仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第231話
1916年(大正五年)十二月一日
英吉利 外務省外務課
「あ、例の仏蘭西タイヤガイドだが掲載人数は、先週から増えたかね」
「はい、一人増えて四十六名となっております」
「ここからが大事だが、増えたのはマジシャンかそれとも」
「はい。増えたのは忍者です」
「貸してみろ。各国のタイヤガイド掲載人数を改めて確認してやる」
仏蘭西 伊太利 露西亜 墺太利 独逸 英吉利 その他 忍者
T黄 1 1
U緑 1 1 1 1
V赤 1 2 1
W茶 1 1 1 1
X黒 1 1 1 1
Y白 1 1 1 1
Z橙 1 1 1
[紫 1 1 1 2
\水 1 1 1 1 1
]桃 1 1 1
]T黄緑 1 1 1
]U青 1 1 3
計 7 6 6 6 2 1 11 7
「相変わらず、英吉利のマジシャンは一人きりですね」
「ああ、掲載と同時に国家権力まで使って王宮料理人にした」
「二人目が出てきませんね」
「それというのも、忍者のせいだ」
「忍者がシベリア鉄道の食堂車に出現するようになってから、忍者枠は増えるが、マジシャン枠はほんのちょっと増えるだけだ」
「忌々しい掲載表だな。何でこの表が有料なんだ」
「はい。出版元によりますと掲載されている料理人にそれぞれの色の料理服を贈呈するために必要だとか」
「それを一番必要としているのが、掲載人数が一番少ない大英帝国だというのがさらに忌々しい」
「それは、重要な国際会議には色使いのエキスパートであるマジシャンを各色十二人用意する風潮が主催者側にも出席者側にも認知されつつあるせいですよ」
「そこなんだ。世界の首都たるロンドンにある欧州連盟本部で行われる種々の国際会議。当然ホスト国である英吉利の面子がかかっているわけだが、大事な大事な国際会議に出席するVIPどもが調理する料理人をみて、出席をためらったり、お前がいかないと決まらないだろというのに部下を出席させてきたりしやがる」
「英吉利のメンツをかけて五色のマジシャンを集めた国際会議が、十二色を集めたモスクワのマースレニツァ(冬をおくるカーニバル)に出席人の面々で負けた時は、上司がおかんむりだったな」
「たったひとりのキャラ弁王子に英吉利が負けたと新聞でさんざんたたかれました」
「個人的には、どっちも欧州の端っこだろ。そんなにドーバー海峡を渡るのが嫌だったのかよといいたかったが」
「どうやら出席者も家族サービスと健康をはかりの上にのせて決めたようです。マジシャンが多い方を子供たちが喜びますし、最新の味覚であるうまみを味わえますし」
「悪いことばかりではなかったでしょう。欧州中からマジシャンを招集する予算がてんこ盛りされましたし」
「おかげで常任六カ国以外のマジシャンも招集するようになったが、なあ、どうして青色は、忍者がのさばっているんだ。また墺太利にいるラピスマジシャンに頼らないといかんのだ」
「ですよね。また彼に頼むしかないんですね。『俺は調理が終わったら次の日は自分の店で料理を出すぜ』というわがままがまかり通ってますし」
「なにはともあれ。次回も飛行船をとばさなければならんな」
「はい。欧州各地を回り、十二色のマジシャンをツェッペリン飛行船にのせ、ロンドンまで送り届けなければ、上司の首が飛びます」
「ツェッペリン飛行船いわく別名大英帝国御用達飛行船と言われとるしな」
「はい。独逸は墺太利に隣接しているため補充人数は独逸と墺太利のマジシャンを総動員すれば、補充は五名ですみますし」
「墺太利と独逸双方で二名が同色系ですけどね。独逸には大英帝国の二倍の二名がマジシャンとして住んでいます」
「なぜか、大英帝国が独逸なんぞに負けるのがこの中で一番悔しいのは俺だけか」
「それよりも墺太利は、なぜこんなにたくさんの人数がいるのでしょうか」
「お菓子がうまいからでしょうか。ウィーンのお菓子は、チョコ―レートをはじめとして、パリやイタリア北部の諸都市に匹敵するものがあります」
「歴史にもありますしね。墺太利から仏蘭西に嫁入りしたマリー=アントワネットは、クグロフという焼き菓子職人を同伴したとか」
「ここだけの話だが、欧州連盟の本部をウィーンに移さないか」
「確かに魅力的な提案ですねえ。けど、そうしたら、ふんだんにあるマジシャン招集予算が使えなくなりますよ」
「なんだその、次回のタイヤガイドの購入予約をしておくように。そして英吉利から二人目のマジシャンが生まれてくるように祈っておいてくれ」
「はい、そうします。日本が意地悪をしないことを切に願います」
「俺の立場から言わせてもらえば、国際列車は自国でありなおかつ国外であるっていうのはずるくねえ」
「寒天は十三番目のカラーであるが、使えるのは日本の料理人だけ」
「忍者が出しゃばるのも十三番目のカラーを独占しているのが大きいです」
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