仮想戦記 『バトル オブ ゼロ』
著者 文音
第06話 スターリンライン編
1941年(昭和16)七月
独逸がソビエトに対し戦争を始める。
フィンランドがソビエトに復讐戦を開始する。
ユーゴスラビアでチトーがパルチザンを発足、ゲリラ戦を開始。
キエフ 零戦飛行場
「ズルズル」
「ズルズル、やっぱ寒い空の上を飛んだら暖かいマグヌードルだよな」
「スターリンもよくわかってるよ。英国を離れたらもう食べれないかと思っていたが対独逸戦が始まる前に工場を誘致するとは。季節が秋に移り変わったら暖かいものほしさに銃を独逸兵に向けるかもな。日本人でさえ、マグヌードル製造工場を守らないといかんと思ってしまう」
「といっても、零戦は二十機しか持ってこなかった。完全な陸戦で独逸の空陸連携を考え、またMe109に新型(F 606km/h,7.9,15mm機関銃二,一)が出たからな。中島飛行機が迎撃に重点を置いた
鍾馗(中島飛行機、戦闘機)
最高速度605km/h
航続距離2200km(増槽時)
12.7mm×4(胴内、翼内各250発)
翼面荷重185kg/m^2
で勝負だ。零戦とは同じ飛行機とは思えないぐらい着陸が難しいのが難点だが、それ以外はMeといい勝負できるはずだ」
「独逸が西部戦線から東部戦線に主力をもってきたように、ソビエトも東部戦線に主力をもってきた。勝負を決めるのは、兵器の性能と錬度。戦略と戦術」
「俺たちがここに来たのは、バトルオブブリテンの経験を買われて古参兵だらけの独逸兵にソビエト軍が対抗できるようになるまで古参兵として役割を果たすためだ」
「ソビエトの戦闘機をみたけど、Meに対抗できる性能があったね」
Yak-1
最高速度569km/h
航続距離650km
20×1,7.6mm×2
ただし、赤軍だと日本にないのが一つある。女性飛行連隊があることだ」
「これを進歩ととらえるか、戦闘機乗りは体重が少ないほうが有利と好意的解釈をするか、言葉に出すのはやめておこう」
第587飛行連隊
連隊にもぐりこんだ橘ヒロと仁科マイ
「クシュン」
「どうにかなるものね。ウラジオストーク生まれの日ロハーフという触れ込み」
「英国のソビエト大使館員に作らせたものだから、まずばれないわ」
「半年間のロシア語習得も日本語から英語を習うより楽だったしね」
「それよりいいの、ヒロ?橘隊がキエフに派遣されてるんでしょ、そっちに行かなくて」
「おじさんがいるけど、私がのれる戦闘機は向こうにはないわ」
「確かに女性だけの連隊なんてここしか今のところないはずね」
「ここで勲章を取って、その階級で日本空軍に乗り込む。そこまでは作戦を決めてるの」
「おじさんがいるから?」
「一番上が英国人で、二番目も頭でっかちでないからソビエトの階級で雇ってもらえると思う。水瀬中将もロレンス元師も第一次世界大戦時の勲章資格で今ある地位を勝ち取ったのだから、私たちが勲章を勝ち取りさえすれば、認めないわけにはいかないわけ」
「確かにそれは、よく新聞報道されてるわね。おかげであちこちの国に義勇兵で参加する日本人が多いとか」
「うまいこと戦闘機乗りにしておらったのだから、やるしかないわね」
「能力的には問題ないと思う。ここに入部した女性たちは一か月前まで農民だったり、工員だった人たちがいっぱいいる。複葉機にのっていた経験があれば十分やれると思う」
「それにこの国のIl-2(シュテゥルモヴィークの代表例←は本来対地攻撃用襲撃機を示す)は、護衛しなくていいみたいよ。設計段階でMe109の13mm機関銃をはじく装甲をしてるからっていうのが理由らしいわ。109は火力に関して弱装備に入るらしいしね」
「ただ私たちの乗るYak-1は、飛行距離が短くて前線が移動するにつれて転戦しなくてはならないらしいの。それがつらいわね」
「零戦飛行場勤務だと航続距離を生かしていつも暖かいベットで眠れる話よ」
「これって、男女差別よ」
「それは難しいかもね。あちらは三顧の礼をもって迎えた古参兵だからね」
「一度はおじさんにほえづらをかかせてみたいわ」
同年七月六日ポーランド独逸基地
「明日をもって、バルバロッサの作戦が始まるな」
「今度も電撃作戦で決めたい」
「不安定要因は、ソビエトがこれまでのどの国よりも大きいことだ」
「補給線が間に合わない可能性が出るかもしれない」
「作戦決行が予定より二カ月近く遅れたのも不安要因だ」
「ギリシャ戦で一カ月。クレタ島空挺で精鋭一万人を失って軍の再編成に三週間」
「本来なら雪解けを待ってすぐに始めたかったんだが」
「バルカン半島を取ったものの資源があるわけでもなく、工業力もない」
「連合軍の反撃拠点をつぶす意味では大きいけどね」
「ただ、クレタ島で連合国に二敗目だ」
「クレタ島を攻略したところで、もう一回スペインに参戦を誘う話もあったんだが」
「クレタ島にうじゃうじゃとユダヤ人がいた」
「俺たちが独逸から追い出したからといえばそうなんだが、投降を誘っても絶対無理だね」
「おかげで島を爆撃しても兵隊の数が減らない」
「最近は島の飛行場建設だけをつぶすように作戦変更になってしまったな」
「さあ、明日からは忙しくなるな」
同年七月七日ルヴィフソビエト基地
「いつものとおり先制攻撃はJu爆撃機とおまけの109か」
「作戦を徹底してくれ。我々は敵の爆撃機を落として、わが軍の陸上戦力を保持する」
「そして、戦力的に不利になれば後方に撤退する」
「陸上戦力は、幹線沿いに配置し市街地と連携して戦術的撤退をはかる」
「ポーランドは敵にくれてやれ。塹壕を抜かれればすぐさま撤退だ」
「戦車は常に前方に敵を向けれるようにしろ。横に並ばれたら撤退だ」
「はっ、撤退ラインは末端まで浸透させています」
「後は、T34次第だな。これが敵戦車をうちぬけるなら士気高揚にもってこいなんだが」
「バトルオブブリテンでの戦訓をいかしてまいります」
「最初は無理させるな。あちらは古参兵。こちらは徴兵したばかりの新兵だ」
「部下には、冬将軍が味方であることを徹底せよ。持久戦に持ち込めばこちらの勝ちだと」
「そのために工場はさっさとウラルに疎開させておいた。前線は撤退したら何も残らないようにしておいた。キエフまで各部隊には段階的に撤退するポイントを設定しておいた」
「計算では、キエフに我々がたどり着いたとき、冬将軍がやってくる時期になっています」
「まずは小手調べだ。戦略的撤退を成功させて来い」
「第二陣には、シベリアから精鋭部隊を連れてきている。最前線の混乱を収束してくれるだろう」
ソビエトポーランド司令部
「さあ、おいでなすったなJu」
「Yak-1がJuに張り付きました。十分うちぬけます」
「それでいい、爆撃がなければこちらペースだ」
「敵機第一波引きました」
「こちらからもお礼を出そう。Il-2を出せ」
独逸軍前線
「蹄爆撃部隊のみこちらにやってきます」
「109を迎撃に出せ」
109
「ええい、落ちろ。何発食らっているんだ」
「遅すぎてこちらも巡航速度で飛んでるんだが、7.9mm機関銃は効果がないに等しい」
「109Fは、15mm機関砲が一つしかない。火力が弱い」
「この爆撃機の相手をするなら、109Eのほうがいい。20mm機関砲が二つある」
「えーい、Me社め。現地調査がかみ合ってないぞ」
「この爆撃機、109泣かせの頑丈さだ」
「あ、味方陣地へミサイルを発射された。戦車部隊からもクレームが来そうだな」
「三機がかりでようやく一機落とせたか」
「すぐさま、ルフトバッフェに連絡を入れろよ。もっと火力が高い迎撃機を用意させろと」
「とりあえず、四機関砲(20mm)を配備したFw190を使わせろ」
Il-2(胴体前半分に外部装甲板4,6,運転席保護12mm)後方に独逸の戦闘機がぴたりと張り付いている。でも農民上がりの俺にできることは、敵の地上兵器に向けてロケットを発射するだけ。運が良ければ帰還できるだろう。今のところ、戦闘機が張り付いてもこの機体は落ちていない。事前にきかされた通り、この機体は確かに丈夫だ。鋼板のいいやつ(高張力鋼)でさなぎのように外骨格を形成している。おかげで人間の骨にあたる部分(内骨格)はないのだけどな。戦闘機にしてみれば、あちらが鳥でこちらがカブトムシみたいな速度で飛んでいる狩りの対象なのだろう。ただし、鳥より大きなカブトムシだ。くちばしで突っつくだけじゃなかなか落ちないぞ。ロケットを発射した後、運が良ければ飛行場にたどり着けるだろう。あ、右翼と左翼のバランスが崩れた。どっちかに穴が開いたのだろう。ただし、飛べればそれでいい。最前線
「よし、電撃作戦で赤軍を翻弄してやろう。撃て、撃ちまくれ」
「コツン」
「ステン」
「おい、上の連中が言っていたことは嘘でなかった。こいつ(T-34)は、低重心で傾斜装甲ボディだから、砲弾をはじきやすい。こっちの75mm砲を食らいやがれ」
「お、四号戦車が紙のように穴が開いた。これは絶対的な安心感だ」
「バシッ」
「お、閃光弾だ。次の後退地点まで下がるぞ」
「後進」
「おい、おいてけぼりにされた重戦車(KV-1)をやるぞ」
「おう、憂さを晴らさずにおけるか」
「えらい、ゆっくりだが、こちらは弾が当たっても当たっても止まらないぞ」
「また、こちらの四号戦車を当てられた」
「この戦車には、空爆しかないのか?」
「弾がなくなるまで撃ちまくれ」
ソビエトポーランド司令部
「初戦にしてみればまずまずだな」
「KV-1は使いどころが難しいな。撤退戦だと殿を務めて他の部隊位の撤収に役立つものの自身が後退地点まで後退できない」
「要所要所に配置するのが最善か」
「無線連絡できれば、もっとスムーズな撤退戦ができるのだがそれはないものねだりか」
「撤退を繰り返すうちに古参兵ができるといいが。善戦しているにもかかわらず、新兵と古参兵の差は大きいな。こちらの被害がざーーと二倍でた。こりゃ、反攻は当分できないというか、市街地戦に引きずり込まないと優勢を確保できそうにないな」
「もっと、T-34をそろえないと戦線にならない。戦間期に作った多搭砲戦車は装甲が薄くて役に立たないな」
「相手が歩兵ならそれでいいが、空爆機が出てくる時代だ、装甲が厚くなければ乗員に安心感を与えれない。多搭砲戦車は装甲車程度の扱いになるだろう。それでも、戦車が足りないんだ。戦車が増えるまでそれをすりつぶし、兵力でひっくり返るまで後退になるか。露日戦争とその発想は変わらないな。独逸を研究していたはずがはからずも伝統的なロシアの戦争にまで回顧してしまったな」
「空中戦でも古参兵が出てくるまで我慢か、それともIl-2で敵の機関銃を撃ち尽くさせるかどちらかね」
「シベリア側から戦力をひきぬくりまくっても大丈夫なのがいいね。総力をあげてドイツと戦うのみ。祖国防衛こそ、挙国一致に役立つものはない」
「赤軍幹部を粛清して、地位安泰をはかったスターリンにしてみれば防衛戦争こそ待ってましたと言わんばかりだな」
「どうやら、こちらにもジープやC-47輸送機がやってくるらしい。レンドリース法が適用になるようだ」
「やれやれ、国際世論まで友好的にするためにやる戦争かよ。ただし、独逸のキューベルワーゲン並みの信頼感があれば使いたいね。こちとら撤退に次ぐ撤退で、電撃作戦が成功したのと同じ距離を退却しなければならないからね」
「撤退する際、橋という橋に爆薬を仕掛けとけ。味方が渡ったら、順次破壊だ。地雷もまいておけ」
独逸軍司令部
「109を当面、護衛機、Fw190を迎撃機として使用しよう。この割り振りは、火力がひっくり返らない限りそのままだ」
「戦車に関しては同じ大陸国家ソビエトの面目躍如の感がある。前線を支配そうなのは赤軍で、独逸はそれに応対する構図ができそうだ。制空権が勝負を決めそうだ」
「捕獲した重戦車と中戦車(T-34)を開発部に送ってくれ。くれぐれもこれを上回る戦車を送れと厳命しとけ」
「航空部門には、撃墜したシュテゥルモヴィークを送りつけておけ。これをうちぬける火力がないと地上部隊がつぶれると脅しとけ」
「爆撃部隊の第二波を出してくれ」
「はっ」
「練度の差で押せるが、初めて武器性能で追いつかれた敵だ。総統の三面作戦はやばいぞ」
「いくらモスクワを落とすに各都市の連携を切りたいと言ってもな」
「総兵力三百万といっても途中で兵力が切れるかもしれん」
スターリンライン西方百キロメートル
「ついにおいでなすったか。気分的には109と戦いたいんだが、それだと撤退してくる地上部隊が持たないんだよな」
「お株を奪うように上空から鍾馗の急降下速度でJuをしとめますか」
「おいおい、こちらにはMe110が久しぶりにおみえだ。零戦のときもお相手できたんだから、ぜひともお相手したいね」
「さ、撃ったら退却。これはかわらないね、独逸が相手だと」
109F
「日本も新型か。この109Fとどちらが速いかわからないくらいだ」
「ひとつだけ言えるのは、急降下でJuを狙われたら弾を撃ったまま撤退モードに入られる」
「ハリケーンが懐かしいね。一撃離脱をくらわせれたのに、旋回性能でおいてけぼりを食らわせてたのに」
「それが通用しないのが強敵の共通項だよ。同等の敵がいるとは、司令部も戦略がひっくり返るんじゃないか」
「あー、地上部隊は混戦を予感してるよ」
「待ち伏せされるのは変わらんけどな」
「あ、どうやら、退却地点の上空で戦略的撤退をするために味方の退却部隊を見守ってるようだ」
「こいつらには、練度の差がないからな」
「ちっ、陸空電撃作戦はかなり研究されてるようだ」
「あ、Juをやられた。一撃離脱をするとは小癪な」
ポーランドドイツ司令部
「今日は、陣を二つ抜いたな」
「30kmの前進だ」
「明日は、スターリンラインに到達するが、敵の撤退は一目散に逃げて行くな」
「殿を務めるKV-1もしくはT-34が一台いるだけで、一個連隊がかかりきりになる場合がある」
「戦車が死んだだろと思って近づくとまた動き始めるのにはまいった」
「あれがあると歩兵は完全に沈黙してからさらに五分間、待機してるよ」
「今のところ対抗できる戦車はもってきていないよ。一番火力のあるのが三号戦車で50mm砲だけど、本日の戦闘で分かった。T-34にしてみれば蚊にさされたぐらいでしかない」
「有効なのは、爆撃機と88口径以上の自走砲か対空砲だが、あいつらが出てくるたびに自走砲を射程に収めるのはかなり時間のロスだ。もっといえば、中戦車の場合、標的は動き回ってるから戦車か歩兵以外対処しにくい」
「75mm砲がこんなに厳しい敵になるとは思ってもいなかった」
第587飛行連隊
マイ 「まいった。先に離陸しようとした戦闘機が離陸に失敗して離陸に三十分停滞してしまった」
ヒロ 「離陸したら、敵の第一波はもうすでに引き揚げていた」
マイ 「着陸しようとしたら、今度も着陸に失敗したYak−1が飛行場の先にいたので着陸距離が練習時の四分の三におさめなければ着陸できなかった」
ヒロ 「戦死者なしでYak-1が二台修理部品行きになってしまった」
マイ 「初日は散々ね」
ヒロ 「私たちが戦闘機乗りに抜擢されるはずね」
同年七月八日リヴィウ赤軍司令部
「スターリンラインに味方戦車を集積しておいた」
「KV-1は、それでいこう。戦車は集中して使わないと個別撃破されてしまう」
「早くもポーランド分割統治領から追い出されそうになったな。ここがその最終ラインだ」
「敵に捕獲されたり捕虜となったりする者が少ないのが救いだ。閃光弾が退却の合図にしてるせいで、無線機がなくても一目散に退却できている」
「アメリカ軍から無線機を戦車と司令部につけてもらわないとな。ボディは丈夫に作るのに連携に必須の無線機がない。いままでフィンランド等に攻めていったが、無線機がないだけ個別撃破されるのが落ちという赤軍らしさを早く上に認識してもらいたいものだ」
「ただし、戦車の弾薬が乏しい。必要な量の三割しかない。どこそこの馬鹿工場長がT-34嫌いらしくてな。T-34とその弾薬製造をサボタージュしていた話だ」
「あ、確かに。年初めからT-34の量産体制をひいていた割に千台も届いてなかったな」
「スターリンに粛清される前に前線帰りの兵士に殺されるぞ。そいつ」
「どこが気に入らなかったんだ?」
「幅が広くて、重心が低く、砲台が一つしかないのが理由か?」
「前線にそいつを連れてこい。戦間期に作られた多搭砲戦車とT-34で好きなのを選ばせて前線に送りだしてやる」
「どっちを選ぶと思う」
「今となってはT-34ではないか」
「俺もそう思う」
「弾薬がなければ戦えないな」
「後方へ弾薬が途切れそうになったら退却だ」
「せっかく電撃作戦対策が機能してるのに、弾なし戦車を送りだすわけにはいかなしな」
「空軍も頑張ってくれているのに、弾切れで後退か」
「主要都市に鉄条網、トーチカ、対戦車壕を作り出しておいてくれ。木を切り出して戦車の侵入進路を阻んでくれ。市民を総動員だ。工事が終わったら、後方へと集団疎開をさせておいてくれ」
ウラジオストーク港
「それ、船から引き揚げた物資を列車に積み替えるぞ」
「ジープは五台、そこへ置いておけ。各組み立て工場に送る」
「一番必要なものは、無線機とジープ。それから輸送機だ。それらを優先的に動かせ」
「機関車も組み立てろ。列車も増強して戦時輸送体制に移行だ」
「船が届くたびに、輸送機は組み立て工場にまわせ。そこから先は空輸だ」
ハイファハルエンジニアが持ち込んだ水冷エンジンが空軍による性能試験を受けている。ハル101V型十二気筒水冷エンジン
「本家マーリンUエンジンの性能にそん色ありません」
「アメリカのパッカード社にもライセンス生産がいってるから、この冬にできる高高度用戦闘機並びに急降下爆撃機のエンジン候補としては、パッカード、本土のエンジン製作所の二択と思っていたんだが、エルサレム信託地にその地位をかっさわられるようだな」
「早速、量産体制を敷いてくれ、エンジンの積み込みをもって飛行機の完成とし、ハイファで完成品とする。このサンプルは、すぐさま本土の航空会社に送り重量バランスをとらせて飛行機の設計を完成してもらう。それでいいかい?」
「もちろんです」
「では、ひきつづきマーリンエンジンの改良型が設計図としてやってくるだろうから、それにも最善を尽くしてくれ」
「それと忘れるとこだった。捕獲したMe109エンジンで使われてる自動防漏タンクを設計図に書きこむことを要件の一つにしておかなければ」
飛燕T発動機 ハル101型 1200hp最高速度 580km/h航続距離 増槽して2400km武装 12.7mm四機関砲(胴内、翼内携帯弾数各250発)翼面荷重 157kg/m^2彗星T(複座)発動機 ハル101型 1200hp最高速度 546km/h航続距離 1800km武装 7.7mm二機関銃、旋回機銃(機首、後方携帯弾数600,600発)爆装 250もしくは500kg一式陸攻最高速度 454km/h航続距離 2174km武装 7.7mm四機関銃、20mm一旋回機銃爆装 800kgもしくは魚雷一本サハリン 豊原市
「ヘイ、タクシ」
「オハへ」
「お客さん、イギリス人ですか?」
「そうだ」
「石油精製のほうですか?」
「いや、前は上海にいたんだが中国内戦で上海支店を閉めることになってね。もらった仕事がウラジオストークでレンドリース品をソビエトから要望を集める役さ」
「これからウラジオストークは忙しくなるよ。武器弾薬をソビエトに送って、資源を輸出する玄関口になるからね」
「それに合わせて、各国の金融機関もそこに近いサハリンに支店を作る動きが出ている。上海は暑すぎたし、各国も
「敵の敵は味方」理論でそれと関係ない中国からは距離を取りつつある」
「そいつはいいや。おいらも忙しくなるってもんだ」
第587飛行連隊
「きゃあ、109に後ろをとられた。まともに飛んだのに最初から危機」
「あれ、後ろがおとなしくなった」
「おっ、後ろを飛んでいるのはヒロではないですか。助かった」
「女性の強みってやつかしら。一匹オオカミがいなくて連隊が小さく連携できるようになっているわ」
「最初のうちは生き残れれば上出来ね」
同年七月十日ポーランドドイツ司令部
「やっとソビエト国境を通過か」
「赤軍も逃げっぷりがよかったね。遅い重戦車を先に退却させて、歩兵部隊、殿に中戦車の順だった」
「おかげで何も使えるものが残ってないよ」
「敵が撃ちまくってる間、高台にいる戦車のせいでこちらは接近すらできなかった」
「弾が切れたから撤退しようか、そんな感じだったね」
「ロシアの伝統を感じさせるな。戦力が整っていないうちは、戦略的撤退をおこない、最後にドカンとぶつける」
「相手に余裕さえ感じさせるな。同盟軍のルーマニア軍あたりは装備が弱いからね。輸送部隊に馬が多くいる」
「山岳だとそれでいいのだけれど、ソビエトはいけどもいけども平原が広がっている」
「同盟軍の横っ腹をつかれたら、中戦車を先頭にこられたらあっという間にはじけるかもしれない」
「いつ敵が反攻するか、ロシアンルーレットみたいだ」
「おかげで前線が延びていくにしたがって防御力の弱い地点が増えていく分だけ、おっかなびっくりだ」
七月十一日リヴネ赤軍司令部
「ソビエト領に入ったら、歩兵部隊には命令が一部変更だ」
「防衛だからできる戦術だ。一部の歩兵部隊を切り離し、森林などに伏兵として置く」
「敵の前線が通過した後、続いて通過する輸送部隊を後方から狙ってもらうパルチザンになってもらう。部隊数にしてみれば千にもなりそうだ」
「撤退途中に脱落した歩兵部隊を吸収する意味もあるが、戦力の数%を振り分けることになりそうだ」
「あー、敵の戦力が早くひっくり返る日が早く来てほしい」
七月十八日ブレスト独逸軍
「ブレストを包囲してから一週間になるが、なかなか落ちないな」
「市街地の周辺に鉄条網、木材障壁、塹壕で戦車が通れないようにしてあるしね」
「市民は脱出させた後のようだ」
「空からの爆撃だけだと、市街地にいるやつらはしぶとい」
「占領できるまで時間がかかりそうだ」
「キエフとレニングラードを目指した部隊も前線は停滞し始めたな」
「三方に対抗できる戦力を配置しているので、それを抜くことも難しいし、迂回しても南北から挟み撃ちになるからそれも却下だ」
「短期決戦から持久戦になると、指導部は石油目当てにキエフの南方を押さえる方針を示すかもしれない」
「やめてくれ、補給線が延び切ったところを襲われたらガソリンが切れるぞ。そうでなくても戦車と飛行機とでガソリンを奪い合ってるんだから」
「エンジンを戦車と飛行機と共用できるのは利点もあるが、持久戦になるとなたね油で動くディーゼルがうらやましくなるかもしれない」
「赤軍のようにディーゼルで動くT-34なら、戦争開始までドラム缶をひっつけるだけの外部軽油タンクでいける大雑把さがうらやましいね」
「同じことを独逸でやったら、火種があるだけですぐさまドカンといきそうだ」
「もっと重要なことは、こちらの四号戦車は一回の給油でT-34の半分しか走行できないみたいだ」
「これから前線が延びるに従って、補給部隊の悩みは大きくなればすれ、小さくなりそうにないな」
「すでにブレスト周辺では、森林が多いせいで補給部隊がパルチザンによる襲撃を受けてるよ」
「三方作戦を止めないか?前線を一つでいくべきだ、すでに電撃作戦ではないぞ」
七月二十五日リヴネドイツ司令部
「南方軍は厳しいね」
「空軍で互角なのがその典型例だ」
「零ファイター改(鍾馗)がこちらの護衛機をひきつけているせいで、周りにいる赤軍の戦闘機が爆撃機を襲いやすくしている」
「ぼちぼち、赤軍の中にコツをつかんでエースをねらえるやつらが出始めている」
「他の戦線ならそうなる前につぶせることが多いんだが、零ファイター改にのってるやつは、何人かバトルオブブリテンからの転戦組だ、自分たちが爆撃機を落とすことでいい成功例を示している。戦場で実践教育をしてるぞ、やつら」
「ずーっと空中をやつらが飛んでるせいで、シュテゥルモヴィークもおもいきってこちらの戦車にロケット砲をぶつけてくる。一目散に戻ると、自分たちの制空権内に戻っていかれる」
「完全に陸空連携を切られたな。向こうは、戦車もシュテゥルモヴィークも単独出撃ができるほど丈夫に作ってあるからな」
「戦車部隊の練度が高いうちに数で押すしかないか」
ブレスト-ミンクス中間地点
「おい、T-34が放置されていってるぜ」
「あー、燃料タンクが撃ち抜かれてる。テープで穴をすれば使えるかもな」
「でも、ディーゼルがないぞ」
「軽油でなく料理にするために使おうと思ってたヒマワリ油があるぞ」
「それでもいいや、新品ならしないが捨てられた戦車だ。誰にも文句は言わせん」
「これで独逸の輸送部隊を後方から襲ってやろう」
「おっ。ヒマワリ油を入れたら動いたぞ」
「それ、これこそパルチザンの本懐だ。さあ、進め」
七月三十一日ブレスト独逸軍
「先ほど、こちらに向かっていたトラック部隊がT-34の襲撃を受け、トラックを奪われました」
「どうゆうことだ。詳しくいってみろ」
「こちらに向かってら最中、前方をT-34がふさぎました。我々は、森の中まずいと思ってきた道を引き返そうとしたところ、後方を左右からの倒木でふせがれました。やむなくトラックから降りたところを左右から歩兵銃で撃たれ、その部隊の人員は命からがら逃げた一名を除き全滅し、物資とトラックもT-34も応援部隊を引き連れて戻ってみると全ていなくなってました」
「T-34は撃ってきたか?」
「撃ってきませんでしたが」
「弾はないとみていいが、道を防ぐだけなら弾切れ戦車で十分だからな」
「どこかに隠していたか、誰かが修理したかだ」
「輸送部隊にゾンビ戦車の話が広がらなければいいんだが、無理だろうな」
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