仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第199話

 1912年(明治四十七年)七月二十九日

 アンナケスタ 元仏蘭西塹壕、現独逸陣地

 「おい、新米、見張りにたて」

 「ヤー。コスナー二等兵、見張りに立ちます」

 「コスナー、見張りはお前に任せる」

 「ヤー。シュバルツ一等兵より見張りの任務を引き継ぎます」

 「コスナー、見張りはお前がやれ」

 「ヤー。ミカエル一等兵より見張りを引き継ぎます」

 「コスナー、見張りはお前一人で大丈夫だ」

 「ティガー先輩、待ってください。なぜ、俺は一人で見張りをしなくてはならないのでしょう」

 「お前が見たモノが物語っているからだ」

 「先輩、もっと具体的にお願いします」

 「時間がないのだが、しょうがないから教えてやる。お前も後輩ができたら使えよ」

 「はい」

 「仏蘭西軍で忌まわしいものが二つある。一つは、上空を飛ぶ偵察機だ」

 「そうですか、めったに機銃射撃も当たらないでしょうし、気にしないてもかまわないのでは」

 「馬鹿野郎。そんなことを御偉いさんの前でいってみろ。ここ最前線がぬるかったという現場に行かされる。ひたすら塹壕掘りとか、落下傘の実験台とか、試験段階のパンツアーの操縦試験とか、昨日の突撃歩兵部隊とかだな」

 「全部御免こうむりたいです。そんなに厄介なやつなんですか」

 「最初にいったが、それ単独なら、どうやら機関銃も装備していないから攻撃力も皆無。極論を言えば歩兵の方が強い」

 「そうですね、それなら全然怖くありません」

 「だが、空中でそれに味方の迎撃機が攻撃をかけると成功率は極めて悪い」

 「へ、相手は逃げるだけでしょ。何にも気にすることはありません」

 「馬鹿を言え。偵察機だけを視界に入れてゆくとだな、そいつの護衛機がしゃしゃり出てきて、あっという間に撃ち落とされる」

 「それはおとり役ですか。卑怯ですね」

 「まあ、それは置いといてだな。あいつの厄介なところは、偵察機が飛び去った後だ」

 「へ、いなくなった飛行機が問題なんですか」

 「そうだ、武器を持たないやつの方が問題なんだ。実はな、そいつが飛んだ地域は重点的に大砲が落ちてくる」

 「そいつは、本当に疫病神ですね」

 「で、今日は、疫病神がもう一匹ついてきている。あの大砲の発射音をきいていればわかる。やつは、仏蘭西軍一の名手というやつなんだろ。あいつに狙われてみろ、敵陣地から見える所ならば、かなりの確率で歩兵に命中させることができる。だからあの発射間隔で撃ってくるのが聞こえたら、見張り一人を残して全員塹壕に隠れることになっている。ここまでいえばわかるな」

 「はは、その地表に残される見張りというのが自分であることがわかりました」

 「そうだ。もちろん、君が命令して誰かに代わってもらうのもありだ」

 「下手な希望を持たせないでください。新兵の俺は階級も一番下の新米です」

 「では、いうことは一つだ。任務を全うせよ」

 「ちなみに、俺以外に見張りに立つやつがいれば、塹壕に入ってもかまわないんですよね」

 「いればいいぞ。ただし、この辺は順番だな。塹壕が七つあって、毎日見張りに立つ塹壕は曜日が決まっている。残念ながら、今日は月曜で、うちの当番になっているが」

 「わかりました。コスナー二等兵、職務を全ういたします」

 「うむ、後輩が来るまでの我慢だ」

 「それはありません。昨日の突撃で相当数が死にました。補充なぞ期待できません」

 「それはそれ。軍隊の秩序というのでよろしく」

 「はい。階級は絶対。先輩後輩はその次に重要」

 「そう。その秩序がひっくり返る二階級特進はやらないように」

 「それは御免こうむります」

 「では、敵が大砲が撃ちだしたから後はよろしく」

 「最善を尽くします」

 「それでこそ、独逸兵だ」

 

 

 アンナケスタ 仏蘭西大砲陣地

 「どうだ。敵兵の姿は見えるか」

 「いつものごとく一人だけみえます」

 「では、そいつが今日の目標だな」

 「しかし、今日は敵のタンクとか目標がありすぎて的は困ることはありません」

 「だが今日の第一目標は、式典が始まるまでに血祭りにあげるぞ」

 「わかりました。いつものようにぶっつづけで撃ちまくるのですね」

 「目標が一つなら、微調整が必要なしの可能性が高い。だとしたら、撃ちまくるだけだな」

 「では、第二目標だけ決めておきますか」

 「そうだな。そいつに一番近いタンクはどこだ」

 「そいつの後方、五メートルです」

 「だったら、そのタンクに先にあたらなかったら成功だな」

 「了解いたしました。目標確認作業に入ります」

 

 

 

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