仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第262話
1925年(大正十四年)四月一日
パリ カフェ モンブラン
「空母は何のためにあるかときかれたら、海難救助のためにあると答える」
「科学進歩は、大西洋横断飛行を成功させるために進歩中」
「仏蘭西空軍の御姫様を獲得するには、パリをでて亜米利加大陸まで無着陸横断飛行をするしかないのだが、これまでに成功した者はいない」
「仏蘭西海軍並びに空軍がその後援にあり、離陸から着水まで機体の護衛にあたっている」
「今までの最高記録は?」
「パリから三千キロメートルを飛行して着水した飛行艇がいる」
「ほう、そこまで飛行機も進歩したか」
「その時の記録は大事なデータだね。巡航速度時速百五十キロメートル。飛行時間二十時間」
「なるほど、亜米利加大陸まで六千キロの旅であれば、飛行時間はその二倍の時間で四十時間」
「おのずと、それに必要な燃料もわかってくる」
「で、エンジン性能は?」
「連続四十時間稼働なものというのが最低条件だね」
「気筒数は第一次大戦時までとさほど進化はない。しかし、これも飛行機誕生からさほど変わっていないかな」
「亜米利加で生まれた飛行機は、発明された時に四気筒エンジン。ただし、一気筒あたりの馬力は三馬力から始まった」
「それが現在、一気筒あたり二十馬力まで進化している」
「長距離飛行に徹しているせいだろう。欧州戦争の時の戦闘機もそのくらいだったね。最も、十年の時間が与えられた結果、長距離用のエンジンは、十年前にあった瞬発力重視の戦闘機並みに馬力があがったというべきだよ」
「長距離を飛行するには、四気筒で十分だという意見も多い。それ以上にするには、水平エンジンを捨てて、星型エンジンにするしかない」
「四気筒で勝負か、星型の五気筒か。そのへんは、設計士の好みによるかな。水平エンジンは、場所をとらないという利点がある。これは限られた空間に燃料と機材を押し込まないといけない飛行機の場合、大きな利点だな」
「対して星型は、五角形エンジンのため、燃費が悪いが馬力が高く、飛行時間を短縮できる利点がある。これは、飛行機エンジンが四十時間連続使用という制約の上で大きな利点であるとともに、飛行士の疲労軽減で大きな利点だ」
「なにはともあれ、第一次欧州大戦時のヒロインを射止める英雄は今だに現れずか」
「あれは、二十歳の女が結婚をしたくないと言わせるための方便だという意見もあるが」
「しかし、十年の時間を経て独身というのもいかがなものか」
「彼女もそれがわかっているかな。毎日、空軍学校で後輩を増殖する教師だ」
「護衛を務める空軍部隊を増やす役目か」
「護衛を務める空軍部隊の技能を高めるための演習だというものもいるな」
「しかし何事にも別な局面がある」
「あるよ。飛行船なら既に、太平洋横断航路が商業開設積みだ」
「太平洋横断に成功している飛行船がある以上、飛行機による大西洋横断飛行なぞ無意味だという極端な意見もある」
「だが、空に浮かんでいるだけならば飛行船は誰にもできるからな。その後、貿易風なり偏西風にのって流されるだけで大陸間移動ができる」
「空に浮かんだ飛行船は速いしな。それにプロペラをつけるだけで、三人で交代して商業飛行ができる空間を確保できるぞ。乗客も五十人までは御の字だ」
「だが、飛行船は気象条件に左右されやすい。強風が吹けば、乗船できない」
「もう一つの面もある。アン大尉は、AA航空を経営する一族の一員。ヒロインと結婚するだけで、大金持ちになれること間違いなし」
「富と名声が一度に手に入るわけだ」
「けれど、成功者は今だに現れずか」
「仏蘭西海軍が支援してくれているとはいえ、大西洋は広い。海に軟着陸したところで、漂流しているうちに、死亡するとも限らない」
「英雄は一日にして成らず?」
「時と場所によってはなるだろ。その典型的な例が前人未到であることだね。君も飛行機を買って大西洋横断に成功しさえすれば一夜にして英雄だ」
「一攫千金を狙う宝くじとどっちが当選確率が高いかな」
「宝くじは、資金が大きいほど成功率が高くなる。大西洋横断飛行に成功するには、緻密な理論と優れた機体を購入する資金が大きいものほど成功しやすい」
「どっちも夢見るだけで終わる者が多数だが」
「それよりも一刻でも早く未婚者を減らすべきだという国粋派や永遠のヒロインでいるべきだというアイドル肯定派まで様々な意見がある」
「では、このへんで賭けをしようではないか。大西洋横断飛行に成功するものが出るまでに必要な年月は?」
「一年以内」
「三年以内」
「五年以内」
「「永遠に無理」」
「やはり、人の意見は理屈だけではなく、私情も入るな」
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