆撃機部隊が多くなっています。そのため、わが軍の損傷及び飛行場の損害はなくなりつつあります」
「後、一息だ」
九月十五日
バックス
「本日、敵は二波で来る模様です」
「それは確かか?」
「敵無線の傍受の結果ですから、信頼性は高いと」
「各飛行場に伝えよ。途中の補給はどうしても必要だ。迅速な補給をして、戦闘機を空へ送り出せ」
「できるなら、爆撃前と帰還前で二度銃撃を浴びせよ」
メイドストーン
「零戦を橘隊と加藤隊の二つにそれぞれ十五機をつける。加藤隊は橘隊の五分後に飛び立ってくれ。ロンドン空襲前と帰還中にそれぞれ襲ってくれ」
「了解」
九月十七日
メイドストーン
「どうやら、英国防衛戦が終わったらしい」
「ほう」
「敵無線の傍受により、オランダから戦闘機の撤退が始まったらしい」
「長い二か月だったな」
「ただし、欧州に俺たちの味方はほぼいない」
「大陸は独逸一色だ」
「孤立無援か」
「これからどうなるんだ」
「ひとつだけ決まってるのは、ドーバー海峡の制空権を取ったら大陸に反攻だ」
「そいつは楽しみだ」
バックス
「エドワーズ大将、英国防衛を達成した模様です」
「ふむ」
「おめでとうございます」
「ありがとう、独逸があのまま南西部の基地に爆撃を続けていたら勝敗はどうなっていたかな、いや、二つしかないスピット製造工場が爆破されたら一巻の終わりだったかもしれない。かろうじて勝ちを拾ったというべきかな」
「さあ、ドーバー海峡の制空権を確保する手立てを考えてくれ」
「はっ」
ルフトヴァッフェ
「負けたな」
「109E(550km/h,液冷12気筒、7.92,20mm機関銃各二)は、高高度で強く、速度も上昇力もよかった。スピットIb(液冷12気筒、7.7,20mm機関銃二、四)は火力と旋回性能が良かったな。弾数も109のほぼ二倍あった。いや斉射時間も二倍あったからほぼ四倍かな。零二一式(海軍仕様で当初509km/h,空冷14気筒、7.7,20mm機関銃各二)とは、ドッグファイトをする気にならなかったな。基本はロッテ戦法で一対ニだ。109はもともと一撃離脱戦法用の戦闘機だからな。ただし、脆かったな、運よく当たれば落ちた」
「あー。英国魂にもやられたが、ゲーリングがな」
「最初から、南西部の飛行場を押さえる戦略に出てれば、勝っていたかもな」
「こっちの戦闘機は109しか使えなくなったからな」
「Fw190を最初から110の代わりに使えばよかったんだ」
「そうしたら勝っていたかもな。110と190の選択は政治が入ってるとしか言いようがない」
「戦闘機を爆撃機と連携させるなら、無線機で通じ合わせればよかったんだ」
「爆撃機に戦闘機を張り付ける必要はなかったよ。無線で一言、助けを呼べば済むのに、連絡手段がなかったからな」
「爆撃中止になっても、戦闘機は爆撃機に連絡できずそのまま爆撃機のみが爆撃に向かった日があったな。あれが象徴的な日だ」
「さ、西だ」
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第03話 戦間編 |
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