仮想戦記 『バトル オブ ゼロ』

著者 文音

 第12話 小康編

 1943年(昭和18)四月十日延安 紅軍司令部 地上兵力350万人

 「毛主席、徐州から今後の方針を話し合うために参りました」

 「ごくろう、ケ将軍。将軍のおかげで国府軍を撃退することができた」

 「ありがとうございます。最初にこれからの首都を決めたいのですがご意向はございますか」

 「北京もしくは西安では駄目かね」

 「国府軍だけでしたらそのどちらでも構わないのですが、国府軍は南部の半分を日英軍に引き渡し国府軍の存続をなしました」

 「なにいいい。あの売国奴か、?介石め」

 「このままだと三国体制となるのか?」

 「南京周辺を受け継いだ国府軍は、米国を頼りにしています。わが紅軍は、武器弾薬を赤軍に依存しています。英日軍は、東欧の占拠が足かせですが、二国であり双方が国連の長期理事国ですから侮れません。確認された情報では、上海租界と武漢の間を日本海軍の駆逐艦が防衛を担当したとのことです」

 「南京は日本海軍の庇護下に入ったということか」

 「ケ将軍、我々は長江を越えて南京を占領することはできるかね」

 「難しいですね。駆逐艦といえど戦車とは比べようもない火力持ちです。少なくとも昼間に駆逐艦の射程である長江から二十キロの区域には接近もさせてもらえないでしょう」

 「遼東半島に近すぎる北京に首都をおけない状況はわかった。どこが首都にふさわしい?」

 「歴史に習えば洛陽。安全を優先するなら延安でしょうか」

 「西安は重慶からの爆撃で難しいとなると、洛陽にするか」

 「長江以北の中心を押さえたと言わせる点で最善かと」

 「引き続き、今後の戦略を話し合いたいと思います」

 「主席は、短期決戦と長期決戦のどちらを望みますか?」

 「双方の利点と欠点を言ってくれ」

 「長期決戦のお望みならそのうち、まあ半年以上ですかね、戦線が膠着状態に入った地点で国連なり米国なりといった当事国以外の国が仲介に入って休戦協定が結ばれるかと。その地点で占領した地域が双方の領土となりえるかと」

 「悪くない」

 「しかし、欠点ですが。双方の同意がなければ休戦となりません。しかもややこしいことに今の状態は三国鼎立といった状態であり、三国が同意しなければ休戦協定成り立ちません。さらにこのまま戦闘状態が続いている間、海上部が日英軍に押さえられています。我が国の貨物船と荷上げ業者及び漁業関係者はおまんまの食いあげですね」

 「それは痛いが我慢できないほどのことでもない。あえて言えば職を失った者たちを紅軍に編入させればいいだけのことだ」

 「続きまして短期決戦であれば、兵力を出し惜しみしなければ長江の北岸まで力押しできるでしょう。そしてしばらく空爆を除き敵が長江の北側に攻め込んでくることがないと言えることです。しかし、長江の絶対的な防御力をもって我々は渡航するすべをもちえません。長江を駆逐艦で押さえられた地点で長江以北三十キロより南下することができないのです。そして長江北側二十キロを敵が押さえているわけですから、敵は戦車部隊を渡航させることができます。戦車部隊の数がそろった地点で敵の反撃が始まります。もし万が一我々の前線が崩壊した地点で我々は第三の川、ホワイ川(長江と黄河の中間)以南を失った後、一気に流れが敵に向かう可能性があります。端的にいえば地方豪族は全て向こうにひっくり返るでしょうね」

 「一長一短か」

 「よし、両者の利点をあわせて今のうちに戦場の設定をしよう」

 

 

 四月十一日長沙 日本軍司令部 地上兵力現在20万人

 「紅軍から使者がまいり、不戦区域の設定と休戦協定の提案をしてまいりました」

 「どれどれ」

 戦闘区域を長江以北ホワイ川以南とする(長江と信陽市を流れるホワイ川河川上は戦闘区域とみなす)四川省、陝西省(中心都市西安)をそれぞれ紅軍と英日軍の境界とし双方を不戦区域とする。ただし、両省から戦闘区域への攻撃は可とする戦闘区域は中国陸上部に限定する西暦1943年十月末日をもって前線が形成された地域を双方の領土とし休戦協定が結ばれるものとするこの協定は紅軍、英日軍、国府軍の三国もしくは二国が同意した場合成立するものとする。なお二国間で成立した場合、締結国同士は戦闘区域を除き不戦状態となる

 「これは国府軍にも同じ文章が送られたとみていいのか?」

 「使者に確認したところ、同意しました」

 「敵は向こうみずな力押しをしないのか。長江を壁に戦力のすりつぶしをはかるつもりだったのだがな」

 「使者には二国間協議をするので一週間後に返事をすると伝えてくれ。我々はこの内容を本国に通達せねばならない」

 「日本政府はどう反応すると思う」

 「海上部での戦闘禁止をひねり出した地点で敵はなかなかの知恵者です。しかし、日英両国は受け入れるでしょう。ともに議会を運営する国家。半年後、中国領土の三割を獲得できることが今の地点で決定事項となり、事実上の終戦が決まっているわけですから」

 「俺でも受け入れるな。なんせ、不戦状態で棚からぼた餅のような土地を獲得できる。いままで日本が明治維新後に得た領土全てより広いからな」

 「我々としては一長一短ですね。戦闘期間が半年であれば武器弾薬を湯水のように使えますし、兵士も半年後に終戦となれば逃亡もしません」

 「そうは言うが兵士は死にたがらんぞ。有利でなければ突撃命令を無視しやがるかもしれん。長江に飛び込めば助かると言えば、背水の陣は成り立たん」

 「それは困りましたね。ただ一番の被害者は兵器産業でしょうね。大戦が終わってももうひと儲けをもくろんでいたのに半年間に武器弾薬を売り切らなければ大損ですから。今から五ヶ月間しか売り込みがききません」

 「いや、武器の開発者ではないのか。ロケットだとかジェットだとか、戦争をすることで兵器が進歩する第一の要因だ。開発費が湯水のように使えるはずだったからな」

 「では、我々は武器弾薬を湯水のように使えるだけましですかな」

 「そうでも思わんとやっとられん。こちらにロケットがあれば使ってみたいという子供の理屈はあるが俺でも命が惜しいからな」

 「命の値段が高くつく戦争になりそうですね」

 「戦略室に通達だ。この通達が成立することを前提に領土を最大にする戦略を立てよとね」

 「難しいですね。歩兵は命を惜しみますから」

 

 

 南京 国府軍司令部 地上兵力80万人

 「紅軍からの通達だがこれは受けるべきかね?マービック君」

 「受け入れざるを得ないでしょう」

 「なぜかね」

 「三国間で通達が来ていますが、この通達は英日をターゲットにしたものです。まだ一戦もしていない、言い換えれば一滴の血も流していない英日に中国領土の三割を紅軍は割譲すると言っているのです。しかもこの文章には日本軍が請け負った南京を不戦区域としています。つまり、日本は長江を防衛することで我々を保護する必要がなくなり、駆逐艦を引き上げることができるのです」

 「仮に紅軍と英日軍がこの協定にサインいたしますと、両国は戦闘区域を除いて戦闘をやめます。半年後停戦協定が成立しましたら、喜んで英日軍を無視して我々の南京に紅軍は攻撃してまいります。さて地主、資本階級をバッグにしている国府軍が半年後、兵隊を集め、紅軍の攻撃を跳ね返せますかな」

 「英日軍の協力なくして無理アル」

 「ということはこの協定を受け入れざるをえませんな」

 「では、この後の方針をどうするかね」

 「ひとつは戦力不足を言い訳に長江以北への反転をあきらめることですな。これは消極的ですが少ない投資で最大のリターンを得る方法かと」

 「それはだめアル。少なくとも南京と紅軍の境界とが百キロ離れていないといつ攻撃されるか、それだけで南京から人がいなくなるアル」

 「でしたら、渡航手段が最低限いります。南京に大砲をそろえれば長江の北側に渡航ポイントを設定できますが、戦車を渡航できなければ我々は長江の中に押し戻されてしまいます。ここは、米国に応援を頼むしかありません。フィリピンにある駆逐艦をもってきて河川砲台に、輸送船および強襲艦を戦車部隊の渡航に使うしかありません。後は五ヶ月間でできるだけたくさんの解放者(M-4)を用意し、練度を高めて搭禽(T-34)の側面をうちぬくスキルを習得させる。南京に空軍を集めて南京近郊の制空権を確保するほかありません。採算は二十年で取れるかどうかですが」

 「それでもやらなければならないアル。勝負は十月につける。それまでは武器弾薬を貯め、南京近郊で演習あるのみアル。十月の一ヶ月間、米国から駆逐艦と輸送船、強襲艦を義勇軍として使用させてもらうアル」

 「解放者を買えるだけそろえておくアル。十月の一ヶ月間、米国の戦車兵も借りるアル」

 「武器弾薬と交換できるものは全て売っぱらってしまうアル。紅茶、貴金属、炭鉱採掘権、美術品と例外は認めないアル」

 「その覚悟があれば、米国と話がつけやすくなります」

 

 

 四月十八日延安 紅軍司令部

 「毛主席、英日軍及び国府軍から三国協定を受け入れる返事が届いています」

 「よし、第一段階は達成だ」

 「ケ将軍、次に我々がやるべきことは何かね」

 「戦闘区域に指定された国民の囲いこみですね」

 「地元住民の協力があれば奇襲攻撃を受ける可能性が激減しますし、地雷といった対地兵器の埋め込み場所も分かってしまいます」

 「ふむ、何で釣るかね、やっぱり免税十年かね」

 「確約すれば必ずしなければなりませんが、噂で流しましょう。これで我々に情報が集まれば言うことなしですな」

 「情報戦のめどがついた地点で、我々は前線をどこまで押し上げるか」

 「まず、対国府軍となる戦闘区域の東側、具体的にはホワイ川、長江、両河川をつないでいる三江営―洪沢湖で囲まれた区域は、長江以北三十キロを除き全て占拠しよう。ここは敵の反撃を受けない紅軍にとってのいわば安全区域だな。今のところ、国府軍に反撃するだけの戦力はない。渡航する能力がないから歩兵部隊中心でいい」

 「華中沿岸部はいただきですな。住民も危険がないこの地域に逃げてくれれば言うことなしですな」

 「それは困る。敵の情報が集まらないではないか」

 「次に危険度が中程度となる区域、具体的には対南京―武漢で戦闘区域の真ん中の区域だな。ここは紅軍が必至の反撃をしてくる可能性がある」

 「英日軍より怖くはありませんが」

 「ホワイ川と長江の中間まで前線をあげておこう。その地点で南側の他、英日軍向けに西側にも堀を掘っておいてくれ。陸軍主体の国府軍の反撃よりむしろ英日軍の攻撃に備えたい」

 「この区域は英日軍が無理をしない限り、戦闘期間は短いだろう」

 「最後に武漢以西で四川省に囲まれた区域だがここは十月になったら情報収集をした後、動き出すことにする。ここで前線を形成しようものなら空爆がやってくるだろう。兵士の無駄死にはしたくないし、兵士も最前線に立ちたがらないだろうしな」

 「まさに三国志ですな。襄陽を制する者は我々かもしれませんし、外患の英日軍かもしれません」

 「いやいや、南宋を攻略したフビライ=カーンは襄陽を落とすことで中国統一を成し遂げました。我々の目指すのはこっちかと」

 「なんとも重要な都市になってしまったな」

 「さて、我々は、国府軍、英日軍とともに三国で成立する国家となりましたが、国の名前を何といたしますか?」

 「不戦条約が締結したとしてその条約文には、国府軍は中華民国を名乗っておるが国の名前には府を使ってやろう。英日軍には、印度兵が多いと聞く。発祥にのっとって国名は印でいいだろう」

 「では、わが軍はどうしますか」

 「中華人民共和国を名乗るべきであろうが。どうせ、国府軍からの条約文には紅とされているであろうな」

 「紅、府、印で三国ですか」

 「チベットに攻め込むことができなくなったのがひとえに残念よの」

 「それもこれも府が印を引き込んだためですな」

 「俺が袁世凱の立場になっておれば、使えるものはなんでも使ってるから、戦略としては間違ってはいない。現に府は我々の手で消滅できずにいる」

 「外交で稼がれてしまいましたね」

 

 

 四月二十五日延安 国府軍司令部

 「おい、日本海軍が駆逐艦を長江から引き上げないぞ」

 「上海の嵩明島に飛行場を建設し始めました」

 「上海デルタにある世界最大の三角州島だから戦闘区域であり、かつ今は蘇州府の管轄であるから国府軍と紅軍双方から苦情を受け付けない」

 「上海ガニを独り占めするのが目的か?」

 「いや、ここに飛行場を建設するのが目的だろう。沖積島だから海抜三メートルの砂地が続く。しかも島であるから戦車部隊の攻撃を受けつけない」

 「それで駆逐艦を引きあげずに、空港建設の護衛にあてているのか」

 「その他、江心鎮中州(南京西隣り)、巣湖市無為県の中州(南京東隣)でも空港建設を始めた模様です」

 「これは確実に戦略の要点を取る戦略として上策ですね。我々が手を出せない長江上に飛行場を建設することで、いつでもその場所に歩兵部隊を展開できます」

 「歩兵部隊がのっていない戦車を長江で運び飛行場近辺であれば、いつでも電撃作戦を陸海空軍の一体となって展開できます」

 「長江のどの地点からも上陸作戦を始めることができるということか」

 「戦略のやり直しだ」

 「沿岸部も安全地帯でなくなった。戦車がいなければそこに戦車部隊を展開してくるだろう」

 

 

 四月二十六日南京 国府軍司令部

 「B-17爆撃機十機が南京飛行場に届きました」

 「司令、これで戦略空爆を仕掛けれますね」

 「これから二ヶ月間発着訓練をして二ヶ月間戦略空爆を、最後の一ヶ月間は時に輸送機、時々空爆機というところかね」

 「なかなか、忙しそうな機体ですね」

 「日英軍がうらやましいね」

 「上海沖の砂州に建設中の飛行場のことですか?」

 「それもありだが、あの飛行場があれば、決戦の十月に日本領からウンカのごとく済州島経由で嵩明島飛行場に日本空軍機がやってくるよ」

 「そのまま、空爆して日本に帰る機体もあれば弾がある限り上海上空の制空権を取り続ける戦闘機もあるだろう。はたまた一攫千金を狙って華中の戦闘区域に空挺する日本兵もいるだろう」

 「空挺部隊なんか、我々からすればのどから手が出るほど欲しいものですが空軍の練度も怪しい我々には無理ですね」

 「おいところで、日本軍が提供している珈竰なるものを食べたか?」

 「ええ、長沙を訪れたときにお昼時に現地の兵隊と一緒に食べさせていただきました」

 「うまいのか?」

 「スプーンで食べるんですが基本は、牛肉珈竰なるものでしょうか。ついつい、私も周りの兵隊がお代わりしているのを見て二杯目はツナ珈竰をいただきました」

 「そうか、お代わりをするほどうまいのか」

 「いえいえ、それがいろいろありましてね。どこからかチーズを調達してきてチーズ珈竰にして食べる人もいましたし。菜食主義の人たちが最初に牛肉の代わりにチーズをのっけて食べたらしいですよ」

 「そうか、肉がなくてもうまいのか」

 「それが、ひどいんですよ。三杯目を頼んだらなんと納豆珈竰なるものを出してくれました」

 「どこがひどいのだ?」

 「納豆と言いまして、発酵させたそれは臭くて苦い大豆なんですが、一メートル近く大豆から菌が糸を引いてるほどなんです」

 「おまえ、三杯も珈竰を食べてきたのか」

 「いや、それが四杯目は口直しだと言って珈竰ヌードルにしてくれました」

 「いや、珈竰にマグヌードルとは。また一味違った趣がありました」

 「お前に指令を授ける。今度、打ち合わせで長沙まで行ってくることがあったら冷めてもかまわん。B-17に載せられるだけの珈竰を載せて帰ってこい。なんなら調理人を連れてきてもかまわん。幹部全員で昼食にすれば申請も通るはずだ」

 「やった。あれはやみつきになる味なんですよ。ではできるだけすぐにB-17を飛ばしてください。いやあ、司令部にいてよかった」

 「最速で申請書を作ってやるからそこで待ってろ」

 

 国府軍で今必要な団結力をあげるために隊員が同じテーブルで同じ食を食べる企画これは、国府軍と英日軍とが行動を共にする上で必要不可欠なものである必要なもの長沙の日本軍駐屯地で提供されている珈竰運搬には試運転を兼ねてB-17を使用するものとする同日長沙 日本軍食堂

 「調理主任、国府軍の馬鹿でかい輸送機が到着して一目散にここに兵隊さんが来てたみたいだけど何かあったの」

 「うーん、それが国府軍の兵にもカレーを提供しろと言ってる」

 「ずう――と?」

 「あの輸送機に積めるだけ」

 「名目は?」

 「国府軍の一致団結だとさ」

 「上はどうすると言ってる?」

 「カレーを広めるいい機会だと思ってるようだ。一日に一万食で三カ月かけて国府軍全員に一回ずつ食べる機会を与えるとさ」

 「それで、輸送機には満杯にしていくのか」

 「御飯は用意させる。こっちの米を電気炊飯器で炊いたところ、匂いのついたやつもあればインディカ米のやつもあり、てんでばらばらだけどな」

 「インディカ米は釜でたくときに米が煮えたら水を抜いて捨てる作業がないと本来のぱさぱさ感がないんだよな。にちゃにちゃしてうまさ半減になるのが電気釜の日本人からみて気がつかない欠点だ」

 「うん、こちらで電気釜を試してみてよかったと技術者は言ってたな。このままでいくか、インディカ米にも対応させるか、悩みどころだと言ってた」

 「俺的には、インディカ米のぱさぱさ感の方がヤポニカ米のもちもち感よりカレーにはあってるといいたいがな」

 「他には?」

 「肉も野菜も向こうで用意させるから、のっけていくのはツナ缶にインスタントカレー粉、納豆、唐揚げ粉、天婦羅粉、マグヌードル、ソーセージ、ヨーグルト、チーズといったところかな」

 「揚げ物類はわかるが納豆はいるのか?」

 「これがあれば医食同源のお国柄だ。病人には食わさせる。ていうか、病人を見かけたら、二度目のカレーを食べに来てる人間を見つけたら有無を言わせず食わせる」

 「最悪、ジャガイモがなければサツマイモで。ニンジンがなければ南瓜で、玉ねぎがなければ大蒜で何とかなるのがカレーのすごいところさ」

 「料理に使う食材は大事さ。俺たちが朝食ってる白菜も日清日露戦争時から広まったんだからな。世界三大食の一つである中華料理に殴り込みをかけられるカレーって偉大なのか?」

 「気候も大事だよ。ここは華南。武漢南京重慶は日本の夏よりも暑いかも。夏といえばやっぱ汗をかけるマーボー豆腐にカレーだよな」

 「ていうか、華北なら米を確保するだけで厳しいぞ」

 

 

 五月一日東京 商工省

 「諸君、来月から販売を始める電気炊飯器について意見を求める。これがその実物だ」

 「これが世界特許をとった電気炊飯器ですか。どこに工夫が?」

 「まず、小型化、炊飯時に火力の調節と炊きあがり時に電源が切れることを金属板の熱膨張で成し遂げる点が非常に難しかった」

 「これは、炊きあがった後冷めるんですか?」

 「今はおひつに移し替える作業が必要だが、電器業界によればそのうち保温装置を取り付ける機種が出てくるだろうと研究中のようだ」

 「これはアジア圏に輸出体制をひくということですか?」

 「できるなら、マグヌードルという軽工業から日本は電器機器という重工業化に成功したとアジアに広めたいところだ」

 「では、アジアに輸出するなら現地に電気を通さなければまずいのでは?」

 「もちろん考えている。購買能力の高い地域には電気を通した後、日本製の電気製品で洪水をおこしてもらうつもりだ」

 「洗濯機、冷蔵庫、扇風機、ラジオなどがその候補に挙がっている」

 「さらに電気炊飯器とともにインスタントカレー粉、ツナ缶をセットで第二のマグヌードルに育てる計画も進行中だ」

 「おおー」

 「そして、電気炊飯器を売った後、ステンレス製の流しを売り始める計画が立ちあがっている」

 「女性が喜びそうですね」

 「未婚の男は結婚の条件があがりそうで結婚は女性優位になるんでしょうか?」

 「試算によれば、保温機能の付いた電気炊飯器、洗濯機、ステンレス製の流し、ボタン一つで沸くお風呂が各家庭に行きわたりますと女性は五時間の余裕が持てるようになるようです」

 「女性も家庭の外に職を求める時代ですかな」

 「局長、こうなっては仕方ありません。男女共学、男女普通選挙法を導入するしかないのでは」

 「‥‥‥」

 「男のわがままと社会への女性進出とをどう両立させるか、これを一月で報告書をだすように」

 「これからあちこち出向いて電化により普通選挙と男女共学が決まりそうですと根回しをしておかなければならんな」

 「電気炊飯器、洗濯機、ステンレス製の流し。三つとも重工業化の流れを生み出すものとして三銃士としてはやらせるか?」

 「ああ、結婚の条件になりそうだが」

 「男の立場から結婚を阻む三銃士と言われなければいいがな」

 「新たな働き手が労働市場に出てくると資本家をといてまわらなければ」

 「大戦中の労働不足を女性が補っていたのも事実だし、社会も受け入れてくれるだろう」

 

 

 

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