仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第155話

 1904年(明治三十九年)十月九日

 ニューヨーク市クィーンズスタジアム

 「ここに第三回オリンピックの閉会を宣言いたします」

 「市長、今回の成功、亜米利加市民を代表してお礼を言わせていただきます」

 「ありがとうございます。記者の皆さま方をはじめとする協力をもって、ニューヨークオリンピックは大成功に終えることができました」

 「今大会では、亜米利加人好みの競技であるバスケットボール、アメリカンフットボール、アイスホッケー、野球を主催されたのは、亜米利加市民のためですか」

 「亜米利加市民のためでもありますし、ニューヨーク市のためでもあります」

 「それは、それらの競技の収益で今大会が黒字運営であるという噂でもちきりなのですが。運営における貢献のためでしょうか」

 「否定はしません。黒字興業は私営企業なら当然のことです。もちろん、ニューヨーク市にはそれ以外の目的があります」

 「それをお聞きしてもよろしいでしょうか」

 「今回は、四大スポーツのうち、すでにニューヨークに拠点を持っている野球は、ニューヨークハイランダーズ(現ヤンキーズ)の本拠地を使わせていただきました。同球場は、オリンピックスタディアムを冠することができるようになりました。一つの聖地となったわけです。野球を目指す少年がこの球場でプレーすることを目標に努力してくれることを望みます」

 「では、残りの三競技もそのような目的で」

 「もちろんです。残りの三競技はまだプロの大会が始まっていません。しかし、アマチュアの大会であろうと、選手はオリンピックスタディアムでプレーすることをあこがれます。そしてそれはアマチュアの大会といえども、ニューヨークで全米一の大会を開催することに付加価値を与えてくれます」

 「なるほど、三競技でプロ化がなった時にニューヨークは競技施設も準備できていれば市民の関心並びにその前身となるアマチュア球団があるというわけですね」

 「そうです。今回の大会は将来にわたって活用されてこそ意義があるのです」

 「では、今大会に全米中から観光客がニューヨークを訪れました。家族連れであろうとカップルであろうとその目的は、オリンピックをお題目に飲酒をするためであったと言われています。次の質問ですが、市長は現在のニューヨークのみが禁酒法の適用除外を受けていることを望みますか」

 「市長という立場に立てば、全米中のアルコール会社と酒税を独占しているわけですから、税収という観点からは現状維持を望みます。一市民としては、禁酒法の廃止を望みますね。やはり、カリフォルニアワインに慣れ親しんだ舌が同ワインの復活を心待ちしていますよ。ワインというものは、その土地の風景が浮かぶものですから」

 「なるほど、市長と市民としての感情が対立していると。では最後の質問です。市長がその二つの立場を解決する手段として、亜米利加大統領選に出馬するという方法があります。市長はその手段を使われますか」

 「その質問に答えるには時期尚早とお答えしておきます」

 「やはりそうですか。来月の大統領選の結果を待ってから質問をすべきだったでしょうか」

 「それも一理あります。私は民主党の党員ではなく共和党の党員です。現職の大統領が二期目を目指す場合、その予備選は信任投票という位置づけです。正しい共和党員というものは、大統領の再選を願うべきでしょう」

 「では、来月の大統領選以降でしたら質問にお答えしていただけるのでしょうか」

 「やはり時期尚早です。私は、次回の市長選に出るつもりです。これに全力を出します。それ以外の雑音にはお答えできません」

 「なるほど、次回市長選に当選した後でなければ市長選に影響する明らかに負の質問にはお答えできないと」

 「現地点ではそうなります」

 「ありがとうございました」

 

 

 

 1905年(明治四十年)三月二十四日

 『怪盗紳士ルパン』を浮世絵化

 パリ カフェ モンブラン

 「これは世界初の二次作品だ」

 「これは、小説と浮世絵と二つの分野で読み比べてこそ価値がある」

 「話題の焦点は、あえて浮世絵の題名で言わせていただくと短編の中の一作『おそかりしシャーロック=ホームズ』にある」

 「原作者のモーリス=ルブランは、著作権の関係でコナン=ドイルに遠慮したんだろう。シャーロック=ホームズ(Sherlock Holmes)を言葉遊びでエルロック=ショルメ(Herlock Sholme’s)を使っているが、親日家でもあるコナンドイルは、浮世絵化する際には、シャーロックホームズの使用を許可したのであろう」

 「わかりやすさこそ、浮世絵の命。わかりにくいショルメなんか使えば、浮世絵の存在意義がふきとぶとしてホームズとして本文中に登場したのだろうな」

 「いいね、怪盗ルパン。推理小説の分野でも仏蘭西が一番さ」

 「仮装科学小説の分野でも、仏蘭西が一番さ。ジューヌ=ヴェルヌ最高」

 「タイムマシンを書いたハーバード=ジョージ=ウェルズなんかめじゃない」

 「ホームズもウェルズも仏蘭西の前に敗れ去るのみ」

 「これからの作品に乾杯」

 「怪盗は常に推理合戦に勝つのさ」

 

 

 ロンドン パブ テームズ

 「ホームズが登場するまでの八作品はよう出来てはりますなあ」

 「ホームズが探偵の第一人者というのならば、ルパンは怪盗の第一人者やろ」

 「そや、両者が直接顔を合わせな、問題あらへん」

 「おそかりしシャーロック=ホームズも直接勝負しているわけやあらへんから、問題ありませんやろ」

 「そやけど、直接対決を回避したところで次期作ではどないなりはんのや」

 「そりゃ、作者の都合で話が進むのやありませんやろ」

 「ホームズもその前科がありますやろ」

 「コナンドイルがホームズを殺したと思わせ、一度ホームズシリーズにピリオドをうったことがありましやろ」

 「あの時は、世界中の読者の声がドイルに届きましてなあ。とわいえ、最後の事件で失踪したホームズは、作品が再開されるまで二年以上のブランクが生じましたやろ」

 「ほな、作者の都合で話が進むんであれば、次の作品はいつごろ出ますやろ」

 「それとなく仕入れた情報によりますと、来年に第二期作品として出てきはりますとか」

 「作者は、怪盗ルパンシリーズを続ける腹やろか」

 「わては、ホームズシリーズよりも名声を得るまで続ける腹やと」

 「ほな、怪盗はつかまりませんな」

 「その場合、ホームズの全敗やろか」

 「怪盗が捕まっては、次の作品はでませんやろ。そやから、最後はルパンの勝利でどないでっか」

 「あかん、あかん。そんなん、英吉利人への冒涜や。ホームズを越える頭脳は、でてきてはあかんねん」

 「そやかて、小説つうもんは、作者の筆の赴くまま。作者は仏蘭西人ですやろ。そしたら、ルパンが最後は勝つようになってるに決まってますやろ」

 「わい、英吉利の税関まで話を通しておかんと腹が立ってしょうがないわ。ホームズが敗れる作品は、英吉利では発禁や。水際で止とかなあ、あかんで」

 「わては、議員さんに掛け込むで。モーリス=ルブランの作品は全て事前検閲の必要がありまっせと」

 「そやけど、ホームズの名前を使ったのはあくまで日本の出版社や。お偉いさんに談判しに行ったところで、あんたはん、ホームズの名前が出てこない作品を出版禁止にできまへんでと門前で断られるんやない」

 「ほな、この焦燥の気持ちをどないしたらええねん」

 「次期作品を待つしかありませんやろ」

 「もしくは、あんさんがホームズとルパンを使って三次作品をつくるしか」

 「わては我慢できへん。ホームズが勝つ三次作品を世界中に売ったるで」

 「「「そや、その意気や」」」

 

 

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