仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第150話

 1901年(明治三十六年)十二月十六日

 ヴォーグ表表紙

 「いろんな新聞、雑誌がニューヨーク市長にインタヴューを申し込んだけど、女性ファッション誌までおっかけですか」

 「市長の愛妻は、仏蘭西人だからね。彼女目当てで出かけたんでしょ」

 「で、そこから派生したのがこの号の表紙?」

 「ちゃんと愛妻は、次のページに出てくるぞ」

 「家族写真もある」

 「三頭身だけど、上半身のポートレイト」

 「市長の趣味だよね」

 「市長は、浮世絵コレクタとして名をはせていたからね」

 「全米最大のメトルポリタン美術館の名誉館長でもある」

 「で、表紙を飾ったのは、愛娘二歳のリサ=リー」

 「東洋系ってことかな、表記はRisa=Lee」

 「表紙を飾るだけのインパクトはあるね」

 「ということは、同美術館に収納されている雷夢からいただいた名前かね」

 「この表紙、水着でいいの」

 「水着でいいだろ。セパレートの水着は市場に出回っていないけど」

 「市長曰く、『女神像からインスピレーションをいただきました』と」

 「絹の水着ね。高価だね」

 「この号、売り切れは確定だね」

 「編集者曰く『セパレート水着は起源を西暦五世紀のローマ帝国にまでさかのぼることができると』」

 「要するに、西洋東洋を問わず、考えた人間はいたわけね」

 「二歳でよかったのではないか」

 「だな、これが十歳になると、宗教団体が騒いだだろうな」

 「女性団体も女性蔑視といって、卑猥の一言を浴びせただろうな」

 「第一次宗教戦争は、市長側の圧勝で幕を閉じたけど、難癖をつける人間はこれを第二次ニューヨーク戦争のきっかけと位置づけるかもしれん」

 「俺は残念でならん」

 「なんだ、これのどこが不十分なんだ」

 「わかってないな。写真で現わせるのはあくまで白黒。俺はカラーで見たかった」

 「そ、そうだ。本物をみるか、美人画にしてもらわんと」

 「「「納得できん」」」

 

 

 1902年(明治三十七年)二月六日

 ニューヨーク市税関所

 「うーん、困った。これほど、偽物が氾濫するとは」

 「いつもの偽ブランド品への対処ですか、ケン係官」

 「いや、メイドインニューヨークを模倣した酒が氾濫してね。酒業界から対処を頼まれたんだよ」

 「そりゃ宿命でしょ。メイドインニューヨークの書き込みがある酒は、一切合財正価で出荷されます」

 「それはうれしいんだが」

 「で、それに目をつけた密造酒メーカーが半分ほどニューヨークでできた酒と他産地の酒を混ぜて売った所、今までの三割増収になったそうですよ」

 「ほう、市場で高い評価ですね」

 「密造酒っていうのは、バスタブで作ったまがいものもあるから、きちんとしたメーカーで作った製品には安心が買えるんだよ」

 「確かに、ごしごし体を洗ったバスタブで飲み物を作ったと思うと他に買う方法がない場合を除いて、ご勘弁願いたい」

 「まだ半分、市内で作った酒を入れているならいい。昨日、表記に違反するとして、近場のバッファロー市にまで抗議に言ったところ、逆襲をくらってね」

 「ああ、わかりますよ。俺たちにもニューヨークの発展にあやからせてくれって言うやつですか」

 「それならいいんだが、我々にメイドインニューヨークを製作する権利があると反論してきた」

 「あちゃ、そうきましたか。確かにバッファロー市で醸造しても、メイドインニューヨーク州には違いない」

 「しかも、我々としては酒税取締官にいい感情はない」

 「つまり、禁酒法で方法も取りたくないと」

 「なんとか、メイドインニューヨーク市を市場でアピール方法はないものか」

 「メイドインニューヨーク市と表記しますか」

 「そうしたら、あっちもメイドインニューヨーク(州バッファロー)市としてくるだろうな」

 「表記ではいたちごっこですか」

 「メイドインニューヨーク州ニューヨーク市とすれば、追随できないだろうけど、かっこ悪いね」

 「要するに、ニューヨークというブランドを最高に高める偽造対策があればいいんですよね」

 「そうだ。安価で他社にまねをされない方法があればいい」

 「だったら、全米中の男たちのリクエストにこたえるっていうのはどうでしょ」

 「必要な期間は?」

 「日本へ下絵をおくって、浮世絵にして送り返してもらうとなると三カ月かな」

 「市長の説得方法は?」

 「美人画を贈らせていただきます」

 「よろしい。二つ返事で大丈夫でしょう」

 「では、カラー印刷の破壊力に期待」

 「目指せ売り上げ二倍」

 

 

 五月二十日

 ニューヨーク市長官邸

 「オリンピックは、98年に合併して加わったブルックリン、ブロンクス、リッチモンド、クイーンズに主要競技を割り振るように」

 「了解いたしました」

 「オリンピックが開催されることでマンハッタンと他の地区との融合に取り組みます」

 「市長、オリンピック期間中の輸送はいかがいたしましょうか」

 「ニューヨーク既存の公共交通機関を利用するとともに、市営地下鉄を用いて各競技場を連絡するようにします」

 「では、関係各所に通達をおこないます」

 「市長、P.E.N.友好都市協会から市長あてにお荷物が届いております」

 「では、諸君は細部を詰めてくれたまえ。私は次の仕事場に向かう」

 「はっ」

 「市長、こちらの会議室にどうぞ」

 「ふむ。このP.E.N.友好都市条約も効果が大きいな」

 「それでは、開封させていただきます」

 「頼む」

 「「「ほー」」」

 「さすがわ、カラー印刷では他国の追随を許しませんね、江戸、日本橋」

 「市長に届きましたリサ嬢の美人画ですが、浮世絵としては、各種酒の瓶に直接のりづけして貼るようにいたします」

 「そうなるだろうな。浮世絵の部分だけ再利用されては悪用されるだろうしな」

 「メイドインニューヨークを満たす条件の製品にだけリサ嬢の浮世絵をはらさせていただきます。この措置により、メイドインニューヨークの製品価値を高めるとともに、他地域で製造される偽メイドインニューヨーク製品の締め出しをはからせていただきます」

 「そちらは任せる」

 「では、市長。お約束のリサ嬢の美人画です。お納めください」

 「ふむ。雷夢が帰ってきたようにうれしいよ」

 

 

 六月一日

 ニューヨーク市庶務課

 「市長に申し上げたいことがある。先日、麦酒を買ったらこの小さな浮世絵がついてきた。綺麗にはがそうとしたところ、和紙のせいか、びりっと破れてしまった。もっと大きな浮世絵を手に入れたい。どうにかならんか」

 「申し訳ございません。瓶に張り付けたのは、偽造に使われるのを防ぐ意味がありましてそのような措置をとるしかありませんでした。市民の皆さまの声は必ず、市長にまで届けさせていただきます」

 「うむ、早急にな」

 

 

 

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