仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第128話

 1894年(明治二十九年) 十二月二十五日

 アメリカ合衆国オクラホマ州トーマス=ロペス邸ベックの部屋

 「わあ、すごいな、パナマ運河って、完成予定は来世紀の一年か。亜米利加横断鉄道を建設した中国人が逃げ出すって、どれほどすごい所なんだろ」

 「全長八十キロを掘るのに二十年か。一年で四キロしか進まないなんて。比較するために載ってるのが、仏蘭西とイタリア国境を結ぶ全長十一キロのフレジュストンネルが十四年がかりとなると、一年でおよそ一キロ。けれど、トンネル幅が六メートルなのに、パナマ運河は幅百メートル。運び出す土砂の量は、海面下まで山頂部から掘ってるから、幅六メートルの運河を掘ったとして六倍量に達し、それを幅百メートルに広げるとトンネル工事の百倍(6×16)になるんだって」

 「え、ルート測量師に言わせると、トンネルをくりぬいた方がどれほど楽だろうかと、何度も自問自答したって。だったら、亜米利加は、五大湖のスペリオル湖湖畔のダルースとミネアポリス間でミシシッピ川を結んで、僕らの街と五大湖まで水路でつながなきゃ。たった三百キロ掘るだけだよ」

 「でも、一番の成果は、西海岸と東海岸の一体的な運用か。この運河を使えば、太平洋艦隊と大西洋艦隊とが一つとなって英吉利海軍にも勝利できるってさ。すごいよ、この運河、亜米利加のためにある運河だよ。パパに今度の旅行にパナマ地峡まで連れてってもらわなくちゃ。完成前のパナマ運河をみながら、パナマ地峡を鉄道で大陸横断して、サンフランシスコに上陸して、オクラホマシティまで戻ってくるんだ。きっとハラハラドキドキの旅になるに違いない。パパも絶対行きたいはずだ。さあ、プレゼントを全部開封したら、パパの部屋にいかなきゃ」

 

 

 マリンの部屋

 「サンタクロースの服がプレゼントに入っていたけど、ママの源氏物語狂もここまで来たか。確かに、白と赤を基調としている服ですよ、サンタクロースの基本は守っています。だけど、どうみても、巫女さんのかっこにしか見えないのよね。でも、これを着て行ったら、アレクも一発で落ちそう。これって勝負服かしら?」

 「でも、この格好をするのはアレクを落とせた後の方がいいかしら。私の虜になった後、初めての夜に着るのよ。うん、きっとその方がいいわ。決して私が人前でこれを着る勇気がないというのではないわ。ええそうよ。大切な時は一升記憶に残るのよ。ええそうよ、決して私が恥ずかしがり屋だというのではないわ」

 

 

 トーマス&ジェニーの部屋

 「この年になって、世界中のサンタクロースの話を聞くことになるとは」

 「サンタクロースは、フィンランド生まれ」

 「暖炉のそばに掛けてあった靴下にニコラウスが屋根の上から投げいれた金貨が入りこんで、これが世界初の靴下の贈り物となった」

 「西暦四世紀ころの話ね」

 「けれど、パーティ好きな亜米利加人にかかると相手をどれだけ驚かせるかにお題が移ってしまい、靴下が二十足でも足りないくらいのプレゼントが親族で送られてくるようになりました」

 「たくさんあれば、いいという風潮が亜米利加にはあるからね」

 「おかげで、子供たちが気にするのは去年より靴下の数がいくつ増えたという話ばかり」

 「あの子たちも大人になれば私たちの気持ちがわかるよ」

 「その前にきちんと家族のクリスマスにカップルで来るようになってくれればいいけど」

 「でも、僕は独逸の風習が好きだな」

 「サンタクロースは、双子というやつね」

 「そ、マリンが白と赤の天使なら」

 「私は、黒の衣装をした黒いサンタクロース」

 「でも、悪い子にお仕置きをする役なのよ」

 「そんなの問題ない。今日のその日、君がその格好をしてくれたのが大事なのだよ。だから、もう一戦かまえよ」

 「もうあなたったら」

 「来年のクリスマスには三人目を抱かせてやろうじゃないか」

 「そうね、素敵な話ね」

 「トントン」

 「キャア」

 「この音は、ベックか。どうした?」

 「パパ、今度の旅行にパナマまでいこうよ」

 「今、どうしても抜けられない話の最中だ。けど、今度の休暇にはパナマに連れてってやる」

 「パパ、話がわかる。約束だよ」

 「男と男の約束だ」

 「じゃ、プレゼントの開封作業に戻るね」

 「うむ」

 「もう善は急げを地でいってる子ね」

 「さあ、これで邪魔者はいなくなったよ」

 「そうね」

 

 

 二十六日

 白い家

 「リー君、どうやら君の言う通り、心配はいらなかったようだね」

 「タイミングが良かっただけですよ」

 「そうだが、反対議員の所には支持者が押し寄せて、パナマ運河は亜米利加人こそ、所有するにふさわしいと軒並みつるしあげにあったそうだね」

 「亜米利加人は、成功者には軒並み賛辞を示しますからね」

 「ともあれ、私は外交で領土を増やした大統領として歴史に名を残すことができそうだ。リー君、君に感謝をしなければなるまい」

 「歴史は繰り返すですか」

 「そうだね。亜米利加は十三州から始まって亜米利加大陸を買い取って大きくなっていった」

 「アラスカも露西亜から買い取ったんでしたっけ」

 「67年に、一平方キロメートル当たり、五ドルで買い取った」

 「今のニコライ帝なら絶対売りませんよね」

 「売らないだろうね。彼の野望の一環としてベーリング海峡をはさんで鉄道を走らせるつもりだろうからな」

 「今のニコライ帝なら十分考えられますね」

 「ところで、私はこの勝負に勝ったとおかげで、次期大統領にも民主党から後継が大統領になれそうだよ」

 「それはおめでとうございます。けれど私は、共和党に籍を置くものです。残念の一言しかありません」

 「君が民主党党員ならば、民主党の予備選に推薦したいくらいだよ」

 「そうですか。残念ながら、国政選挙では民主党に勝てそうもありませんから、市長にでも立候補してみることにします」

 「そうか、君が相手では対戦候補も苦戦するだろうな」

 

 

 

 

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