仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第162話

 1907年(明治四十二年)一月二十九日

 英吉利情報局

 「我が国は、怪盗ルパン騒動に後押しされるように、英仏露秘密協定から離脱する予定だったのか」

 「いえ、すでに英仏露三国協定は、仏露同盟という形に落ち着いており、英吉利の入る余地はございません」

 「それもこれも、シベリア鉄道での利権を仏露で分かち合えているせいだな」

 「はい。両国の経済活動を活発にしております」

 「さらに、シベリア鉄道の利権は、仏のみならず、日米仏で分担しておりますので通常の形で、孤立を分かち合っていた英吉利と亜米利加が同盟する手段はあり得ませんでした」

 「それをアメリカ側からぜひともという形で請われ、英米同盟が成立する運びになるように誘導してゆくはずが」

 「新聞インタビューに答える形で、英吉利の言いなりになるはずの大統領候補者が大統領選への出場を拒否するとは」

 「全ては、御破算だ」

 「これまで、知名度を上げるためにどれほどの金をつぎ込んだんだと思っておるんだ」

 「こちらは、仏独との戦争がたちあがれば国力で五指に入る国がつぶされあってゆく前提で話を進めてゆくはずだったんだぞ」

 「そうだ、仏独露の三国が疲弊したところを英米連合で蹂躙し、世界を大英帝国の元に取り戻すはずが」

 「あのオタク市長めが」

 「我々のどこが甘かったのでしょうか」

 「双方で、ニューヨーク市を牛耳るまでは、利益は一致していた」

 「その後、英国は亜米利加の混乱を狙って清教徒を扇動し、禁酒法を発動させた」

 「その時のあのオタク市長の対応は、我々の想像を越えたものだった」

 「パリと江戸並びにニューヨークの英知を集めれば、禁酒法こそニューヨークにとってチャンスだと」

 「ニューヨークにオリンピックを誘致し、それまで一体感のなかったマンハッタンとその周辺地区を地下鉄で連結し」

 「世界中からのお客様のために、ニューヨークは禁酒法の適応除外をなした」

 「あのときから、我々の手を差し出す必要がなくなったのは確かだ。今でも立候補すれば、重大事件さえなければ大統領候補第一人者だ」

 「個人的には、結婚がかえたと考えています。世界一周旅行中にパリで見つけた女性と結婚し、安定してしまいました」

 「いや、娘の存在が大きいよ。リサ嬢だったか。私、パパの後を継いでニューヨーク市長になるの。くそ、俺もそんなことを言ってくれる娘が欲しい」

 「確かに家族の存在は大きいが、私は彼の存在そのものを見誤っていたといいたい」

 「ほうほう、きかせていただきましょう」

 「彼は、オタクだ。オタクの特徴は、一芸に秀でた才能にある。つまり、ニューヨークという彼の欲望を満たすものがある街を出てゆくのは彼の選択肢にはないのだよ」

 「そうかあ、盲点だった。彼は、市庁舎さえもメトロポリタン美術館に隣接した土地に建てたがっていたからな」

 「彼はオタクという人種に忠実なだけだ」

 「これで、英吉利は栄光ある孤立から誰にも相手にされない孤立か」

 「残っている大国は」

 「清ぐらいなものでしょう」

 「清は駄目だよ、朝鮮と一体化してしまっているから、我々が入ってゆく余地はない」

 

 

 六月二十日

 シカゴのとある邸宅

 「エジソンをエジソンたらしめるその理由は、権利の主張をためらわなかったためである。よって、エジソンの持つ映写機の特許を元に、コウ=チンをシカゴより追い出すことにしたい」

 「しかし、相手はシカゴを牛耳るボスだぞ。いかんせん、エジソンスタジオだけでは、門前払いだろ」

 「はい、それは重々承知しています。しかし、皆さまの賛同をいただくためにこれより詳細な説明に入らせていただきます。

 

 ♪一人ひとりの力は小さいけれど、五人の勇士が集えば、ごらん無敵だ

 トーマス ブラック

 バイオ パープル

 バイタル ブラウン

 エリオット イエロー

 シー ブルー

 我らムービー戦隊モーションカンパニー、ドドドドオッドドドカン」

 「えー、なんか迫力があるのは認めてやる」

 「それを白黒ムービーでやるとはね。五人の区別がつかんが」

 「そうでしょうが、ブラックの区別はつくかと思います。

 ブラックの特許は、映写機です

 バイオの特許は、撮影用カメラです

 バイタルの特許は、フィルムです

 エリオットの特許は、リールです

 シーの特許は、コマ送りです

 つまり、これらの特許を持つ企業を我々の陣営に迎えることができますと、先方のとる手段は二つしかありません。廃業するか、莫大な特許料を上映回数ごとに払っていただきます」

 「確かに、これらの特許を回避している撮影機材はない。よって、これらの特許を抵触している限り、裁判に持ち込めば勝てるだろう」

 「はい、コウ=チンは無料の短編と劇場用の長編を一度の上映で映写している。つまり、他の会社の二倍の特許料を支払わねばならないということだな」

 「はい。この手法であれば、禁酒法によって得た儲けを上回るものをコウ=チンに請求できます」

 「では、確認事項といこう。言い逃れのために亜米利加各地を映画作製会社が逃げ回ったらどうなる」

 「我々の要望は、コウ=チンをシカゴから追い出すことにあります。シカゴから逃げ出せば我々の勝利というわけです」

 「なるほど、確かにそれが目的であったな。では第二の確認は必要ないか。亜米利加の国外にコウ=チンが逃げ出すことだ」

 「それこそ、最終的な勝利かと」

 

 

 

 

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