仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第173話
1910年(明治四十五年)六月二十八日
パリ カフェ モンブラン
「朝刊の一面を飾ったのは、敵対国オスマントルコの首都、焼き野原になったイスタンブール」
「歴史家は、東ローマ帝国の仇を取ったのは、露西亜帝国として称賛をしている」
「イスタンブールのヨーロッパ側は、かつて東ローマ帝国のあったコンスタンティノーブルで、オスマン帝国が占拠後、教会はムスクに改装されていたわけで、今度は東方正教の教会へと改装されるであろうと記述されているな」
「二十世紀の十字軍は、海路より現れたと称賛する新聞もある」
「これで、墺太利海軍は、アドリア海のトリエステを本拠としているわけだが、伊太利海軍に伊太利とギリシアのラインを封鎖されて、地中海への進出ができなくなり、一言でいえば、墺太利海軍は靴の形をした伊太利本土のかかとで踏みつけられてしまったとわかりやすい表現を使っている新聞もあるぞ」
「とりあえず、俺は露西亜にとどまっていたハイカラ書籍が仏蘭西にまで届くと、恋人の機嫌がよくなるので、ほっとしてるよ」
「露西亜陸軍は、露西亜海軍が焼け野原にしたイスタンブールに入ってボスポラス海峡を含む黒海並びに地中海の海上輸送路の安全を確保したと」
「今まで仏蘭西への輸出入が大きく阻害されていた要因がとりのぞかれた」
「トルコは、スエズ運河まで出払って運河封鎖をしている場合ではなくなったわけで、トルコ中央にあるアンカラに引き返し、第一目標をイスタンブール回復に変更するしかあるまいし」
「露西亜とは火力が違いすぎるのだから、賢明な為政者ならば、イスタンブールを放棄した新しいトルコを模索した方がよいのではないか」
「それは、もう一つの手段があり得るぞ。独逸が仏蘭西を撃破して、戦争勝利国側に入って、戦後にイスタンブールを回復するというもの」
「これには、地中海と大西洋を隔てるジブラルタル海峡の南側を仏蘭西が押さえているのが大きいね」
「モロッコのタンジェを仏蘭西が押さえている地点で、要塞砲にけんかを売る艦隊はでてこないだろうしね」
「独逸艦隊が地中海に行こうとしたところで、戦時速度で独逸領から出撃したとしても、途中で燃料である石炭が切れるだろうし」
「現在、石炭燃焼から重油燃焼に換装の真っ最中で、石炭船と重油船との混成部隊となれば、足並みをそろえるのが厄介な仕事になるしね」
「しかし、戦艦が歴史に登場してから、確か二十年もたっていなかっただろう」
「だが、戦艦が有効に使われた歴史上の初めてはこれで、海上要塞というにふさわしい働きだ」
「戦艦は、国家の威信をかけた構造物という表現は今も通用してはるからな」
「今後も戦艦さえあれば、海上都市を灰塵にできるという脅しをかけ続けることができるわけで」
「英吉利と独逸が繰り広げた戦艦建造競争も一部正しかったのか」
「そうはいっても、オスマントルコが後進国であったという証拠でもあるよ。首都防衛ができていない装備なぞ、軍艦を建造する能力がある国ならば、戦艦の主砲を上回る火力を有した要塞砲を準備しているよ」
「確かに、どの強国であろうと戦艦を沈没させるだけの能力を持つ要塞砲を首都には用意しているものだが」
「当初、建造できたのは白人国家七カ国だけ」
「その参入障壁は今も高く、二十年間に参入した国家は、ジャポン一カ国だけ」
「で、俺がきいた話では、コンスタンティのーブルの陥落を受けて、露西亜皇帝が仏蘭西大統領に働きかけをしたという」
「ほう、ジャポンに参戦を要請するというものか」
「いや、ジャポンは東南アジアの仏蘭西植民地の防衛をしていれば、問題ないというのが両国の一致した見解であることは今まで通り変更はない」
「となると、戦争終結後の話か」
「そのようだ。なんでも、せっかくスエズ並びにパナマ運河を開通させた土木力をもつジャポンを遊ばせておくわけにはいかないという方向で話がまとまったとか」
「ほう、それは南周り露西亜とパリをつなぐ路線を掘らせるとか」
「いやいや、それは敗戦国に任せればよい。独逸なぞ、いままで露西亜とパリをつなぐ路線で相当な線路使用料並びに運賃収入を得ていたものをそれを取り上げられなおかつ、中央ヨーロッパ南部にゲルマン民族が使わない路線を掘らせればよい」
「となると、シベリア鉄道の全線電化工事か」
七月一日
江戸城
「ご老中様、此度、露西亜皇帝並びに仏蘭西大統領の連名で将軍家に書状がまいっております」
「どれどれ」
「では、仏蘭西が勝利した後の戦後処理に対する我が国への要求をこれより三つ並べる」
「一つ、日本はアジアにおける仏蘭西植民地の防衛に励むべし」
「ほうほう。これは、普仏戦争の時の再現でごさいますね」
「これには、清国への押さえという側面もございますね。日本海の制海権を確保せよ」
「日露貿易の要となるウラジオストークへの輸送路を確保せよとのことですな」
「二つ、仏蘭西を鼓舞させるために、ハイカラの映画を製作せよ」
「これは難題でございますね」
「左様、目下連載中の作品を映画化せよとは、国が威信をかけてすれば金銭問題は何とかなりますが」
「十分な内容には足りませぬな。もう少し、もう一年、連載が続いておれば問題ないのですが」
「これは、大奥に任せよう。何やらうまい策を考えてくれよう」
「では、この問題は版元の大奥に一任いたすものとして」
「三つ、現在、露西亜占領地であるイスタンブールの安全確保するために、アジアとヨーロッパを連結せよ」
「はて、それでは話が通じませぬか」
「ふむ、いい方が悪かったな。ボスポラス海峡が隔てているアジアとヨーロッパを手段は問わぬが、双方を連結せよ言うことだ」
「つまり、埋め立てか、海上橋、トンネルの三択でございますか」
「埋め立ては却下、そのようなことをすれば、黒海艦隊は地中海への進出ができなくなるゆえに」
「これは、専門部会を設けて検討しなければなりません。技術的な課題を克服せねばなりませんゆえ」
「もっともな意見だ。早速作業部会を立ち上げよ」
「了解しました」
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