仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第249話

 1923年(大正十二年)七月三日

 パリ郊外 シャブール校区オーチャーブ山

 「先生、今日のキャンプ、この山でするの?」

 「そうだよ」

 「だったら、料理はジエビ料理」

 「うーん、人数分用意できないねえ。だから鍋料理がメイン」

 「そっか、せっかく忍者修行をしているんだから、使う野菜は蕪料理?」

 「使う野菜は、そうかな。で、後ろにみえる羊がそのメインさ」

 「えっ、羊を使うの?」

 「そうそう、羊を包丁で料理するのは教えたことないけど、包丁の基本であるミンチにするから難しくないよ」

 「そうだね。ミンチにするのは手数勝負だもん」

 「これだけの人数がいれば人数分できるよ」

 「で、その前菜となるのが羊でとったスープ」

 「うーん、それはうまそうだ」

 「で、隠し味はお前らだな」

 「それどういう意味?」

 「文字通り、お前らをゆでるのさ。いい味が出るぞ」

 「「「えー、先生、僕らをゆでるの」」」

 「もちろんさ、きっととびきりの味に違いない」

 「先生、僕たちをゆでてもおいしくないよ」

 「どうしてだ。誰か食べた人間がいるのか」

 「そー、そうじゃないけど」

 「先生、だったら、先生をゆでようよ。その方がいいだしが出てうまいよ」

 「そうか、俺が釜ゆでにされたらいいというのか」

 「先生が最初にいったんだから、僕らで先生をゆでるよ」

 「そうか、仕方ないな。だっから、俺が釜ゆでになってやるか」

 「そう、それがいい」

 「だけど、大変だぞ。薪を釜にくべて火をつけ、どんどんたさなきゃ駄目なんだから」

 「大丈夫だよ。みんなでやればすぐだよ」

 「いやいや、多分、一人で大丈夫じゃないか」

 「ま、みんな楽しみにしておけよ」

 「先生、そんなに釜ゆでが楽しみなの?」

 「そりゃ、現地についてからのお楽しみさ」

 「さあ、先生をゆでるんだから、まずは水汲みからだ」

 「みんな、バケツリレーの準備」

 「バケツ十個で足りる?」

 「だったら、十一人でバケツリレー」

 「先生、先生をゆでる釜はどこ」

 「ほら、目の前にあるだろ」

 「でかい。うちのどの鍋よりでかい」

 「そりゃ、先生をゆでるんだから、これくらい大きくないと」

 「十個のバケツでそれぞれ二回かな」

 「そうだな。まずはそのくらいかな」

 「先生、水で一杯になったよ」

 「そうか、だったら、こっから本番だ。まきに火をつけるんだ」

 「あい」

 「先生、まきに火がついたよ」

 「そうか、どんどん焚いてくれよ。俺は釜に入っているからな」

 「先生、ほんとうに釜ゆでにされるの?」

 「先生に嘘はない」

 「先生、その足元の靴は何?」

 「そりゃ、ゲタといってだな。木でできている。さあさあ、入るぞ」

 「おーい、まだぬるいぞ」

 「だって、熱くすると先生が死んじゃうじゃない」

 「大丈夫大丈夫。どんどん焚け」

 「ほら、もっとくべろ」

 「うーん、水が足りない。バケツ三杯追加」

 「バケツ隊、水を汲んで来い」

 「アイアイサー」

 「よし、もうチョイだな」

 「先生、これ以上熱くなると先生死んじゃうよ」

 「うん、だから、先生はここで釜から出る」

 「えーー、先生、だしになるんじゃないの」

 「そうだな、もう十分、いいだしが出てると思うぞ」

 「そうかな。手を突っ込んでもまだ熱くないよ」

 「そうそう。次は誰だ。だしになるのは」

 「しーん」

 「はいはい。私が入る」

 「そうか、では入ってくれ」

 「アン、釜ゆでになっちゃうんじゃない?」

 「馬鹿ねえ、あの釜の名前を知っていないの?」

 「うん、知らない」

 「そっか、あれが五右衛門風呂っていうのよ」

 「五右衛門が釜ゆでにされた。アン、やめときなよ」

 「大丈夫だって。普通にお風呂だから。次に入ったらいいよ」

 「あれがその、五右衛門風呂。じゃあ、次は私ね」

 「うん。先生にゲタを借りるのを忘れないでよ」

 「アン、どうだった?」

 「うん、高い所で入る御風呂は最高だね」

 「そっか。だったら大丈夫だね」

 「そそ、ぬるくなったら薪を足してもらえばいいの」

 「よし、忍者気分に浸るぞ」

 

 

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