仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第208話

 1912年(大正元年)十一月十六日

 江戸城 三の丸 議会場

 「それでは、議長より皆に意見を求める。現在、欧州大戦は休戦となり、現在の占領地をもってクリスマス講和となり、その調印式がロンドンでおこなわれることになっている。よって、来年当初より仏蘭西政府の要請により、ボスポラス海峡をトンネル工事によって欧州とアジアを結び付ける工事に着手するモノとなる。この工事は、世界に日本の技術力を見せつける案件であり、なおかつ仏蘭西と露西亜と日本が手と手を取り合っていることを証明するための工事である」

 「議長、では各藩に資金並びに人員の割り振りがなされるのでしょうか」

 「はい。ですが、今回は現地民を募集しても問題ないとみております。ですので、金だけ出す藩もいれば、現地に藩の人員を派遣することを選択することも可能といたします」

 「では、次にこの出資に対する対価は?」

 「ボスポラス海底トンネルを走る列車から通行料をいただきます」

 「通常、トンネル工事をすると蒸気機関車による排気ガスがトンネル内に充満するであろうが、対策はいかに」

 「英吉利に前例がございます。換気ファンにより強制排出することになるかと」

 「戦争は終わったというが、もし万が一、オスマントルコがイスタンブールを攻めてきたらいかがいたす」

 「それにつきましては、二段階で対処することになっております。まずは、工事中、イスタンブールの支配者である露西亜海軍により主砲の向きを陸上に向けていただきます。これにより、都市の守備は容易となります。なんせ、この方法でイスタンブールを陥落させたのです。さらに、仏蘭西経由での情報によりますと、イスタンブールという州都にして、交通の要衝、トルコの輸出入を一手に引き受けていた桟橋が息の根を止められたのです。王制を維持するには金がかかりますが、その金を産んでいた都市を取り上げられたのですから、戦争責任込みで王制の廃止並びに共和制の立ち上げが間もなく同国内で始まるのは間違いないという話です。むしろ、王制から共和制への移行にともなう混乱を鎮める方がトルコに隣接する国家として重要かと」

 「では、問題はないでしょう。此度の戦争中、輸出で大いにもうけさせていただきましたから、トンネルの建設はお安いもの」

 「それでは、幕府はボスポラス海峡トンネルの工事を年初より開始するものとします」

 

 

 

 

 十一月二十四日

 アムステルダム市街

 「それにしても、日本橋の住人は型どりが器用だね。一点モノをつくって、日本に送れば、それにセルロイドを使って、大衆向けのフィギアにしてしまう」

 「それは、二次元の大量印刷技術が三次元に応用されているとみてよいか」

 「いくら、浮世絵の本家大元が日本といえど、セルロイドフィギアでは本家はアムステルダム。日本橋は、下請けにすぎん」

 「で、利益配分はいかほどだ」

 「フィギアの売り上げの二割がパテント代として本家に入る。販売手数料が三割。残りは、製造費用がその半分で四分の一。後は輸送費が四分の一」

 「ま、妥当なところだね」

 「要は、フィギア自体に魅力があるか、話題にのってゆけるかだね」

 

 

 

 

 十二月一日

 仏蘭西空軍本部

 「本日付で、アンナ少尉を中尉に正式に任命させます」

 「あの、これは辞退できないのですか。私は、少尉のまま、空を飛べることを希望いたします」

 「あなたは、仏蘭西軍のヒロインです。実践任務を卒業していただきます。そのために中尉への昇進です。また、空は飛べます。こちらは後輩への指導任務という教師として頑張っていただきます。もちろん、戦争が始まれば、教師といえども実践に出ていただきます」

 「わかりました。後進の育成に力を注ぎます」

 「その育成のために映画フィルムに出演していただきます。これは、空への憧れをいだく飛行士の少年少女への啓発活動として重要な任務です」

 「わかりました。その任務、引き受けさせていただきます」

 「それとその任務ですが、仏蘭西大手映画会社三社にそれぞれ一本ずつ出演することが決まっています。仏蘭西空軍を広く市民に受け入れていただくために大事なお仕事です。もちろん、弁士としても参加していただきます」

 「それは、俳優と弁士と兼任というわけですか」

 「そうなります」

 

 「アンナ少尉、貴方は我々のあこがれなのです。空をかける夢をかなえた女性の希望の星ですから」

 「いえいえ、現実の私は操縦士として、人を運ぶことを夢見る一人の女なのです」

 「それは、不可能なのですか」

 「現在の飛行機は、操縦士一人、客一人が限界であり。客二人を乗せる余裕はありません」

 「そこに問題があるのですか」

 「私は、独逸国民にしてみれば悪魔でしょう。つまり、操縦士として客を乗せた場合、客に背中をみせることになります」

 「それに何か問題が」

 「客が刃物を隠して操縦士を殺害しようとすればそれを防ぐことはかないません」

 「つまり、貴方が操縦士としてやってゆくには名声が大きすぎると」

 「残念ながら、その通りです。だから、私は募集します。大西洋横断飛行を成し遂げた方と結婚します」

 

 

 

 

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