仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第233話
1917年(大正六年)六月二十七日
モスクワ 赤い城
「皇太子様は、英吉利の鼻をあかすのがうまいですな」
「いやいや、興味本位でこうなったとしか言えませんが」
「国際会議に国内居住のマジシャンを動員して晩さん会を催すときいたときは、肝を冷やしましたが、勝算があったというわけですな」
「シベリア鉄道を利用しない手はありませんから」
「しかし忍者というのは、いったい何人いるんでしょう」
「我が国のマジシャンを総動員で六人。その不足分を忍者六人で補うつもりだったとききましたが、では六人を動員されたんで?」
「タイヤガイドに掲載されている忍者は、四名。後は未掲載の逸材だ」
「それで招待客が満足なら大成功ですな」
「忍者はマジシャンより希少だからな。忍者一人がマジシャン二人と考えてもあながち外れではあるまい」
「確かに外観だけでは誰が認証されている忍者だとは気がつきませんから」
「というわけで、忍者を活用できれば一国のマジシャンで国際会議を開催できるようになりますな」
「できる国は限られますよ」
「露西亜と同等のマジシャンを抱えている国でなければ無理でしょう」
「となれば、歴史的に食がうまい国に限られますか」
「仏蘭西に伊太利それに露西亜ですか」
「人数的には墺太利も可能でしょうが、シベリア鉄道とオリエンタル鉄道沿線から外れてますから日本も許可を出さないでしょう」
「となりますと、料理人のわがままに振り回されなくなる国は、仏露伊の三国となりますか」
「そういうわけで、父上にあいさつに参るんで失礼するね」
「「「ははっ」
「失礼します」
「おう、入れ。用事はなんだ」
「実は、後継者の件ですが」
「後継者は、皇太子であるアレクセイで納得していると思うが」
「八月に十三歳になりますが、もし自分に後継ぎができなければいかがなりますが」
「それは、欧州の王宮には後継者順位というものがある。順位は相当下がるが独逸皇帝も英吉利国王もその前にいる百人ほど後継者資格を持つ人物が死ねば、露西亜皇帝になれるようになるが」
「では、現状、二番目の順位を持つオリガ皇女お姉さまにすんなりその継承がかなうでしょうか」
「女帝にはいろいろ不利な面が付きまとうのは仕方がない。我が国でも例がないわけだが、十四代続く中で四名の女帝がたっている。これは他の国に比べれば、多いのではないか」
「はい。その中には大帝といわれる八代エカチェリーナ二世もいますし」
「で、それでも不安か」
「はい。お姉さま四姉妹みんなに幸せになっていただきたいのですが、そのなぜか四人ともつきあっている面々は爵位の低い次男坊や三男坊ばかりで御金に不自由されるのではないかと。特にオーちゃんは、国外に結婚して出れそうにないですし」
「確かにその責任の一端は、朕にあるな。大学とその付属校で自由恋愛をせよといったのは、朕だからな」
「大学までは、問題ないと思うのですが卒業された後、いろいろ問題が出るのではないかと」
「そうだな。爵位の低い面々と付き合うのは悪いことばかりではない。なぜかというと、公爵家や伯爵家の跡取りと付き合っている場合、爵位が回ってきた時は、領地に赴任する必要があるからだ」
「そうでした。お金の問題は解決しますが、私の料理を作ってくれる人がいなくなってしまいます」
「大まかにいってみると、爵位が低い連中と付き合うとそいつらはモスクワで職を得るしかあるまい。そうなれば、金のことはさておき、お前の食事には困らんな」
「はい。爵位の高い連中と結婚した場合、お金には困りませんが、帝都を離れていくことになりそうです」
「解決策は見えたか」
「一つは、四人に皇女として王宮からお金を渡すことでしょう」
「その場合、帝都から離れる場合の対策も必要となるだろうな」
「では、四人の結婚相手に帝都限定の職業につけるとか」
「悪くはないが、その場合でも主導権は夫側にあるな」
「はい。ではその二つの併用というのは」
「英吉利相手に地団駄を踏ませるのはうまいようだが人事はおのれの権限を最大限に使うのも手だぞ。というわけで、仏蘭西に習え」
「仏蘭西というと共和制になるんですか」
「今世紀の仏蘭西に見習え」
「あ、わかりました。女性参政権をみならえというのですね」
「後は、立案してみろ」
「さすが、父上」
「取り巻きに相談してもいい答えがもらえなかっただろ」
「残念ながら」
「平民に相談したら、今の答えがもらえたかもしれんぞ、なんせ直接利害がないからな」
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