仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第192話
1912年(明治四十七年)七月二十八日
仏蘭西空軍司令部
「司令、アンナ伍長よりナンシー方面に向けて、トラック部隊並びに歩兵四個師団、及びその近辺で飛行場二滑走路の建設中であるとの報告があがってきております」
「歩兵四個師団といえば、一軍と言われる五万人の歩兵がナンシー目指して前進中か」
「はい、この情報を得た空軍としては、ナンシー攻略目指して独逸が大攻勢をかけてくるのではないかと予想いたしました」
「すぐさま陸軍に連絡せよ。ナンシー北方で独逸の大攻勢があるかもしれないと」
「ははっ」
「では、ここに残っている面々に訊く。騎兵隊が歩兵隊に駆逐されて以降、双方はアナグマ生活をしていたのだが、ここで独逸が攻勢をかけてくる理由を考えてくれ」
「まず、偵察飛行により滑走路が建設中であるとの報告を重視いたしますと。空陸一体攻勢をかけてくるのではないでしょうか。この場合、戦闘機は空を飛ぶ機関銃として仏蘭西陣地並びにその後方に位置する大砲部隊を攻撃するのではないかと」
「その場合、動員される戦闘機の数は予想できるか」
「ADU戦闘機百機を想定しています」
「横からではなく空から降り注ぐ八ミリ機関銃か。対処法があればのべよ」
「こちらも迎撃用に戦闘機をとばすしかないでしょう」
「幕開けは、空を確保する戦いか。で、こちらが用意できる迎撃機の数は?」
「百機を初期状態で待機させましょう。さらに予備として予備機全部をナンシー後方に待機させましょう」
「飛行機はそれで何とかなるが、陸軍は足りないだろう。もし、陣が抜かれた時のために対処が必要だ」
「では、パリにいる予備兵である二歩兵師団をナンシーに送りましょう」
「ああ、これで国内にいる予備戦力は伊太利に侵攻予定の墺太利軍に対処するためにある二個師団のみか」
「今から招集して、飛行偵察の威力に感謝しないとな」
「これで、独逸の侵攻を止めることができれば、アンナ伍長は、少尉まで後一歩だな」
パリ第二歩兵師団
「よし、俺たちの出番だ。タクシーを呼べ」
「タクシーを呼んでどうするんで」
「戦場まで、ルノーのタクシーでいくに決まってるだろ」
「それが早いからか」
「ま、それもあるが」
「師団長が言いたいのは、男は戦場に駆り出されたんだから、残っているのは」
「運転手は、女」
「そ、道中、楽しくいこうな。それと寄り道すっから」
「了解」
パリ外郭
「それでは、お言葉に甘えて」
「おう、どんどん刈ってゆけ」
「というわけで、竹を刈り取ったら、タクシーの上にくくりつけてゆけ」
「なるほど、竹の中が空洞だから、頭上にたくさん積めるんだな」
「これを教えてくれた日本人が言うには、竹で竹槍という物ができるらしい。ま、今回は、長篠の戦いにちなんで竹で柵を作ろうと思ってな」
「では、我が師団に名前を」
「おう、日本人に訊いてきたところ、そのまんま竹槍師団だ」
「行け行け、竹槍師団」
「タクシーは、ピストン輸送だ」
「竹はその都度、ルーフに積んでゆくぞ」
七月二十九日
アンナケスタ独逸最前線
「さあ、仏蘭西の度肝を抜いてやろう」
「ああ、まともにまっすぐ抜いてやろうぜ」
「ああ、戦争は量だ。だが、防弾ができていなければ、機関銃の弾幕をくぐりぬけないからな」
「そんなわけで、タンクの出番だ。防弾のできる鉄板を使った移動手段となれば、機械しかない。いけ、ブルトーザー改」
アンナケスタ仏蘭西陣地
「おい、あれはなんだ」
「鉄の馬だろ」
「それはともかく、ライフル銃を当てても前進をやめないぞ」
「独逸の秘密兵器だ」
「塹壕破りだ」
「あわてるな。正面が駄目なら、鉄の馬が俺たちの後にまわれたら、ライフル銃をぶつけろ。後部への防弾は十分じゃない」
「しかし、もう少しで前線が崩壊します」
「鉄の馬があけた穴を敵歩兵が後詰めしてきます」
「諸君、このまま敵歩兵に銃口を向けたまま、二百メートル後退だ。塹壕は放棄する」
「しかし、そこへ後退した後、なにかあるのですか。塹壕を取られた地点で、後は都市に逃げ込むしかないのでは」
「諸君、この日のためにパリ司令部は竹槍部隊をよこしてくれていた。あれだよ、長篠の戦いだよ。二百メートル後退すれば、竹束で防御陣地を構築してくれているぞ」
「了解」
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