仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第188話

 1912年(明治四十七年)二月十三日

 ニューヨーク港

 「独逸の横暴を許すな。それが受けいれられるまで、我々は座り込みを続けるそ」

 「「「おおっ」」」

 「確かに、横暴と言われても仕方ないほどの持ち出しだよな」

 「亜米利加は、09年に大統領が就任して禁酒法を廃止するのにえらく時間がかかった」

 「禁酒法が廃止されたのは、10年当初からで、地方はやっとこさ酒造会社が立ち上がり始めているが、全米で必要なアルコールの半分しか製造できない状況にして、独逸がごっそりとアルコールを輸入するおかげで、亜米利加市民ののん兵衛は反独が広がりつつある」

 「まあ、戦争だから仕方ない面もあるが」

 「同盟国は、穀倉地帯を抱える国がないからね。穀物まで輸入していては、酒まで手がまわらない」

 「ヨーロッパのワイン王国といえば、仏蘭西、伊太利、西班牙だが、独逸が輸入できるのは、中立国である西班牙のみ」

 「戦争は、強い酒を要求するからね。ワインで輸入したところで、それを蒸留してブランデーにしてしまうのが戦争というものだ」

 「それに、今の時期は冬季だ。憂さ晴らしに使われるだけじゃない。塹壕にこもっている間、体温保持のために酒が使われる」

 「うは、それこそ、蒸留酒の出番だ」

 「アルコールは殺菌作用があるから、負傷兵が出れば痛み止めに包帯の殺菌へと一人二役だね」

 「戦争は総力戦か。農業生産まで戦力のうちか」

 「もちろん、金があればある程度代換えできるが」

 「その金を求めて、世界中を帝国主義が覆ったんだが」

 「その中に、亜米利加は入るのか?」

 「帝国主義にかぶれた亜米利加ならば、此度の戦争にも参加する方針でいくのだろうが、大企業と農園は、戦争当事国に輸出をすることでぼろもうけの最中だしね」

 「輸出にぶれる中、生産が追い付かない製品に関しては、輸出禁止をかけて抗議活動がおきている最中だ」

 「案外、戦争による買い占めでその反対勢力が結束した結果、亜米利加が同盟国側につくか連合国側につくか趨勢が決まる場合があるわけで」

 「昔の亜米利加を思い出すね。禁酒法をめぐって宗教票とノンアルコール業界が結束して、とうとう法案を通してしまったがね」

 「どうせなら、独逸に輸出する商品は、映画フィルムのように再生産が容易なものであってほしいね」

 「この戦争、金が続くまで終わらないのかな」

 

 

 

 二月二十六日

 英吉利外務省

 「斜陽の帝国になりつつあった英吉利を支えるモノが、世界大戦か」

 「英吉利の工場に多量の発注品を集め、余剰労働力を払しょくした世界大戦か」

 「そのおかげで、大英帝国を支える植民地にも原材料の供給がしまってきた」

 「政府はこの戦争が長引かせることを期待するようになってきたな」

 「戦争という不幸を喜ぶ大英帝国か」

 「それは仕方ないよ、今度の戦争、火力をどこまで集められるかに大きな比重を置きそうだからね」

 「しかし、塹壕戦か。機動力の全く関係ない戦いとは、人間は有史以来進歩がないと言われそうだが」

 「陸上はそうだが、空中戦は少しでも速度の速い飛行機を求めている戦争でもある。海軍は中途半端といえるかな。前弩級と弩級戦艦が共存し」

 「それはいいかえると、石炭船と石油船という船速が全く違う船舶により、陣形という概念が成り立たない」

 「とりあえず、資本家は劣勢である同盟国側が盛り返せるように、六四で同盟国側を優遇するようだ」

 「露西亜の戦争相手国選びがうまかったのかね。海軍の船舶をさびさせるようなトルコに攻勢を仕掛けるとは」

 「うまく、露西亜国内の目を黒海航路に向けさせる力が後押しをしたというべきか」

 「サンクトペテルブルクでの貨物積み替え労働力をそのまま、バクーでの船舶積み替え作業に誘導できたのも大きい」

 「露西亜貴族を海軍勢力に集約できたのも大きいけれど、戦後を見据えたニンジンをぶら下げさせたのも大きな効果だな」

 「おかげで、墺太利南部のいわゆる東欧諸国は、独逸の誘いに乗って同盟国側につくことをしないし、国内で戦争参戦勢力が大きくなることもない」

 「弊害としては、ウラジオストークからイスタンブールを経由してパリに至るユーラシア鉄道計画のおかげで、極めて英吉利の影響力が小さくなったことだ」

 「この勢力が中東にある仏蘭西植民地と連動すれば、七つの海を制覇する英吉利ではなく、七か所に分断された英吉利となることだ」

 「では、独逸に勝ってもらうことが英吉利にとってはふさわしいのでしょうか」

 「それだが、独逸兵は今大戦中最も規律正しく、強靭で、新興国だけに新型兵器の充足率が最も高い」

 「その独逸が仏蘭西相手に対等に戦っているのは、ひとえに戦争を仕掛けているからだ。これが立場を反対にして、独逸が守備側で仏蘭西が独逸国内に攻めんでいれば、仏蘭西は一年をもたずに独逸国内から退却していたことだろう」

 「ということは、強兵の独逸がのさばるのはまずいと」

 「歴史は繰り返すためにあるのかもしれない。普仏戦争のやり直し戦争になってもおかしくない」

 「しかし、支払い能力は仏蘭西の方が大きいですよね」

 「英吉利としては、後二年戦争が停滞しておいてほしい所だね」

 「なるほど、双方が疲弊してくれたほうがいいと」

 

 

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