仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第224話

 1915年(大正四年)一月六日

 モスクワ 赤い城

 「息子並びに四姉妹、日本では大活躍だったそうだな」

 「はい、見るもの全てが目新しいものばかりでした」

 「殿下一行が日本に旅行されている間に、露西亜はサンクトペテルブルグからモスクワに遷都したと世界中は理解しています。実際は、モスクワに再び首都を戻したといいたいが、今回、そのようなささいなことにかまっている暇がないというほどの変動を露西亜にせまっています」

 「そして、世界が露西亜の次世代指導者の横顔を日本で披露した。では、それがもたらしたのは、露西亜という国が今後三十年に渡って、安定していくであろうという保証です」

 「亜米利加のニューヨークを中心とする北部資本は、これをとらえ、テキサスで発掘されつつある南部資本による油田並びに精油事業に対抗するために、仏蘭西資本を交えたバクー油田に投資することを露西亜帝国に通達してきました」

 「それは、露西亜にとっても魅力的な提案ですがなぜこの時期なのでしょう」

 「それは、亜米利加という国が飛行機の発祥国という点で、飛行機に必要なガソリンを大量に必要としているせいだ」

 「さらに、先進の地である仏蘭西は、亜米利加で生産が始まった流れ作業によって自動車の生産台数が飛躍的に高まり、一社による年間生産台数が二十五万台の中から輸入できる数少ない国家である点だ」

 「つまり、亜米利加は仏蘭西や露西亜に自動車を売りつけ、それにとどまることなくガソリンも供給するつもりだからだ」

 「では、亜米利加による世界戦略の一環を露西亜がになえと」

 「では、別な角度から検討しよう。亜米利加による自動車生産はこれの単純に二倍と思ってくれてよい。つまり、生産台数の半数である二十五万台を戦車に改造して、ヨーロッパの一国に攻め込むことを想像してみてはどうか。具体的には、独逸兵が亜米利加製の戦車に搭乗して、露西亜を攻めてくると仮定してはどうだ」

 「平野部では、戦車に乗った独逸兵に圧倒されます」

 「これを防ぐには、亜米利加資本を取り込み、二十五万台ではなく五十万台生産を露西亜資本でなすのが早道である」

 「では、一刻も早く亜米利加に了承を伝えるのが善だと思えますが」

 「そうだ。何事も無条件ではない。先方は、バクーから市場の仏蘭西まで一台の輸送列車で運搬されることへの了承を求めてきた」

 「なるほど、資本家にとっては当然のことでしょうが、これは露西亜の対外的な安全体制を揺るがす大事件ですな」

 「対外的に、露西亜の採用する軌道幅は、広軌」

 「欧州で一般的な標準軌とは、互換性がありません。これは、鉄道を利用して独逸が露西亜国内に神速で侵略してくるのを防ぐ効果がみられるほか、標準軌と広軌の載せ換え作業を露西亜国民に開放することで大量の雇用を生む副次効果が認められます」

 「世界は、鉄道に互換性を持たせるためにコンテナの採用を広めていますが、いかに機械化が進めても露西亜人の雇用が絡んでくるとあっては、なおさら亜米利加の要求を飲むわけにはいかん。何か対策はないか、露西亜の主張を通しつつ、亜米利加資本を取り込む戦略だ」

 「はい。それは戦争継続能力にとっても大切なことだと思われます。亜米利加の石油精製精度は世界一であります。良質のガソリンを得るためにも亜米利加の技術を露西亜は欲しています。皇太子殿下一行に良き策はございませんか」

 「じいどもは頭が固いな。原油を列車で運ぶことにこだわっているせいだ。いいか、石油は液体だから、パイプラインでも運べる」

 「なるほど、バクーから露西亜国境までをパイプラインで運び、そこで石油を貨物列車にのせればよいといわれるのですな」

 「そこまでいえば、パイプライン体制を露西亜が管理する方法も思いつくだろう」

 「はい。戦時は、油元からダイナマイトで爆破すれば独逸による接収にも対応できます。さすがは殿下」

 「では、殿下に本題に入らせていただきますよ」

 「何かすごい迫力を感じるが、訊こうではないか」

 「殿下は、キャラ弁を食べるようになってから健康体に近づいておられますね」

 「そうだな。一昔の私であれば外遊することなどいい出さなかっただろう」

 「しかし、その料理をされるのを四姉妹にしかお許しになられない」

 「親族が料理するのであれば、毒味の必要もなく合理的であろう」

 「では、亜米利加の要求を乗り切った殿下には、欧州からもたらされた求婚届けに対処していただきます」

 「はて、誰に対して届いている求婚届けか、それを知ってからであろう」

 「欧州中から殿下の他、四姉妹全員に届いております」

 「それは困る。長女のオーちゃんは、病弱な僕に跡取りができなければ露西亜に残ってもらわないと」

 「では、残りの三姉妹の皆さまには婚姻外交を薦めてもかまいませぬか」

 「それも困る。四人がいないと僕の食事に穴が開く。一人が欠けようと僕にとっては死活問題だ」

 「それを対外的に納得してもらう方法の提示を我々は必要としております。よろしいですかな、殿下がキャラ弁で健康体に近づいたことを世界は知ってしまったのです。病弱な家族を抱える王族からは四姉妹のうち誰でもいいから一人よこせと言わんばかりの勢いでせまってくるのです」

 「それでなくとも、欧州大戦で勝った露西亜には良い条件で殿下に嫁ぎたいという求婚がくすぶっていたのです」

 「それを世界は、殿下が外遊に耐えれる健康体であることを示したばかりに、病弱な息女でも露西亜に押し付ければともに健康になるのでないかと希望を与えたのです」

 「さあああ、殿下、これに対するお答えを」

 

 

 

 

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