仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第153話
1903年(明治三十八年)六月七日
シカゴ市タワーオブミシガン
「諸君、シカゴ行政を影から支配することができるようになったが、禁酒法で得た資金の有効活用策を此度、話し合ってもらいたい」
「一旦、シカゴ市に寄付をするようにしてはいかがでしょうか」
「その金は戻ってくるのか」
「コウ=チン様、あなた様はシカゴの支配者であります。あなたがしたい事業に補助金という形で寄付金が戻ってくるようにすればよいのです」
「なるほど、我がビル会社がシカゴへの寄付という形で赤字決算をしているように見せかければ、税金は支払わないですむか」
「シカゴは、亜米利加映画の二大巨頭でございます。市からの寄付金という形で還元された資金は、映画産業に投資してはいかがでしょう」
「映画か、確かに興味深いものだな。投資先としては面白い。具体的にはどうする」
「映画製作会社を立ち上げ、作品の半分は無料で一般市民に公開しても問題ないかと」
「一つの人気取り策か」
「それもありますが、短編映画を長編映画の前に放映してみてはいかがでしょうか」
「なるほど、無料の短編映画で客を集め、長編映画を有料で放映か」
「はい。映画は黎明期を脱したばかりです。まずは市民に普及をはかるべきです」
「それが当分の間の戦略というものか。それだけで、客がつくか」
「シカゴは、中西部を代表する都市です。ワイルドにいきましょう」
「ワイルドとは?」
「亜米利加の開拓史で攻めるのはいかがでしょう。亜米利加が西へと広がる中、馬車による西進運度がおこり、かの地を手にするためにインディアンとの抗争をクライマックスに持ってきます」
「ほう、無声であるがマグナムから弾丸が飛び出してきそうな迫力を追い求めるか」
「幸い、中西部へのロケには近く、ニューヨークにはない魅力が出せるかと」
「俺は、若草物語を映画化してみたい。南北戦争ものを撮影するのにシカゴはこれ以上ないロケーションです」
「ま、いいだろ。禁酒法関連の儲けの半分までは使ってもいいぞ」
「ボス、話がわかる」
「お前たちのしたいことをさせるために、金を使うような気もせんでもないが」
「黎明期には、試行錯誤されるものですよ」
九月十一日
ニューヨーク市庁舎
「来年のオリンピックに向けて、進捗状況を確認する」
「施設建設の仕上がりは?」
「郊外競技は、今年中に完成。主要競技は、来年三月いっぱいまでかかるかと」
「おおむね順調だな。各施設を結ぶニューヨーク市営地下鉄の建設状況は」
「今年、十一月十五日より試験運転を予定しています」
「都市内交通の要が建設に間に合ったな。これで各地区の一体感が出るだろう」
「はい、電車ですので音も静かです」
「宿泊施設との連携はどうだ」
「オリンピック開催期間である来年九月二十七日から二週間、オリンピック関係者の受け入れ枠を各ホテルに割り振っています」
「それでよかろう。各競技会場に近いホテルを割り振るか、地下鉄一本で移動できる所が望ましい」
「はい、宿泊施設はマンハッタン島に。各競技施設がある郊外には、地下鉄で直通しているようにしています」
「亜米利加四大スポーツとの絡みは」
「野球に関しましては、既存のブロードウェイにありますピルトップ=バーグを同期間、使用する予定であります」
「よろしい。そちらは順調だな」
「バスケットボールは、マンハッタンにある市民体育館を同期間押さえることができました」
「それで十分だな」
「アメリカンフットボールですが、マンハッタンでフットボール会場と共用いたします。大会の前半をラグビー、後半をアメリカンフットボール会場として」
「ふむ。芝生の管理次第だな。これは、会場をいくつかに分けた方がいいだろう。二つの決勝戦は同球場でよい。予選等準決勝までは、周辺都市との連携をはかれ。試合が進むの連れ、マンハッタンに試合会場が近付くようにしろ」
「では、すぐさまそのような措置を取らせていただきます」
「最後にアイスホッケーですが、これが最も難航いたしました。ブルックリンに専用競技場を用意し、室内競技場で冷凍設備によりリンクを張っていますが、今年中にはなんとかめどがたちそうです」
「ニューヨークでのオリンピックというものをみせるためには、亜米利加中から観客を呼ばねばならない。そのためには、亜米利加人が普段親しんでいる競技を開催することが近道だ。満員の競技場を目指して最後のひと踏ん張りをしてくれ」
「開催まで後一年、各機関との連携で乗り切りたいと思います」
「ふむ、関係者には無理をさせてしまうな」
十二月十七日
ノースカロライナ州
「飛んだんだよな」
「飛んだんだろうな。多分」
「十二秒か」
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