仮想戦記 『バトル オブ ゼロ』

著者 文音

 第10話 華北編

 1942年(昭和17)十二月

 延安(紅軍首都)

 「王将軍、コミンテルンへの要請はうまくいったか?」

 「は、西部戦線の終結とともに資金援助のほか、紅軍に搭禽(T-34)の供与を約束してくれました」

 「して、その数は?」

 「第一陣として三百台、その後も順次輸送してもらえることを約束してくれました」

 「いいアル」

 「次に空軍として伊龍神(Il-2)爆撃機と薬(Yak-1)戦闘機を各二百機。義勇軍として参加してもらえることになりました」

 「よし、わが軍は長征を達成しついに国府軍に反撃を仕掛ける時が来た。これでまずは黄河以北を制圧する」

 「最初の目的地は、南満州鉄道の接収だ。自力で大量輸送装置がないなら、奪い取るまでだ。王将軍、十万の八路軍と搭禽二百台を率いて満州の制圧を果たしてくれ」

 「はっ」

 

 

 南京(国府軍首都)

 「ゴキブリのようにしぶとい紅軍がついに戦車を導入した情報が入ったアル」

 「国府軍も対抗上、戦車を導入しなければならないアル」

 「劉将軍、アメリカから戦車を購入してきてくれ」

 「アメリカからの売り込みでは、M4戦車が最適かと。その信頼性は優秀ですが、導入しますか?」

 「他の選択肢はどれアル?」

 「アメリカでしたら一世代前のM3、日本からは紅軍の導入した物と同等のT-34というところです」

 「その中で見栄えのいいのはどれアル?」

 「やはり、M4かと」

 「では最初の購入予定でよろしいアル」

 「では、さっそく折衝に向かいます」

 

 

 アーク=ギャバリエ商会南京支店

 「ケリー支店長、わが軍にM4戦車を導入したいのだがアメリカに仲介をしてもらえるだろうか?」

 「もちろんです。購入台数はいかほどになるでしょうか?」

 「とりあえずは二百台を予定している」

 「わかりました。すぐさま輸送船のめどがつき次第、送らせていただきます」

 「ふむ、その手筈で頼む」

 「劉将軍、もし二百台の代金でそれより多数の戦車が手配できましたら、それも輸送手続きをしてもよろしいですかな」

 「もちろん、問題ないアル」

 「では、これから手続きに入らせていただきます」

 「ジージー、へロー、こちら南京支店のケリーです」

 「ジージー、へロー、こちらアーク=ギャバリエ商会アジア総代理店」

 「ジージー、ナショナルより解放者(M4)に注文二百台なり」

 「ジージー、解放者四百台とライトニング五十機で発注するなり」

 「ジージー、了解、オーバー」

さて、無線でやり取りした結果、M4四百台とライトニング五十機を受け入れる準備をしなくては。これからの方が忙しいな十二月八日南満州鉄道本社(大連)

 「大村総裁、紅軍が北京を通過し、ハルピンに迫っているとの情報がたった今入りました」

 「皆の者、これは前々から予定されていたことだ。各自、事前連絡に従い行動せよ」

 「はっ」

 「警報器をならせ」

 「日本軍に連絡。紅軍が満州に接近中、遼東半島の護衛を要請する」

 「長春―ハルピン(京浜線)並びに京図線を走行中もしくは停車中の列車は、北鮮線経由で朝鮮半島に向かえ」

 「奉山線並びに連京線を走行中もしくは停車中の列車は、大連に向かえ」

 「安奉線では下りは大連へ、上りは平壌に向かえ」

 「列車は、次の停車駅で乗客に連絡せよ。列車が向かう先を車内連絡したのち、列車に残っている者がいればそのまま乗車を認める。その間、満鉄関係者を乗車させ安全地帯を目指せ」

国府軍北京司令部

 「なに、敵は搭禽を先頭に進軍してくるということか」

 「わが軍の対応はどうか?」

 「砲撃部隊による攻撃では、この戦車は止められません」

 「空爆はどうだ?」

 「わが軍の練度では敵戦車に命中させるのは困難です」

 「今現在、アメリカ製の戦車はまだ港に到着していない。国府軍と紅軍の地上兵力がひっくり返ったか」

 「今のところ、重火器を搭禽にむけるものの命中すれどはじかれています」

 「歩兵陣地に搭禽の侵入を許せばその部隊は散り散りとなって部隊としての体をなさなくなってしまいます」

 「現在、北京北西三十キロ地点まで進軍を許しています」

 「まずい、搭禽を止める手段がない。全軍、黄河以南の徐州まで退却せよ」

 「はっ」

 紅軍が華北を東進する間、紅軍は農村部に搭禽に乗った宣伝部員を送り込み、人口の大半を占める農民の支持を広げつつあった。延安

 「南満州鉄道の接収に向かった部隊からの報告です。我々が歩兵進度で東進いたしましたところ、満鉄の職員は南満州鉄道に乗り込み、朝鮮半島および遼東半島に逃げ込んだとのことです」

 「それは予想の範囲内だ」

 「日本領並びに遼東半島租借地へは接近していないよな」

 「はっ、それは厳命があった通り、遼東半島及び日中国境線の手前三十キロより先に進んだ部隊はございません」

 「通化にあった飛行場の接収はどうだったか?」

 「民間機は残っていましたが、軍用機は逃げられました」

 「まあ、いいだろ。その地へ紅軍の空軍兵を養成するための空軍基地とし、空軍を設立する」

 「養成教官には、コミンテルから派遣があるそうだ」

 「これで、華北制圧により、我々は国府軍と対等に戦えるだけの戦力を得られた。雪解けの終わる四月をもって国府軍に決戦を挑む」

 「はっ」

 

 

 

 統合本部

 「南満州鉄道職員に人的被害は出ませんでしたが、南満州鉄道は紅軍に接収されました」

 「敵は日本と事を構えるつもりはあるかね?」

 「今のところ、日中国境線に接近する様子は見受けられません」

 「とりあえず、国際世論に訴えれば紅軍に攻撃を仕掛けても非難を受けるいわれはなく、むしろ我々に同情的になるだろう」

 「だが、もし日中国境線を超えて進軍した場合、極東赤軍を呼び込む伏線となりえる」

 「紅軍に復讐するつもりが、赤紅連合軍を相手するかもしれなくなると」

 「我々は、この段階で攻撃を仕掛ける手段以外に、国府軍と紅軍が決戦を構えた後参戦する戦略をとることもできます」

 「一番楽なのは、国府軍が紅軍を破った後、華北を再び制した国府軍に南満州鉄道管理区域を返還してもらうことです」

 「逆に国府軍が紅軍に敗れた場合、各国からの要求は上海租界の保護を日本に要請してくると思われます。紅軍への反撃は租界の安全をはかれた場合のみ、許される事態になるかと」

 「上海租界の安全確保は、海軍に任せていいだろうか?」

 「軍艦で艦砲外交のように見せつけるのも手ですが、北からの脅威をぬぐい去るには国際河川である長江に駆逐艦を浮かべて近づく兵力を砲撃するのが一番効果的かと思われます」

 「よし、国府軍が敗れた場合、上海租界は海軍に任せよう」

 「国府軍が敗れた場合、長江以北は紅軍に占領されるとみてよろしいかと」

 「上海租界を守るということは、国府軍の首都である南京も必然的に守るということになります」

 「これはおいしくないな。日本だけでアメリカ傀儡の国府軍のお守りをするのはな」

 「黄河と長江の間に他の国を引き込む手立てが見つからないか?」

 「そうするとホワイ川近辺ですね。ここで稲作と畑作との境界線になる地点ですね」

 「長江以北には見つかりませんでしたが、南京の南二百キロに黄山市があります」

 「ここを誘い水にして英国を参戦させませんか?」

 「・・・」

 「悪くない。というか、出世したい奴だったら絶対参戦してくる」

 「よし、我々は二段構えの作戦でいく」

 「国府軍と紅軍との決戦で国府軍が紅軍に勝利した場合、国府軍より南満州鉄道の引き渡しを依頼する」

 「もし、その戦いで紅軍が勝利した場合、国外から要請があった地点で海軍に上海租界の護衛を依頼する。長江以南を駆逐艦で確保し、陸空軍が海南島より北上させるものとする」

 「なぜ、海南島を取る必要性がある?」

 「北上するには英国植民地インドからの歩兵隊と日本から送る津波の日英混成部隊にする必要がある。海南島はその合流地点だ」

 「国府軍との折衝はどうされますか?」

 「不戦条約を結んで、こちらが切り取った地域はこちらがもらう」

 

 

 駐日英国大使館

 「貴国は、中国大陸への対応を決められましたか?」

 「我が国は、バルト三国に陸軍を展開している関係上、中国大陸には不干渉で臨むつもりだ」

 「わが日本は、南満州鉄道を接収され少なくともこれに相当する物を取り返さねば内閣が倒れてしまいますので、貴国と連合して中国に攻め込みませんか?」

 「うーーん、色よい返事は出来かねます」

 「実は中国南部からの土産です。明日もう一度うかがいます」

 「おい、日本の使者は何をおいていったんだい?」

 「紅茶の缶をくれたよ」

 「よし、早速飲んでみるか」

 「うまいな、この紅茶、どこのだって」

 「キーマンさ」

 「三大銘柄の一つだ。さすが」

 「うんん?」

 「おい、これは中国南部からのお土産と言っていたな」

 「ああ、そうだ」

 「そしてこの紅茶は、我らが陛下の誕生日に供応される銘柄だ」

 「なんと」

 「これは日本からの謎かけだぞ」

 「もし、中国に参戦した場合、この作戦を立案した者が陛下の誕生日会にお茶を献上する役が回ってくるという」

 「すぐさま、東洋本部に連絡して中国参戦シミュレーションを作成せよ。賞品は陛下に紅茶を献上するおいしい役だ。明日九時までに大まかな作戦を立案せよ」

 

 

 翌日同所

 「もう一度、中国参戦のお伺いに参りました。どうでしょうか?」

 「まず最初にこちらからお伺いいたしますが、紅軍と国府軍の勝敗いかんでは参戦条件が異なりますよね」

 「もちろんです。国府軍が満州を回復してくれた場合、わが日本といたしましては国府軍に南満州鉄道の引き渡しを要求するまでです」

 「ここまでは、我々に出番がないと思ってよろしいでしょうか?」

 「ともに東欧に軍隊を派遣するものとして、戦争が回避できるならそれに越したことはありません」

 「そうですか、では紅軍が黄河を越え南下する場合のみ我々が参戦すると思ってよろしいでしょうか」

 「そうでしょうなあ、蒋介石の立場として場合、自力で勝てるなら我々の干渉をはねつけるでしょうし、大陸から追い出されそうになって初めて我々に無条件で参戦を要請してくるでしょうなあ」

 「この場合、日本は国府軍に何を要求されるつもりですかな?」

 「この前提となるのは、まず各国から日本へ上海租界の防衛要請が出ると思われます」

 「長江に日本海軍の駆逐艦を浮かべた地点で長江以南は確保できたといえそうです。しかし、これだけだと日本は紅軍からの弾除けでしかありません。最初に長江以南で武漢より西側を国府軍から譲渡してもらいたい。紅軍から切り取った土地はすべて、英国と二等分するくらいの要求はしたいですな」

 「なるほど、わかりました。その条件ならわれわれも参戦しましょう。後は、作戦部のものと詳細を詰めていただきたい」

 

 印度 I want you for U.K. Army. われわれはあなた方を求めている。

 「この募集、どこにいくんだって?」

 「国内で訓練した後、東アジアに派遣されることになるらしいよ」

 「軍隊はいいよな、カースト制が適応されないからな」

 「ああ、バラモンが定めた職業に当てはまらなければカーストの適応対象外だ」

 「アジアなら応募してみようかな、おいらみたいな最下層民なら国外脱出をはかってみるか」

 

 

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