仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第119話

 1893年(明治二十八年)十月四日

 西遊記を浮世絵化

 北京 金壺亭

 「清露戦争における清の勝利を祝って、西遊記が浮世絵になったアル」

 「妖怪どもは、もちろん白人アル」

 「玉龍は、八路軍アル」

 「八路軍は強いアル」

 「国内で、機動力は一番アル。独逸が訓練しただけはアル」

 「馬も独逸から連れてきたアル。あかげで、馬賊は八路軍が近付いただけで逃げ出すアル」

 「おかげで、国内の治安がいいアル」

 「やっぱり、白人に勝った清は偉いアル」

 「芭蕉扇は、残念ながら懐中電灯アル。これさえあれば、妖怪どもも逃げてゆくアル」

 「それはともかく、夜道を歩く必需品アル」

 「パミール高原までいって、戦勝気分と西遊記になりきるアル」

 「砂漠も山道も問題ないアル。斉天大聖と釈迦如来が守ってくれるアル」

 

 

 漢城府 広亭

 「清と朝鮮が露西亜に勝ったニダ」

 「日本がそれを祝って、西遊記を浮世絵にしたニダ」

 「俺たちがウランバートルを包囲したから、露西亜に勝てたニダ」

 「氷点下二十度にも耐えたのだから当然ニダ」

 「露西亜は、朝鮮にビビって一度も野外に出てこなかったニダ」

 「おかげで暇だったニダ」

 「一年間、軍隊で飯にありつけて幸せだったニダ」

 「三蔵法師が、清で」

 「孫悟空が朝鮮人ニダ」

 「おまけで、日本人を馬の玉龍にしてやるニダ」

 「三蔵法師の下にするニダ」

 「妖怪は、白人ニダ」

 「沙悟浄は、印度人にしてやるニダ」

 「猪八戒は、漢民族ニダ」

 「登場人物の中で、孫悟空が一番強いニダ」

 「朝鮮人は、目的についたら神になれるニダ」

 「この物語を朝鮮中に広めるニダ」

 「文盲がいても関係ないニダ」

 「文盲こそ、この物語に夢中になるニダ」

 

 

 イスマイリア スエズ運河縁

 「日本から浮世絵の最新版が届いた」

 「ほうほう、すぐさまばてる沙悟浄は白人だな」

 「豚の化身である猪八戒は、清人」

 「三蔵法師に仕える一番弟子は、ターバンを巻いたムリスリでなくては」

 「となれば、三蔵法師はカリフのように描かなくてはならない」

 「孫悟空を手玉に取った神は、マホメットでなくてはならない」

 「玉龍は、ラクダに描き直しを要求する」

 「となれば、舞台はサハラ砂漠に描き直しをしなくてはならない」

 「それにしても、砂漠の熱気を一気に奪うという芭蕉扇があればなあ」

 「火焔山より砂漠の方が熱いだろ。ここも描き直しだな」

 「通天河は、スエズ運河に書きなおしだな」

 「目的地も聖地でいいだろ」

 「どうも、全ての浮世絵を下絵から描きさせなければ駄目だ」

 「誰か下絵を描け。それを日本にまで送ってアラブ仕様に書き直しをさせる」

 「そうだ。ついでにアラビアンナイトも浮世絵にしてもらおう」

 「そうだ。この物語は一夫多妻制を無視ばかりしている」

 

 

 サンクトペテルブルク 赤い城

 「殿下、日本より最新版の浮世絵が入荷しました」

 「どれどれ、ほうシルクロードを旅する怪奇小説か。妖怪どもは、清人だな」

 「となれば、殿下は三蔵法師でございますか」

 「そうだな。登場人物の中で一番服装が良い。何より主人公だからな」

 「となれば、ゴレム外相はどなたになりますか」

 「ゴレムは、おっちょこちょいなところがあるから、猪八戒だろう」

 「本人が聞くと、気分を害しませんか」

 「だが、あいつの勇み足で露西亜は破産寸前までいったのだぞ。銀角にしないだけわしも譲歩したのだが」

 「それにしても、後三年でいちいちパリ経由で浮世絵を入手しないで済むようになるのですなあ」

 「そうだ、それに発売日が一カ月ほど短縮される」

 「だとすれば、近衛兵が浮世絵を入手するためにパリまでお使いに行かされることもなくなるのですね」

 「なんだ。お使いにいく兵はえらい競争倍率と聞いたが」

 「それは事実でございます。詰所では、この役得も後三年かあ。と嘆いておられました」

 「そうだな、同好の士は近衛兵にもたくさんいるからなあ」

 

 

 十二月十八日

 パリ カフェ モンブラン

 「で、これが最新のコスプレというやつだ」

 「ほう、四人の集合写真か。白黒なのがもったいないくらいだな」

 「孫悟空は、毛むくじゃらがなり済ましたか。如意棒をもって、金冠をしていればかっこがつくよな」

 「沙悟浄は、白人向きかね」

 「プレイボーイだしね。やり方次第では、決まるよね」

 「池をモチーフにすれば空しくなるね」

 「魚っぽくかな」

 「ほうほうこの中でベストドレッサーは、猪八戒役のデブだね」

 「しかし、こいつ人気者だったんだ」

 「あっちこっちで写真のお誘いが絶えなかった」

 「太っていることが魅力か。うーん、俺もなってみようかな」

 「フォークをもってくれば様になる」

 「どこの農家にもあるやつだね」

 「で、極めつけは三蔵法師か」

 「これは、原作者も思いつかんだろ」

 「玉龍ならあり得るかと思ったが」

 「美女一人に野獣三人か」

 「三蔵法師が一人女として参加するとこの集合写真の格が上がったような」

 「ものすごく均衡が取れたというか」

 「ナイト三人を従えた王女ともとれるね」

 「いろいろな可能性を広げてくれるね、コスプレというものは」

 「おれなら、沙悟浄を男女二人で配役してみたいね」

 「単純に、孫悟空が女でいいのでは」

 「この写真をひっくり返してはどうだ。三蔵法師だけ男で、後女三人」

 「うーーん、それも捨てがたい」

 「なあ、玉龍になりきってるやつはいなかったか」

 「いたなあ。四本足だから二人がかりで三蔵法師を支えていたな」

 「前足と後ろ足で分担か。三蔵法師一行は六人組となりましたか」

 「そう来ると思って、金角銀角を従えたひょうたんもちの写真も撮ってきた」

 「ほうほう、ひょうたんなんぞ、どこにあった」

 「ふふふ、アフリカでペニス隠しとして使われていたやつだって言ってた」

 「それはすごい根性だな」

 「ブツに金の糸目はつけないよ」

 

 

 

 1894年(明治二十九年)一月七日

 日本橋 奥村屋

 「旦那さま、西遊記ですが世界各国から顧客仕様が数多く参っております」

 「ほう、今回は特に多いな。清が注目された時期に出版しただけなのだが」

 「はい、それが世界各地で様々な解釈をされている模様で、いかがいたされますか」

 「先方がどのように解釈をされようとかまわないんだが、いつも通りでいこう」

 「では、一万部の予約を受け付けたものから顧客仕様を受け付けると」

 「ああ、そうしてくれ。こちとら商売だからね」

 「では、いつものように先方にはお伝えしておきます」

 「法則は不変で。解釈の仕方は各個人の自由さ」

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

humanoz9 + @ + livedoor.com

第118話
第119話
第120話