仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第238話
1919年(大正八年)二月二日
パリ カフェ モンブラン
「へー、ルモンド紙が『スコットランド、独立を模索か』という記事を掲載しているな」
「世界の冠たる大英帝国だろ。植民地支配も荒波なし。七つの海を支配するイングランドから離れるのは、世界の富の分配権を一方的に放棄することに等しいぞ」
「ことの発端は、欧州連盟の晩さん会でのことらしい」
「大英帝国の威信が揺らぐとしたらそこだよな。また誰かマジシャンがぐーたれたか」
「いや、マジシャンたちはまじめに仕事をしたんだが、相手が悪かったというべきか」
「ほう、マジシャンがてこずるお仕事ねえ。発端はどこだ」
「独逸帝国の王子様が自国の国旗を晩さん会で御要望された」
「それなら俺でも作れるだろ。三色旗で上から黒、白、赤の順だな。ということは、加工のしやすさで共通の土台がライスで真ん中の白を最初からできたものとして、上の三分の一を黒ゴマで振りかければ、あーら残るのは、下の部分を赤くするだけだから、これは好みだけど和風にまとめるなら赤飯を持ってきて、完成直前。後は、小麦粉のスティックで旗を立てれば、ほら、俺も明日からマジシャンに昇格?」
「と前振りはここまでね、さあ、本題ですよ。マジシャンがてこずる欧州連盟加盟国の国旗といえばどれかな」
「えーと色の数は、多くても原則三色かな。どれもそう違いはない。縦三色あるいは横三色ならば、お前でもできるわな」
「わかっちゃいますよ。私がしたお仕事は誰でもできると。で、色の数で差が出ないなら、配色だな。縦横以外の国旗となれば、三カ国の模様が重なり合った冒頭のユニオンジャックか」
「御名答。さあさあ、このユニオンジャックができれば君もマジシャンとして名をあげれますぞ」
「無茶を言え。最初のイングランド国旗ならできるが」
「それなら俺でもできるだろ。細い赤十字旗みたいなもんだからな」
「スコットランドの国旗も出来るかな。青い生地に卵の白身でいいからバッテンを入れれば済むんだから」
「アイルランド国旗も単独ならできる。これは、白い生地に赤い人参でバッテンを入れれば済むんだから」
「さて、旗の分解は出来ましたが、それを全て組み合わせたゆえにユニオンジャックといわれるのですぞ。さあ、マジシャンを悩ませた難題をさあ、どうされますか」
「ちなみに、この食材を御要望されたのは誰?」
「大英帝国の王子様が友好国独逸の国旗をうらやましそうにみてから、『僕にも英吉利の国旗をつくって』とのたまわれたらしい」
「王室からの御要望ですか。で、マジシャン達はどうしたの?」
「十分二十分と格闘した後、なんとかユニオンジャックを一旗製作することができたとさ」
「ほう、さすがわマジシャン、俺たちとは違うわ」
「そうはいっても、子供に二十分待てというのは、いくら手作業の進行状況が目の前でわかるとはいえ、及第点ではないだろ」
「そうだな、普通の子供ならとっくに興味を失っていても不思議はないが」
「というわけで、晩さん会の反省会でもめたんだな。欧州連盟にしてみれば、マジシャンがふがいないと」
「それに対して、マジシャン側からの反論。スコットランドもアイルランドも独立してくれ。そうすれば、イングランド旗をつくるだけですむらよう」
「さもなければ、新しい国旗を製作してくれと言われたか」
「マジシャンに拗ねられると、困るのは大英帝国だからここでお開きになったけどな」
「だけど、ロンドンの仇をパリでとるという言葉があるように、来月の三日にはパリで欧州連盟文化事業部の晩さん会が催されるだろうけど、仏蘭西のマジシャンはこの難題に対処できるのか」
「興味しんしんというとこだけど、凡人には難題を解決する見当が全くつかない」
「おい、誰か、この晩さん会に招待されている者はいないのか」
「そんな一気に価値の上がった晩さん会の招待状なぞ、手に入れている用意のいいやつはいないぞ」
三月三日
パリ 欧州連盟文化事業部晩さん会
「ユニオンジャックを一つ」
「「「ざわざわ」」」
「やはり、きたな。料理先進国仏蘭西は、これをどう料理するか」
「担当するのは、青と赤並びに白を担当する忍者か」
「三人の分担作業ときましたが、はたしてそれをどう結合させるのか」
「赤の忍者がイングランド国旗を担当、青の忍者がスコットランド国旗を担当、白の忍者がアイルランド国旗を担当か」
「これならば、一国の国旗をつくるだけであり、色は各人あたり二色だから、時間もかからないが、問題はそれをどうくっつけるかだな」
「これから最後の仕上げに入るぞ。さあ、どうでる」
「三人とも薄く切ってきたな。三ミリ幅に仕上げてきた」
「三枚重ねできた。だが、それだと赤と青がそれぞれ、表と裏からしか見れないのではないか」
「失敗?」
「さあ、客に国旗が渡ったが、感想はどうだ」
「ユニオンジャックマジシャンだ」
「どういうことだ?失敗ではないのか」
「忍者は、残りの食材で十旗分の国旗をつくったようだ。こっちにも回ってきたぞ」
「どれどれ、きちんと青と白と赤が一つの旗として成り立っている。どうしてだ」
「スコットランド国旗の土台は、青い寒天だ」
「アイルランド国旗は、透明な土台に赤いぱってんが入っている」
「無色透明な食材である寒天を使って料理を作れるのは、日本人だけ」
「はは、この方法は忍者しかできないな」
「敵ながらあっぱれだ」
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