仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第170話
1909年(明治四十四年)十二月二十一日
パリ カフェ モンブラン
「ジャポンに関する賭けは俺の勝ちだ」
「ついに、非白人国家で戦艦を就任させるのは、ジャポンになったか」
「戦艦建造能力を持つ国は、英米露仏独墺伊の次に日本ときた」
「しかし、英国はえげつないね」
「薩摩が進水した後、一ヶ月後にドレッドノートを就任させるとはね」
「おかげで、薩摩が就任するまできちんと前進するのを確認するまで、ジャポンが戦艦をちゃんと製作したという賭けは続行されるといった君のようにずるいじゃないか」
「どっちがずるいだろうか。やっとのこと、国産第一号戦艦を建造したと喜んでいた日本人をそれは、二十年遅れだという戦艦を先に就任させた英国の方がえぐいだろ」
「そういわれればそうか。進水した後、一年で就任したドレッドノートと対照的に、就任まで四年もかかったのは、ドレッドノートショックの影響か」
「いやいや、それは非白人が試行錯誤の末作った戦艦だから、あっちこっち進水後に手直しをしたとき話だから、それをネタに賭けの負けを四年も引き延ばしたお前の方がずるい」
「いやいや、やっとこさ、石炭燃やして十八ノットと、世界標準の速度を出した薩摩を重油燃焼による蒸気タービンで置き去りにする二十一ノットを出すドレッドノートの方がずるいでしょ」
「いやいや、英国がドレッドノートを就任させたせいで、他の戦艦全てが時代遅れとなったわけで、その重い負担を一番抱えるのは、海軍大国英国でしょ。報いを受けている英国と違って、のほほんと賭け金を四年間抱え続けたお前の方が辛辣だ」
「本当に、英吉利が一番か」
「ほうほう、そこまで言うなら、戦艦の数を数えてやろう」
「ちなみに日本は、2+2(建造中)」
「ほう、下からきたか。だったら、伊太利は七隻」
「墺太利のほうが、伊太利より少ないだろ。12+4」
「十分多いわ。ちなみに、独逸は16+6」
「それなら、仏蘭西の方が少ないか。19+2」
「いやいや、亜米利加の方が少ないぞ。32+2」
「亜米利加になると、太平洋と大西洋に分かれるから、分割されるからな」
「だったら、露西亜は、太平洋と黒海及びバルト海の三分割で、24+4」
「では、英吉利は、世界中に戦艦をばらまいて、36+4」
「そのうち、ドレッドノート就任以降、火力をあげるために改装中のは?」
「二割といったところか」
「改装の要点は?」
「蒸気タービン化による増速」
「火力をあげるために、主砲の口径をあげる」
「火力増大に対処するために、装甲板の増強の三択かな」
「三点も改良するなら、新船を建造した方が早くないか」
「戦艦も使い道がね。海戦なんて、戦艦が登場してから誰も経験したことないからね」
「戦艦と戦艦が撃ちあったらどうなるんだ」
「火力の差で決まるでしょ」
「いやいや、命中精度でしょう」
「一斉射こそ、最上」
「誰も知らない世界だ」
「世界は、平和だからね」
「だが、賭け金は三倍返しだ。四年分の利息が賭け金の二倍だ」
「しつこいお前が一番ひどい」
1910年(明治四十五年)一月二十日
「ジャポンの弁士制度は、世界を覆ったね」
「パリだと、各区ごとに弁士が生まれる」
「弁士が違えば、映画も別の物語だという連中も多いし」
「おかげで、フィルムを供給する側は、観客動員増を狙って、大量の弁士が採用されるのを推奨している」
「今、一番視線を集めている職業かもしれない。弁士をしてますといううたい文句に男は群がるからね」
「貴族も群がるよ。適齢期前の子息に箔をつけるなら、弁士という話だな」
「職業を嫌う貴族もより上級階級に薦めるには、弁士という話だからね」
「だったら、男と女弁士各一人、あるいは女二人という弁士の形態はないのか」
「早々、弁士の養成は出来ないよ」
「だから、町一番の弁士を比較するために、観客は映画館をはしごする」
「というわけで、パリで一番の弁士も観客同士の間で、決まっているわけで」
「弁士の出来が、その映画館の動員数を半分決めてしまうわけで」
「主演俳優と双璧をなす重要人物ともいえる」
「弁士から俳優に進む道はないのか」
「もちろんあるよ。それよりも俳優の選抜に落ちた俳優の卵が次の機会を狙うために、勉強と称してつなぎの仕事とする者も多いかな」
「と、いうことは映画館が多い所ほど俳優が集まると」
「それもあるけど、町一番の称号が欲しくて田舎に広がってゆく連中もいるね」
「村一番の美声というのも世の中、もてる要因になるだろ」
「少なくとも村の全員が証明してくれるわけだし」
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