仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第206話

 1912年(大正元年)十月十九日

 サンクトベルグ 赤い城

 「皇帝、英吉利政府より書簡がまいりました」

 「ふん、独逸に物資を供給している忌々しい英吉利か。それで何をいってきたのか。‥‥‥。至急、大臣たちを招集してくれたまえ」

 「了承しました」

 「皇帝、ご命令により大臣一同参上いたしました」

 「ふむ、ではまずこれを読んでくれたまえ。英吉利政府から休戦のあっせんだ」

 「それでは、大臣を代表して朗読させていただきます。

 

 

 

 親愛なるニコライ二世へ

 この度の欧州戦争が勃発して二年の歳月が過ぎました。戦争は六カ国以上の国々を巻き込み、現在も進行中です。しかし、ここ最近、戦争は停滞をしており、硬直状況に陥りました。世界の警察官である大英帝国といたしましては、この状況を憂い、欧州連盟の設立を呼び掛けざるを得ません。その前段階として此度の戦争参加国へ現在の占領地をもって停戦することをあっせんいたします。つきましては、大英帝国として欧州連盟の骨格を提案いたす次第であります。

  一、欧州連盟は、欧州内の経済並びに紛糾の解決に努力する機関である

  二、常任理事国として、欧州に所在する進んだ経済基盤を有し、最も戦闘力の高い船舶を建造する能力を有する六カ国を選抜するものとする

  三、この財源として、独逸が南アフリカにある植民地三カ国を英吉利が租借するものとし、その運用益を充てるものとする

  四、本部をロンドンにおくこととする

  五、此度の欧州戦争が一国でも停戦に従わない場合、欧州連盟に同意する国家で武力を用いて停戦命令に従わせるものとする

                                              英吉利国王 ジョージ五世

 以上でございます」

 「では、各自の意見をきこうか」

 「まず、二にある六カ国の中身は具体的には」

 「最も戦闘力を有する船舶とは戦艦であり、この戦艦を建造できる国は、欧州を除いた国家では亜米利加に日本だ」

 「欧州内では、英吉利と戦争当事国のうち、露西亜、独逸、仏蘭西、伊太利、墺太利を示すのでしょう」

 「確かに、武力を伴って紛争の解決に努力するとありますので、わかりやすく戦艦を建造する能力を有する国家を常任理事国とするのは反対が少ないでしょう」

 「その場合、常任理事国内での割り振りはどうなりますか」

 「南欧から伊太利、島諸部から英吉利、西欧から仏蘭西、中欧から独逸、東欧から墺太利と露西亜」

 「地理的にはまんべんなく選択されてますね。では、その対立軸は」

 「目下戦争中の国をあてはめると、独逸と墺太利はひとまとめだな」

 「露西亜は、仏蘭西と伊太利とウマが合うでしょう」

 「いうまでもなく、この話をもってきた英吉利は栄光ある孤立を望むのか」

 「すでにネタがばれてますよ。この欧州連盟は、独逸の植民地からのあがりで運営していくといっています」

 「さらに、これは言葉を言い換えますと、独逸の植民地を英吉利に譲渡いたしますから、どうかうまいこと停戦に持ち込んでいただけませんかと」

 「では、英吉利は、独逸と墺太利側につくとみていいか」

 「それでは、言葉が足りませんね。英吉利の下に独逸と墺太利がおかれる」

 「キングが英吉利で、ジャックが独逸、墺太利はトランプで例えると、七くらいですかねえ」

 「なるほど、両陣営とも三カ国か。これでは、たいていの投票で賛成反対双方三票ずつとなるではないか。まるで器を作ったものの、さっぱり決まらないではないか」

 「しかし、これ以上の常任理事国を増やすとなりますと、欧州を飛び出してしまいます。入れるとしたら、亜米利加でしょうねえ」

 「それは、英吉利は望んでいまい。亜米利加は、英吉利のいうことをきく駒ではない」

 「はい。欧州で最も亜米利加に近い国といえば英吉利ですが、亜米利加は独立戦争を英吉利から勝ち取ったわけです。それゆえ、その方針は英吉利の御することができませんのっで、さらに票が読めないことになります」

 「また、亜米利加を入れるのであれば、日本も入れるべしという意見が出てくるでしょう。戦艦を建造する国家を全て入れるのが筋という意見です」

 「日本は、仏蘭西の同盟国です。これは英吉利に反対する側につくことになるでしょう」

 「なるほど、だから英吉利は欧州に限定したわけだな。欧州内の国家であれば英吉利は、過半数を押さえることは出来ないが、半数ならば押さえることができる」

 「そして、戦場が欧州に限定されています。ま、イスタンブールを除いての話ですが」

 「要するに、英吉利の要望がてんこ盛りなのだな」

 「しかし、これに反対する論は通しにくいものがあります。筋は通っていますし」

 「さらに、この話は英吉利にとって破談になってもかまわないという姿勢が見え隠れしています」

 「つまり。英吉利による停戦のあっせんが流れてもよいといっているのか」

 「はい。停戦に承諾しない国は、具体的には我が国露西亜でしょう」

 「確かに、戦闘継続能力に関して戦争当該国では抜き出ているな。なんせ、独逸と仏蘭西が互いに消耗してくれたのであるから。一人、露西亜だけ人的消耗が少ない」

 「英吉利は、その疲弊した国家に参戦する理由付けが欲しいのかもしれません。つまり、停戦に応じないのであれば、英吉利は参戦するといっています」

 「なるほど、硬軟織り交ぜた文章だということか」

 

 

 

 

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