仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第159話

 1906年(明治四十一年)一月二十一日

 ニューヨーク市クィーンズスタジアム

 「本日は、ニューヨーク市長として三選を果たされたシバ=リー氏とその御家族をお招きして、競技会の開会をここに宣言いたします」

 「ここに集まった市民の協力があって、初めてオリンピックも成功したことを祝わずにいられない。このスタジアムで、本日は未来のオリンピック選手が出ることを期待し、ジュニア大会の開幕を宣言いたします」

 「それでは、ジュニア大会の開会にあたり、リサ嬢による空砲によって一万メートル走がスタートします。それではどうぞ」

 「ズドン」

 「選手は、これより二十五周のレースでどのような展開をみせてくれるのでしょうか」

 「さて、我々は貴賓席に行こうか」

 「はい、パパ」

 「それでは、市長一家の皆さんはここで報道陣による撮影並びに質問にお答えください」

 「では、まずリサ嬢にお聞きいたします。大きくなったら何になりたい」

 「パパみたいになるの」

 「市長はどこがすごいの、教えてくれるかな」

 「困っている人を助けるのがパパの仕事。私もパパのような仕事をしたいの」

 「そうですね。二十年先の亜米利加なら、女性市長が誕生しても問題ない時代になっているかもしれませんね」

 「きっと、そうよ」

 「では、娘さんから熱いメッセージが届きましたが、三期目の抱負を伺いましょう」

 「全ての人に充実した生活をという信条はかえませんが、ニューヨークが持っているアドバンテージが消失しそうなので、その対策をしなければならないでしょう」

 「ニューヨーク市が持っている最大の利点は、禁酒法の適用除外ですがこれがなくなるのですか」

 「私がつかんだ情報によれば、次回の大統領選に立候補を予定している人たちに問い合わせてみたところ、禁酒法の廃止を公約の第一に掲げている人たちが多数います」

 「では、次回の大統領が当選した暁には、禁酒法が廃止されるというのですか」

 「ニューヨーク市にとっては残念なことですが」

 「では、市長はその対策をとる用意があると」

 「新しい産業の開拓をできれば申し分ないと」

 「市長が押す新しい産業は、照り焼きバーガーのように亜米利加市民を魅了するものでしょうか」

 「もちろんそうありたいものです」

 「市長は早くも、次回大統領選の情報を入手していましたが、共和党員である市長が相手側である民主党側の情報を手にしているのはなぜでしょう」

 「外交官時代のつてです。私が外交官をしていた時代、政権は民主党で政権の下で働いたのでその時にできたネットワークを使わせていただきました」

 「なるほど、我々にとっては市長であることが当然と思っていましたが、外交官経験をお持ちでしたか。では、その経験を生かして亜米利加の進む道はこの世界でどうすればよいのでしょうか」

 「市長として言わせていただくのならば、世界平和が一番です。今後もP.E.N.友好都市条約を生かしていきたいと考えています」

 「なるほど、照り焼きバーガー一つをみても市長の努力があってこそというものですね」

 「はい。先人から学ぶことは多いですよ」

 

 

 

 三月十七日

 サンクトペテルブルクゆきシベリア鉄道車内

 「日本食として提供されているおでんなるもの、口さがないものは仏蘭西家庭料理のポトフのまねだという」

 「ポトフの中心は、じっくりと煮込んだ牛肉だが、おでんは、それだけではないだろ」

 「共通する食材は、その他に人参、からしといったところか」

 「ポトフのスープは、食塩に香辛料が基本だな」

 「それに対し、おでんは醤油味と味噌仕立て、昆布だしといった海鮮系の三本仕立てが基本かね」

 「そうなんだよ。どれをとっても仏蘭西料理にはない病みつきになる成分が入っているに違いない」

 「事実、ウオッカ片手におでん種を全ていただこうとはりきっているんだが、未知の味といくつも出会えた」

 「この三角形のこんにゃく。食べるのは極東だけだって話だ」

 「けしからんね。我らが知らないとばかりに長い間独占しているんだから」

 「けしからんものは、この蛸だ。海の魔物をこのように串刺しとは」

 「いやいや、蛸でけしからんのは、この柔らかさだ。以前、葡萄牙で食べた時、このように柔らかくなかったが」

 「シェフに聞いたところ、その隣に入っている大根のせいらしいぞ。大根と一緒に煮ることで蛸が柔らかくなるらしい」

 「実にけしからん。この大根にからしをからませて食べると、次にウオッカが欲しくなる」

 「酒との相性といえば、この肉はなんだ。今日のおでんは海鮮系でまとめた言う話だが」

 「ふふっふ。海の魔物は蛸だけじゃない。白鯨ディックといえばおわかりか」

 「まさか。あの鯨肉か。こりゃまたいっぱいくわされた」

 「で、この一見肉だんごにみえるこの塊だが、実はこれも海鮮系」

 「ということは、魚のすり身か」

 「つみれといって、魚のすり身が基本となったもので、今回は鰯を使ったときいたな」

 「ま、魔物ばかり食わされては体がおでんを止められなくなりそうだから、そのような大衆魚もなくてはいかんよ」

 「ともかく、世界中の海を征服した料理だな」

 「裏話だが、世界中が鯨油を必要としなくなって日本が鯨肉を世界中の過半数を占めるようになったというはなしだが、鯨肉の需要が減ったためにシベリア鉄道で世界中に売り上げようと画策しているという話だ」

 「世界中の海から海産物を取りまくる日本か」

 「海産物の取り扱いにたけている民族性がなせる技だな」

 「ウマけりゃ問題なし」

 「「おでんとウオッカに乾杯」」

 

 

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