仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者　文音

　第129話

　1895年(明治三十年) 一月六日

　日仏米西間で領土移譲交渉がまとまる

　　一、　亜米利加は、パナマ運河会社株券の六割、プエルトリコ、キューバ、フィリピンを分割購入する

　　二、　西班牙は、亜米利加に植民地を譲渡する代わりに、相当の金額を得るものとする

　　三、　日仏は、パナマ運河が完成するとともに、パナマ運河会社を亜米利加との共同統治するものとする。なお、亜米利加は、同株券の過半数を支払うまで得る株券は優先株であり、同会社の議決権は付属しない。亜米利加は同株券を市場価格に二割五分の割増金を加算した金額で購入するものとする

　　四、　パナマ運河が完成するまで、上記の植民地は宗主国西班牙と亜米利加の共同統治とする。ただし、フィリピンのみ、日仏西の共同統治とする

　パリ　カフェ　モンブラン

　「亜米利加は、キューバとフィリピンの独立勢力に接触したものの、援助をしない方向でなだめに入ったか」

　「自国植民地となるまでに、価値が下がるようなまねはしないよ」

　「もっとも、西班牙駐留軍を相手に独立を勝ち取る方法はありそうだが、仏日米軍相手では、勝ち目はあるまい。独立勢力も四分裂ぐらいに主張を異にするようになるだろう」

　「亜米利加はどうだかわからんが、仏日には浮世絵が意思疎通に極めて友好だからな」

　「ああ、台湾ですでに実証済みだ」

　「シベリア鉄道とパナマ運河の完成でずいぶん、地球も狭くなってきたな」

　「世界の旅行者は、世界一周の最短記録の更新に挑むだろうな」

　「様々な世界一周が生まれたが、まだ試していない方法は何か？」

　「女性単独による世界一周も、海路で世界一周も数えられないほどだが、達成例がある」

　「海路では、パナマ運河の開通で時短効果はほぼ一ヶ月間ほどだな」

　「となれば、手漕ぎボートで世界一周をするか、単独で帆船でするかぐらいか」

　「後は、それを女性でやるかといったころか」

　「男がするとなれば、交通手段を自転車にするか、自分の足でするかだな」

　「そうかあ、もっと世界初を名乗るにふさわしい方法がある」

　「グライダーで、世界一周か？」

　「地球は丸い。何も太陽を追いかけるばかりが能ではない。北極点と南極点を通過して元の位置に戻ってくればいいさ」

　「難題だな。北極点手前の再接近はまだ北緯87度までだ」

　「ちなみに、南極点はもっと難しい。南極大陸に上陸するだけで英雄だ」

　「では、縦に回るのは、もうしばらく無理か」

　「夢のような話だなあ。世界一周列車の旅の方がまだ説得力がある」

　「そっちはどうなの？」

　「太平洋がな。二十日も海上にいれば、わざわざ列車にいる意味がない。それよりも豪華客船の方がまだ乗り心地が良い」

　三月一日

　江戸城

　「で、幕府には紙の道が日本橋駅を始発駅にするとしか聞いていないんだが、日本の連絡駅はどこになるんだ」

　「それが、日本の窓口を務めますのは、我々の頭が上がらない大奥でございまして、大奥の意向で決まるようになっております」

　「そちの苦労はよくわかったが、大奥はすでに決定したのか。国防上並びに通商上、我々にも知る権利があろう」

　「日本の三大鉄道会社がそれぞれ、新潟と下関並びに青森を推薦してもらおうと大奥に交渉に赴きました」

　「ほうほう、それでどうなった」

　「大奥は、まず最初に新潟を落としました」

　「落とした理由はなんだ」

　「信越を越えるために、スイッチバックを利用しているため、国際列車の運行には適さないと申されました」

　「で、中山道鉄道会社はすごすごと引き下がったのか？」

　「はい。上越トンネルさえあれば、新潟に決まっていたのにと申されまして、引き下がりました」

　「では、残りは二択だな。どっちも甲乙つけがたい気がするが」

　「では、所要時間を比較されまして、大奥は青森に軍配をあげられました」

　「そうか、理屈が通っているのか？」

　「日本橋からですと、青森まで710キロ、下関まで1100キロとなっておりまして、どうがんばっても日本橋からは下関は遠くございまして」

　「では、本題に入ろう。国賓級を迎える国際列車だが、食堂車もうまいのであろう」

　「はい。日本橋で開催される日本アルプス選手権で優勝した国のみが食堂車を任されるようになっておりまして、各藩も外貨獲得の場を提供されたとあって、たいそう力が入っているとのことです」

　「それだけではなかろう。日本国外からの客を迎えるとあっては、仏蘭西料理三コースも習得しなければならんと聞いたが」

　「さすがわ、ご老中、その通りでございます」

　「で、幕府は外国奉行も従えているのであるから、国賓を迎える前に試食をせねばならん。そちは、その段取りをつけよ」

　「ちと、難しゅうございます」

　「尤もなことだ。その御一行に大奥の連中も同行を許そう」

　「それでしたらなんとかなるかもしません」

　「朗報を期待するぞ」

　「はっ」

　五月二十日

　白木屋

　「番頭や、ギリシアオリンピックの応募状況はどうじゃ」

　「それが、帝国主義の広がりとともに、植民地が広がっておりまして、参加要件を満たす国はすくのうございます」

　「アジア圏ではどうじゃ」

　「東アジアですと、日本、清、朝鮮、タイを除くとそうそう見つかりません」

　「なるほど、オリンピックに参加できるだけで世界中に独立国であることを宣言できるのだな。これは意義が大きい」

　「東アジア周辺ですと、その次はオーストラリアになるでしょうか」

　「これでは、参加を募る立場になってみたものの張り合いがないな」

　「しかたがない、アジアに広げるとどうだ」

　「残りは、トルコぐらいでしょうか」

　「そうか。アジアもこうしてみると国名が少ないな」

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