仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第247話

 1922年(大正十一年)

 五月五日

 パリ カフェ モンブラン

 「仏蘭西での忍者科が採用されるのを受けて、世界各国への取り組みが載っているな」

 「一番乗り気な国は?」

 「伊太利だな」

 「やはり、仏蘭西料理の競合相手だからか?」

 「いや、そんなことで伊太利の政治家は動かないよ。支持者からの支持をとりつけるには、その政策が採用されることで、異性にもてるかどうかにかかっている」

 「なるほど、わかりやすい国だな。確かに忍者という称号を得れたとしたら、世界中の称賛がやってくる。当然、異性にもモテモテだな」

 「仏蘭西料理と伊太利料理が並んだんだ。となれば、露西亜料理も採用か」

 「その方針で進行しているね。なんせ、忍者が一番活躍するのはなんといってもシベリア鉄道での食堂車だからね。世界中で一番、忍者そのモノが普遍な国だし」

 「なるほどねえ、他の国はどうなんだ?」

 「レディーファーストがいきとどいている国は、採用でしょ」

 「亜米利加かあ。何といっても若い国だし、その分、移民は男が多い。女にもてたければ、忍者科は必修という勢いですかあ」

 「とまあ、欧州連盟で仲の良い仏露伊三国で忍者科が広く認知されそうな勢いだ」

 「となると、女性に意識が高い国では好意的に取り入れられるのかな」

 「北欧とベネルスク三国、それに南欧といった国は、それに続くだろうね」

 「となると、今まで話題にあがらなかった国は芳しくないのか」

 「仏蘭西が西をむけば、独逸は東を向くというほど、犬猿の仲だけど、分野が料理なだけあって、独逸は名だたる料理人の名前があがらない国だからね。そんな国だからこそ、幼少の時から、料理に慣れ親しむのは将来性という点で大事だという正論は闇に葬り去られたようだ」

 「なんだ、独逸の小学生が小学校でジャガイモを剥いているのをみられるかと思ったんだが、そんなことは起こらなかったか」

 「法律の国だからね。法で決まっていますといえば、全員が右に習えとなるだろうが、残念ながら、先駆者利益をおかされる方でもある」

 「なんか小難しい言葉だけど、要するに現在料理をしている母親が立場をなくす法をとりいれることは出来ないといいたいのか」

 「そういうことだな。ジャガイモをゆでる、ウインナーをゆでる。双方をつぶしてポテトサラダにするのが独逸の正しい料理だと言い張ってはね。てなわけで、小学生がシチュウ料理を作ったからには、母親の立場がない」

 「なぜだろう。寒い国では夕飯に暖かいシチュウを食べることこそ、大事な御馳走だと思うんだが」

 「体をウオッカで温める露西亜はそれがわかっているんだが、独逸という国は、体を温めるならホットワインとビールがあればいいと割り切る国だね」

 「女性軽視の国か、独逸は」

 「女性に多くを求めない国とも言いかえることができるが」

 「ま、世界中を旅する外交官の間では、この国の嫁をめ取るなというものがある」

 「話の流れだと、独逸に英吉利女性か」

 「ま、そういうわけで、そんな冷めた料理に耐える独逸男性は結婚を申し込んでくる娘の伴侶として世界最高なんだそうだ」

 「そりゃあ、料理に対する要求が世界一低いせいだろ。結婚生活の不満のうち、最大のものである料理に対する不満がないだろうからな」

 「その話の流れでいうと、もしかして忍者発祥の国、ジャポンは嫁にするなら大和撫子にすべしといって、世界最高の国か」

 「そりゃ、かいがいしく料理をはじめとする家事をやってくれるぞ。一言の文句もなく」

 「ああ、すごいぞ、あのキャラ弁で一番の難所ともいえる釜で御飯を炊く作業を黙々と毎朝晩、やってくれるのだからな」

 「大和撫子、サイコー」

 「未確認情報だが、なんと大和撫子の中には、くの一とよばれる忍者もいるそうだ」

 「すごすぎるぞ。俺も大和撫子と結婚したい」

 「ふふ、それは夢に終わらない場合が多いんだな。なんと、競争相手の日本男児は、大和撫子でなければやっていけないほど、家事ができないんだな」

 「いい方をかえると、世界最悪の婿候補というのは日本人か」

 「まあ、上げ前据え膳でなければならないと、いわれているな」

 「もしかして、日本人男子と独逸女性との結婚というのは、離婚が多いのか」

 「相性は最悪だろうな。ただし、何事にも例外はある。いいか、忍者という料理のできる特殊技能者はなぜか日本男児だ」

 「つまり、忍者級の料理人と独逸女性との間なら結婚はうまくいくというのか」

 「ただなあ、夫と妻の間でどういう家事分配になるんだろうな。一方が全てを支えるというのも不健全だろ」

 「そりゃあ、金を稼ぐのは独逸女性というのなら結婚は破たんしないだろ」

 「と、いうわけで日本男児は危機感を共有している。今までのサムライの常識は男児、厨房に入らずというものだった」

 「なるほど、世界中から大和撫子に対する求婚が多いもんだから、もしかしてジャポンも忍者科を導入するのか」

 「これから、釜を担当するのは侍になるだろうな」

 

 

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