仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第253話

 1923年(大正十二年)九月一日

 水戸 東海道鉄道株式会社本社

 「垣内君、関東圏並びに常磐線沿いにある資材の一覧は用意できていますか」

 「はい、こちらに」

 「ふむ、線路も電線も足りないことがわかりました。では、新しい指令です。鹿島港と日立にある日立電線工場にある線路と電線の在庫確認を、それと常磐炭田に隣接した石炭火力発電の稼働状況を」

 「はい、ただいま」

 「使える者はすべて使わせていただきましょう」

 

 「渋沢相談役、日立に銅線があります。鹿島港から亜米利加に輸出される予定の銅線が日立にあり明日以降鹿島港に鉄道輸送されることになっています」

 「それをいただきましょう」

 「あのう、違約金とか発生しますが」

 「国家の非常時です。それよりもその銅線の確保に急ぎなさい。明日朝から常磐火力発電所の電力を日本橋に届けますよ」

 「了解しました。すぐさま、日立駅に連絡して銅線を水戸駅に回してもらう手はずを整えます」

 「それと水戸藩に連絡です。城に待機している藩士には、明日以降銅線を水戸から江戸に延ばす仕事に従事してもらいます。まずは、銅線の断線区間の把握です。今日の仕事はこれですね」

 「はい、日立駅とも水戸城への連絡にひとっ走りしてきます」

 

 

 

 水戸城

 「渋沢相談役からの連絡役の坪内です。相談役からの連絡事項ですが、水戸藩には水戸から日本橋まで電線を延ばす工事をお願いしたいとのことです」」

 「ふむ、城代家老として確かに承った。そう、お伝えください」

 「ありがとうございます」

 「それでは、城内連絡を頼む。明日から仕事は、電線埋設工事だ。今日中に水戸藩内の見回りにめどをつけよ。明日以降も人員が必要ならば、その旨本日中に上伸せよと」

 「ははっ」

 

 東海道鉄道本社

 「相談役、水戸城に通達してきました」

 「ごくろう、水戸藩の返事は?」

 「二つ返事でした」

 「では、水戸藩には悪いですが当社の大株主そのモノに土木工事をお願いいすることになりましたが、今は猫でも使わねばなりません」

 「続きまして、地震の震源が判明いたしました。相模湾北西沖八十キロです。沿岸となる津波の高さですが、五メートル以上です」

 「三角測量の予測がほぼ当たっていますね。これでは、伊豆半島以西の東海道線が不通になるのも当然です」

 「はい、同時に熱海方面から連絡ですが富士駅からの連絡が入っています。御殿場方面のトンネル多数が陥没」

 「御殿場線も不通ですか。大坂方面からの物資は復旧に役立てるには品川港に回すのが早そうですねえ。これは本社の別部門に回しましょう」

 「さらに鹿島の製鉄所には線路が二十キロメートル分在庫としてあるそうです。また、外環状線の水戸−日本橋駅間の被害状況を報告してもらっていますが、線路の被害は軽微。ただし、鉄橋の工事が二週間ほどかかる見込みと」

 「電線の次は鉄橋工事ですか。電力会社として仕事を果たしたら、次は復旧作業ですねえ」

 「最後に、日本橋にいた役員には本社に出向けという連絡係に通達を持たせました」

 「製鉄所には稼働できるならば速やかに線路を作ってもらう作業に入らねばなりません。後は、限られた資材で最善を尽くすだけですねえ」

 「はい。各駅の余剰人員には、本社への出向を命令いたしました」

 「水戸方面は地震の影響が最軽微です。水戸から江戸を救うことを考えましょう」

 

 

 

 オテル日本橋

 「手を尽くしましたが、燃料の重油ですが一日分を確保できるのみでした」

 「弱りましたね。他に代換え手段はありませんか」

 「あのう、電気店で売っている乾電池はどうでしょう」

 「それです。乾電池のみならず、二次電池を確保しましょう」

 「はい。また江戸中を探し回ってきます」

 「火事の最中、電器店が火のまわる前に回収をお願いします」

 「火がやみませんからねえ」

 「江戸っ子は地震には慣れていますが、昼飯を作っている最中に地震が来るとはついてませんでしたね」

 「それでも大名屋敷で火が止まっている所が多かったですよ」

 「江戸庶民がうらやむ大名屋敷。こんな時に役立ってますか」

 「ええ、江戸庶民は敷地面積の二割しか割り当てがありません。でも、一つくらいいいことがありましか」

 

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