仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第261話
1924年(大正十三年)四月一日
英吉利外務省アジア研究室
「日本、日本橋に富嶽百景美術館本館を再建中。木造二階建てで木の良さを出す建築手段を多様と」
「日本って、学習しないの?火事で燃えたんでしょう、世界的な遺産ともいえる紙でできた浮世絵を」
「まあ、待て、分析中だからな。建築物は、水掘を周辺部にぐるーっと一周させている」
「まるで中世の東洋風な城か」
「これは延焼対策だろ。木造建築が地震に弱い最大の理由は、どこからかあがった火の気が延焼して隣の建築物を燃やす原因となるからだ」
「なるほど、火の元をたつのが最大の地震対策か」
「後は、敷地内から火の気を一切合財追い出せば、美術館は残るとの計算だろ」
「それに、外堀にある水を万が一の時の消火防水として利用するとともに、周囲から迫った火の気を遮断する効果を狙ったものだろ。結果的に中世の城のふいんきをもつようにしたのはその方が親しみある東洋建築だと主張している」
「猿も頭を使っているようだな。で、紙が燃えるのを防ぐ手段はあるのか」
「ガラスケースを強化して、落下防止。それから地震の揺れが終わるともに防火扉内に収納と万全を期すほか、部外秘だった圧縮木版技術をふんだんに使用とある」
「圧縮木版の効果は?」
「木を周りから圧縮することで、強度を高めることで展示ケースそのモノを強化できるほか、耐火性もあがる。今までは、木版画の原板耐久性を高めるために公開をすることができなかった技術だったようだ」
「なるほど、単なる木版画の連続使用に耐える技術の公開ときたか。そりゃ、日本が日本たる技術は今まで外には出せないわな」
「木の研究はやはり、日本が一歩進んでいるねえ。樟脳一つをとっても木の有効成分を使いこなす国だからね」
「これが英吉利ならは、そんなの鉄を使って代換えでいいだろといって科学で何とかしてしまうんだが」
「植物資源を使いこなす技術は、日本が進んでいるねえ。英吉利の有機化学が目指しているのは、病理学の首根っこをおさえている寒天培地の代換え培地をつくることだけど、これ一つをとってもなかなか技術が進まない」
「さらに植物系色素を料理に使う昨今の風潮が日本に植物資源を有効に使う情報が集まるようになっている」
「食を使った世界支配か。どうして仏露伊日は、食にそれほどこだわりを示すかね」
「デザイナーがそこから生まれる要素を無視できなくなった事情もある」
「そうそう、世界的な芸術家は目を養わないといけないことを昨今の偉人が示している。四季が咲き誇る国でなければ芸術に対する感受性が高まらないとさ」
「欧州なら地中海沿岸と大陸東岸にある温暖湿潤気候でないと四季折々の色を使いこなす芸術家が生まれてこないのは歴史が証明している」
「要は、英吉利本国と夏に気温があがらない独逸では、デザイナーが出てこないといいたいのさ」
「「「今も料理人にひっかきまわされている。それに墺太利はその対策のためだけに必要な国だ」」」
「話は戻すが、肝心の富嶽百景美術館展示物が焼失したんだろ。浮世絵の展示物は二級品しかないのか」
「確かに本館は焼失した。けど、日本中をグルグルと回っていた分館が本館の展示物を担う」
「ほう、小賢しい猿知恵だな」
「なんせ、分家は本家が壊滅したときの予備という武家のしきたりが生きている」
「確かに将軍家一つをとっても跡取りが壊滅という事態が片手で足りなくなるほどあったな」
「まあ、そこは欧州全体が一つの王室となっているために、王室順位が二百番まで決まっている世界とは対極かな」
「後は驚くなかれ、展示品には困っていないだな」
「へっ、奇特な寄付があったのか?」
「分館が日本中を回ったのはもうひとつうれしい誤算があったとさ。浮世絵は一点モノの美人画も確かにある。けれど、版画であるから一つの題材に対し、版画は最低百枚ある。日本中を回っているうちに我が家の浮世絵は家宝としての価値はどうだろうという相談が多々あるわけで、そんな相談に乗っているうちに、目録が整備されていくわけで」
「要はお宝発見が各地であるわけだな」
「後は、ふすまが隠れ金山並みにすごい」
「へっ、ふすまって単なる敷居だろ?」
「ふすまとは、紙でできた敷居という表現で間違っていない。けれど、その中に詰め込まれた古紙が侮れない」
「その詰め込まれた古紙の中に三百年前にモノがあるのか?」
「あるある。中には歴史的な発見となる文献も多々ある」
「後は、紙が貴重品だった理由もある。表紙は、単なる子供の習字。けれどその裏には、歴史の裏側が明かされていたりする」
「恐るべし、紙文化」
「ただし、その紙文化は和紙だからだぞ。西洋紙だと百年ほどでボロボロになるからな」
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