仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第205話

 1912年(大正元年)九月二十一日

 独仏国境 仏蘭西司令部

 「明らかに、独逸兵は減ったよな」

 「減りました。噂では、空軍とともに墺太利に赴いたとか」

 「しかし、穴がない。攻めるべき弱点が見つからん」

 「はい。荒廃した旧仏蘭西領で独逸に占領していた地域は、交通機関並びに道路が遮断されていますので、仏蘭西は補給線が細くなっています」

 「そのせいだろうか、大砲部隊と離され独逸兵を大砲で撃ちぬくことが出来んせいでこの国境線を破れる自信がない」

 「独逸に誘い込まれたというべきか」

 「しかし、それでも独逸を追い詰めて独仏国境線まで押し上げませんと、国民が納得してくれませんよ」

 「ああ、それに露西亜の攻勢に感謝の気持ちを示すために失地回復はやっておかないと俺の首が飛ぶ」

 「でしたら、守備的に対応する独逸に合わせて、仏蘭西領内の道路を復旧させ、大砲部隊を呼び込めばよろしいかと」

 「整地がこの時期の仏蘭西軍のお仕事か。まあ、独逸に再占領される悪夢だけは避けるように」

 

 

 

 ブタペスト東方独露最前線 独逸陣地

 「さて、装備はすべてそろった。露西亜に対して攻勢をかける」

 「先に空軍の偵察部隊をあげましたが、報告はあまり聞きたくありませんな」

 「言わんとするのはわかる。独の応援、二十万を足しても露西亜の陸軍歩兵二百万人とでは、三倍の開きがあると」

 「一対三の戦力比ですか」

 「古代なら戦わずに逃げ出すのが正しそうですね」

 「だから、その差を埋めるために空軍を半分ひきぬいた」

 「戦闘機百機を抜き出し、空軍が空を制圧した後、パンツアー百両で勝負だ」

 「人員はそれほど引き連れてきませんが、空軍は半分を引き抜きましたね」

 「パンツアーに関しては、全部だ」

 「確かに、パンツアーは数が大事です。少なければ、プスンプスンとエンジンが止まった時が攻勢の止まる時です。それは、対仏戦で経験済みです」

 「なんといっても、二週間遅れたんだ。遅れる理由が機械の準備に手間だったということにしておく方が墺太利にとっても独逸にとっても有意義だからな」

 「何はともあれ、西部戦線が落ち着いたら、東部戦線。普通なら、二階級程度の昇進がなくては割が合いませんな」

 「そうぼやくな。そのぼやきは、露西亜を押し戻した後、ゆっくりときこう」

 「ええ、露西亜の度肝を抜いてやりましょう。モグラは車両でたたかれることを学習してもらいましょう」

 「とりあえずは、一戦だ」

 

 

 

 

 ブタペスト西方 露西亜陣地

 「戦況はどうだ」

 「はい。独逸の援軍が到着した後、敵軍の火力は間違いなく増加しました。そのため進行速度の低下がみられるものの、相変わらず、一本の塹壕に三本の塹壕線をぶつけるモグラ作戦は有効であります」

 「では、作戦の続行を継続してくれ」

 「伝令、伝令、独逸が戦闘機のよる機銃射撃を開始しました。わが軍のモグラ部隊並びに後方部隊を攻撃しはじめました」

 「では、指令部より命令だ。敵側に車両が出てくるかどうかを最優先で観察せよ。また、敵が車両を使って攻めてきたとしても浮足立つことがないように、戦前の命令通りに動け」

 「了解しました。指令を各部隊に伝えます」

 「よろしく頼む。私も双眼鏡で敵軍の動きを追う」

 「車両が飛び出してきました。その数、五十両以上」

 「どうだ。わが軍の兵士は?」

 「はい。車両に向けて一切、射撃をおこなわない約束事を守っています。また、わが軍に動揺と混乱はみられません」

 「よろしい。数はこちらが三倍いるんだ。弾薬数だけ仕事をしてくれればよい」

 「敵車両、わが軍が掘っていた塹壕線を越えようとしています」

 「どれどれ、私の双眼鏡で観察してやろう」

 「敵車両、三台、塹壕線で横転、塹壕から出てこれません。これは、一気に三本の塹壕線をまたごうとした際、二本の塹壕が接近している箇所で、土壁が崩れ足場を失ったものと」

 「ほう。三本の塹壕とは、攻撃用だけでなく車両を防ぐ溝となるのだな。攻防一帯の優れたものだ。人力で用意できる露西亜がこのままモグラ戦術を使えという神の啓示だな。前線の各部隊に連絡。車両の弱点は、塹壕にあり。車両を落とし穴にはめるための塹壕にそれぞれ拡張せよ」

 「各部隊に連絡を送ります」

 

 

 

 

 独逸指令部

 「ちっ、塹壕を張り巡らせられるとパンツアーの使える場所が限定される。これだから、人海戦術が使える国は嫌いなんだ」

 「えは、今後の指令は」

 「ああ、塹壕をまたがないように各パンツアーに連絡。これ以降、英吉利の望む戦況が停滞した状況を作り出す。西部戦線と同様、守備的に陣を再構築」

 「了解しました」

 

 

 

 

 

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