仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第194話

 1912年(明治四十七年)七月二十八日

 アンナケスタ独逸陣地

 「抜けたな」

 「ああ、こんなに簡単に仏蘭西陣地が奪えるとは」

 「パンツアー様々だな」

 「塹壕からのライフル射撃をモノともしない防御力に突進力。時代はかわるな」

 「速度だけをとったら、馬の方が速い。なんせ、農業用と建設用の転用だからせいぜい時速十五キロといったところだ」

 「それにみろ、塹壕越えをさせてしまった無理から、二十台のうち過半数はすでに機能停止だ」

 「それは仕方あるまい。雨あられと降ってくる機関銃の弾をはじくだけの鉄板を前面と側面に取り付けたんだ。重量超過だ。所定の二倍の荷重をかけてしまったからな」

 「それに無限軌道に用いた鉄板に継ぎ目が取れてしまったものも多い。二度目の塹壕越えは、少なくとも一ヶ月後まで部品が手に入らん」

 「無限軌道の歴史は浅いからな。タイヤで代用できないから無理もないが」

 「これで、仏蘭西の前線が崩壊したのなら安いものだが。さて、このまま崩壊した前線を真横から一斉銃撃してやろうぜ」

 「そうだ。問題はこれからだ。これより、勝利を得るにはこのあけた穴を活かさねばならん」

 「報告報告、奪った塹壕にいる前線部隊より連絡です。敵は第二の前線を塹壕後方二百メートルに構築中」

 「それは、塹壕か。それとも壁か。単なる有刺鉄線か。詳しく報告せよ」

 「はっ、地面に穴を掘った形跡はありません。兵士の前方に緑の木材で即席の壁を構築中かと」

 「つまり、このまま放置すれば、第二の塹壕まで成長途中か」

 「その通りであります」

 「これを放置して、東西につながる仏蘭西陣地を攻撃した場合どうなるか」

 「左右の塹壕に武器弾薬の補給が途絶えることがありません。やはり、左右の塹壕の後方を遮断し、弾切れをおこすようにしなければならないでしょう」

 「やはり、後方につくられつつある前線を排除しなければならんか」

 「すぐさま、第二の前線を攻撃するように命令を出す」

 「はっ、前線に戻ります」

 

 

 

 独逸軍前線部隊

 「で、司令の命令は」

 「すぐさま、構築されつつある仏蘭西陣地を攻撃せよと」

 「連絡、御苦労」

 「はっ」

 「では、司令の命令に従うか」

 「二年間停滞していた塹壕戦が終わりをみそうになったモノが。仏蘭西軍が残していった塹壕を乗り越えて、まだ進軍せよか」

 「後は楽だね」

 「ああ、そうだ。パンツアーはもう使えないぞ。まだ稼働中のものもこれ以上は無理させれない」

 「それってよ。歩兵で敵陣に進軍しろってことか」

 「命令は命令だ。塹壕破りをした混乱が敵さんに続いていればいいが」

 「俺は、ほとんど陣として機能していないことを願うよ」

 「ああ、そう願いたい」

 「それ、進め」

 

 「撃て、撃て。構築中の仏蘭西陣を破壊せよ」

 「パリン、パーン」

 「うん、いけるな。張りぼての陣か」

 「木がいい音をたてて砕けてくよ。ライフル銃で陣を抜けるか」

 「どうやら、仏蘭西は浮足立っているな」

 

 

 

 フランス第二陣地

 「諸君、よくここまで独逸兵をひきつけた。しかもおあつらえ向きに敵は歩兵だ。逃げ出した独逸兵は、ライフル銃の射程内で全滅できるぞ。さ、弾幕を張れ」

 「全員、一斉射撃」

 「パパアパパパン」

 「敵兵、残存兵ごく少数」

 「御苦労、後は、楽に殺してやれ」

 「了解。敵兵でたちあがっている者がいなくなるまで撃ち続けよ」

 「司令、なんとか前線の崩壊を防げましたね」

 「ああ。竹のおかげだね」

 「そうですよ。ひたすら地面を掘って土壁をつくるだけでしたら、四十センチの山がせいぜいでしたでしょう」

 「そうだな。竹を並べてその後ろ側に土をかけてゆけば、即席の河川堤防を作ったようなものか」

 「はい。単純な土で山をつくるより、半分すぱっと中心線で切ったような山を構築していったわけですから、独逸兵が近づいてくるまでに八十センチの高さまで持ち上げることができました」

 「それはひやひやだよ。ライフリングにより直進性と貫通性を増した銃弾は、いい音をたてて竹を貫通していったね」

 「はい。土壁を半分以上つき進んだ弾もあります」

 「おかげで、安心して独逸兵が接近してくれたのだから、結果往来としよう」

 「はい。前線の崩壊を防いだことを素直に感謝いたしましょう」

 「なにはともあれ、この後、ひたすら塹壕の構築だな」

 「敵の新兵器が突っ込んでこないことを祈るばかりです」

 「懸念材料は尽きんな」

 

 

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