仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第183話

 1911年(明治四十六年)六月三日

 独逸陸軍司令部

 「最近、仏蘭西軍はかわったか?」

 「飛行機部隊が一番変わりました。なんでも、陸軍、海軍に所属しない第三の軍として空軍を創設いたしたようで」

 「ほう。それは、最近、独逸軍の飛行機が撃沈されている理由となるのか」

 「仏蘭西空軍は、今のところ、陸軍の付属部隊という立場を堅持していますが、どうやら、飛行機に乗ったことがある連中を集めているようです」

 「それは基本だろ。飛行機乗りが一人前になるまで、最低三カ月かかるんだぞ。経験者をまわせば、どれほど時間短縮できることか」

 「そうですが、どうやら仏蘭西空軍は、一味違います。飛行機に役割分担があるようで」

 「今のところ、飛行機というものは、陸軍使用の機関銃を抱えて、ドンぱちする以外、違いがあるというのかね」

 「飛行機による偵察ですが、偵察を専門にする飛行機をどうやら先頭に展開しているようですね」

 「はて、航空偵察とは、単独飛行機によるものではなかったかね」

 「はい、今まではそうでした。双方、単独行動をする飛行機により陣容が丸裸にされるようになりました。となりますと、これは軍事機密が駄々漏れというわけでして、当初、拳銃を打ち合っていた飛行機も墜落をさせるには不十分だとして、機関銃が配備されるようになりました」

 「そうだ。開戦から半年を過ぎたところで、戦闘機という分類が生まれた」

 「それが偵察機を撃ち落とす役目を果たすようになり、航空偵察も停滞し始めました」

 「その打開策として、偵察をする機体は、一編成の中に組み込まれるようになりました。この場合、偵察一機、護衛二機を編成して、戦闘機による偵察妨害を排除するようになりました」

 「つまり、こちらが一機で戦闘に持ち込めば、MS-2戦闘機二機により挟み撃ちに持ち込みます」

 「それは、こちらのAD-2戦闘機一機では逃げるのがせいいっぱいではないのか」

 「敵の目的次第ですね。敵が三機編成を組むのは、偵察を目的としているわけで、この場合、追撃をしてきません。こちらのAD-2戦闘機は無事離脱できます」

 「ほう。それは良く統制がきいているな。飛行機乗りとは、一匹狼ではなかったか」

 「ええ。どうやら、先頭を行く偵察機に秘密があるようで」

 「偵察機は、偵察が目的だろ。戦闘機乗りよりも優先度は低いだろ」

 「今までの言葉からでも、護衛機であるはずの戦闘機が二機とも護衛に残る点一つをとっても、独逸側からは理解しがたい行為です」

 「確かにそれは言えるな。飛行機乗りは、戦闘機に乗り五機撃ち落とせば、エースとよばれる。一つの頂点を極めることになるわけだが、戦闘機乗りがその機会を放棄するとは、よほど重要な人物がその機体ののっているのか」

 「そのようです。航空偵察の重要度が増した事例があります。明らかに、仏蘭西の大砲と航空偵察が連結しています」

 「偵察の結果がやはり、大砲の砲撃先を決めているとみていいか」

 「はい。例の偵察機が仏蘭西陣地に帰陣した後、二時間後に仏蘭西側から大砲が降り注いでくるようになりました」

 「ああ、一部の兵からは定期便と名をつけた集中砲撃だな」

 「明らかに、独逸陣地の重要拠点を集中砲撃するようになりました。指令がいっていた仏蘭西軍が変わったという一番の原因かと」

 「空中から地上を偵察する能力も高く、そしてそれをすぐさま活かす情報処理能力もある。火力集中投入。厄介だな」

 「はい。敏感な兵は、仏蘭西の航空偵察が終わった後、弾薬を塹壕にしまい、さらにはそのまま塹壕に閉じこもるようになりました」

 「生存をあげる工夫ゆえ、止めるのはまずいな」

 「火器の管理を厳格にしたということでとがめるのは難しいかと。さて、どうしたものか、せめて損害を減らす術を取らねばならんな」

 「最善は、敵の航空偵察を止めることです」

 「それには戦闘機乗りに頑張ってもらうしかあるまい」

 「それに貢献する手段として、陸軍使用の機関銃の軽量化が一番かと」

 「その重要性は認める。しかし、陸軍として、敵の鉄条網の突破をはかる兵器の開発も急でな」

 「確かに、それに成功すれば戦線は一気に動き出すでしょう」

 「後、独逸軍は侵攻軍だ。補給線は仏蘭西より長く、航空偵察に見つかる可能性が高い。さらに植民地の数が伝統国仏蘭西より大幅に少ない」

 「はい、戦争継続能力は仏蘭西が上です」

 「敵の空軍力を駆逐する研究は、次点とする。研究の重点は、塹壕戦を一気に解決する兵器の開発を最優先課題とするほかあるまい」

 「しかし、それでは大砲の標的とされている兵士が納得いたしますでしょうか」

 「そうだな、では、その偵察機を重点的に攻撃してみてはどうだろうか」

 「了解いたしました。その偵察機を恩賞の対象に引き上げることにします。そうすれば戦闘機が、偵察機を執拗に追いかけることになるでしょうから」

 「仏蘭西は伝統の持久戦思考。塹壕戦は、敵の思うつぼか」

 

 

 

 

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