仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第135話

 1897年(明治三十二年)一月十六日

 カフェ モンブラン

 「十三という数字は不吉だな」

 「不吉だ。俺は第十二週を過ぎたあたりから、次に来るのは第十四週にすべきだと、いつも主張している」

 (((キリスト教徒たるもの、そうあるべきだ)))

 「けれど、最近はその前提となる第十二週というものも不吉にすべきだと」

 「そうだな。必ずしも十三をもって終わりとなるわけじゃない。人というものは、祝祭日に支配されてしまい、十二で一区切りとする場合も最近は多い」

 (((はて、キリストは十三人目の弟子であるユダに裏切られて死んだ。それゆえ、キリスト教での忌み嫌われる数ではなかったか)))

 ((後、十三は、神話においてサタンを天使の番号に当てはめ、悪魔に魅入られた数字とする場合もあるが、十二にそのような効果はない))

 「第一週で元気に産声を上げたものが、第六週あたりで後方に位置するようになる」

 「そうだな。それがお気に入りとなれば気が気じゃない」

 「頑張れと応援しつつ、第十二週あたりでもその位置を保つようになるとあきらめが入るようになる」

 「そして、次回予告で新連載が始まるとの連絡が入る」

 「弱肉強食の世の中といえ、新連載が始まる場合、当然打ち切りの作品が出てくる」

 「一年は、三百六十五日、週にすると五十二週ある」

 「これを季節で割ると、十三週となる」

 「つまり、十三週で打ち切りとなる機会は、年に四回もおとずれる」

 「その打ち切られた作品の中に俺のお気に入りが入ってしまうと、十三という数字を呪ってしまいたくなる」

 「前兆はあるんだ。連載される浮世絵を描く作家は、十一週を終えた地点で話を十三週でまとめるために、縮小やとばしという手法を使って話を無理やり最終話に持ち込む手段をとるようになる」

 「で、出版社も合併号を出すとなると、季節が一巡する前に出される出版回数は十二となる。十二も呪われた数字となる根拠がこれだな」

 「オタクにとって、十三は不吉な数字そのモノだ」

 「世界共通で不吉な数字に押し上げるべきだ」

 「「「十三は世界一不吉な数字だ」」」

 

 

 

 三月二十六日

 カフェ モンブラン

 「新聞によると、シベリア鉄道の食堂車が人気だって」

 「これを受けて、日本アルプス百景振興会は、日本アルプスの称号を勝ち取った地域に、二十四年間の優先権を与えると」

 「つまり、片道のシベリア鉄道一行程分にかかる日数と帰りにかかる、この場合料理人達の休暇分だが、その間シベリア鉄道の食堂車において外貨を稼ぐ権利を与えるものとすると」

 「そうか、世間の注目をさらに集めるのか。日本アルプス百景選手権」

 「実際、うまいですよ。日本食」

 「亜米利加はあてが外れたな。パリを発って日本橋を訪れた観光客はついでだからこのまま世界一周をしようと、太平洋横断航路に乗ってくれることを期待して、シベリア鉄道に亜米利加は出資したんだが」

 「日本橋に到着した観光客は、帰りの日本食を楽しみにして復路のシベリア鉄道に乗ってしまう者が大半だとか」

 「それもあるが、四季の豊かな日本だからこそ、四季にそれぞれ乗車する必要があると再利用客にいわしめているようだ」

 「亜米利加は、ロッキー百景美術館を立ち上げたものの空振りですか」

 「亜米利加は、第二の戦略をもって再度挑むことになるだろうな」

 「ま、世界が平和なのはいいことだ」

 「世界は奇妙な平衡に包まれ、平和が維持されている」

 「中国は、一間の停滞かね。内容はともかく、白人に勝ったということになるだろう、清露戦争」

 「というわけで、白人を打ち負かした称号は、途上国で価値はうなぎ上り」

 「白人以外に清は頼りになるという感動を与えたらな」

 「アフリカは、帝国主義国家による分割があらかた終了してしまった」

 「この先、未開地を見つけようと思ったものの、そこはすでに英吉利か仏蘭西が押さえてしまっているせいで、軍隊を先に進ませるわけにはいかないくなっている」

 「もし、それを守らずに軍を進軍させてみろ、局地の代理戦争でなく、帝国主義国家同士が対決する全面戦争に移行しよう」

 「誰かがいつかその引き鉄をひくだろうが、その死刑執行役になるのを恐れている風潮がある」

 「現在、不満やるせない国家はどこだ」

 「帝国主義を掲げながら、出遅れた独逸はその筆頭だろうな」

 「いつの世も、独逸包囲網と仏蘭西包囲網はいつでもできるようになっているからね」

 「で、白人でありながら世界的に評価が難しいのは、伊太利になるだろうね」

 「ただいま、エチオピアに侵攻中なれど、幾度も跳ね返されているね」

 「すでに赤字じゃない?」

 「元が取れるかどうか怪しいが、あの辺はケープタウンから英吉利が、エジプトから仏蘭西が伸びてくる緩衝地帯になっている両国が放置しているだけで」

 「どちらかの国がエチオピア王朝に武器援助すれば現地民が勝つんじゃないか」

 「今のところ、両大国も傍観中らしいが」

 「エチオピアはどちらに援助を求めるか」

 「それで賭けができそうだな」

 

 

 

 

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