仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第263話

 1925年(大正十四年)八月十日

 仏蘭西 サロンド=プロ=ヴァンス 航空学校 

 「仏蘭西空軍の伝統は、欧州大戦の対独宣戦が発端です。独逸と仏蘭西は、普仏戦争の流れもあり、仲が悪く、仏蘭西は伊太利と露西亜を味方に、独逸は墺太利とトルコを味方に同盟工作を終えた後、開戦にいたりました。それまでの空中戦というのは、歩兵が拳銃を撃つのと変わりないようなピストルを撃つという形から始まりました。重量級武器であれば、煉瓦を投げるというのもありでした。その後、開戦から二年がたとういうという時、最初の革命が起きます。仏蘭西のエースは、飛行機前方に機関銃を取り付ける形で戦闘機を産みました。と、同時に相変わらず、空軍は陸軍の補助的位置づけというのもかわりませんでしたから、空からの目という形で機関銃分の重量増加を嫌った偵察機が生まれます。これにより、女性空軍が創設されたいきさつです。女性は、男性よりも体重が小さく、重量を減らしたい偵察機にはうってつけでした」

 「アン教官、飛行機乗りの生存率はどうなのですか」

 「飛行時間が伸びるとどうなるかを述べます。飛行機乗りは、飛行時間が少ないうちは敵軍のいい的です。ルーキーという初心者を乗り越える人物は、半数ほどです。その後中堅になれます。飛行時間が増えた中堅であれば、敵軍である独逸軍とほぼ撃墜と墜落が拮抗した数字であらわされます。墜落は必ずしも死につながりませんから、墜落回数が三回ぐらいであれば、現場に復帰できますが、条件が悪ければ復帰できません。敵軍上空で撃墜され、敵の捕虜になれば飛行機乗りは終戦までよくて敵軍の捕虜収容所送りです。また、コックピットやガソリンに引火等といった重要個所を撃ち抜かれた場合、生存確率は一ケタ台に落ちます」

 「教官、飛行時間を延ばしてエースを目指すのが生存率をあげる手っ取り早い方法なのですか」

 「エースになるころが一番生存率が高いといえます。例えエースといえど、飛行時間が戦闘時間に代われば、独逸軍のエースとの戦闘になることもあります。この場合、双方に機体性能が同じであれば、トランプの絵札同士の戦いともいえるものです。どちらかが負けます。よって、エースとして戦闘時間が経過するほど生存率は低下します。ただし、教官としての役目は中堅をつくるまでのことです。教官としては、飛行時間を有意義に使ってルーキーを卒業させることですから、飛行時間の延ばす方が生存率が高いという法則は生きています。しかし、戦場に出れば双方が必死の戦闘になるわけで、生存率は例え飛行時間が多いといえども戦闘時間の経過とともに低下していくことを忘れないように。だからこそ、飛行機乗りは歩兵よりも非戦闘時間は優遇されます。しかし、歩兵よりも死亡率が極めて高いということを忘れないように。一言で飛行機乗りというのは、死亡率が高い特殊技能持ちといえるでしょう。ちなみに、戦闘飛行機黎明期であったはずの欧州大戦でさえ、偵察機乗りを務めた女性隊員六名のうち、終戦まで仏蘭西陣地で活躍した人物は一名のみ。陸上活動に転籍した隊員一名。残りの四名は終戦時に仏蘭西空軍にいませんでした」

 「教官、女性が戦闘機に乗るにはどうしたらいいのでしょうか」

 「世間をあっと言わすしかないでしょう。しかし、世間的には、女性解放路線が欧州大戦以降吹いています。仏蘭西は、女性参政権を認めた国です。選挙に勝つには、女性票を勝ち取らねばなりません。そのうち、女性も男性と同じ職を認めなければならないと世論ができた時、女性戦闘機乗りも実現するでしょう」

 「はい、ありがとうございました」

 

 

 

 航空学校 寄宿舎

 「はあ、戦闘機に女が載る方法はないものか」

 「世間をあっと言わせるしかないだろ」

 「世間をあっと言わせる方法って何だ」

 「ヒロインを略奪するのが手っ取り早い。今の世界情勢であれば、大西洋無着陸横断飛行を出し抜くことかな」

 「ああ、あれねえ。仏蘭西空軍が後援して世界中の飛行機乗りが挑戦している賞金レースのことか」

 「そういうこと。賞金稼ぎより早くニューヨークの飛行場についてしまえば済む話」

 「でも、五気筒星型エンジンより早く、そして低燃費なエンジンをどう準備するんだ」

 「ほれ、それは整備班に頼むしかないでしょう。星型エンジンより高性能で低燃費エンジンを私たち二人乗りの護衛機にのっけてって」

 「うまくいくと思う?」

 「頼むのはただでしょうに」

 「駄目もとで頼んでみますか」

 「当然、今までのデータをもとに六千キロを耐久できてかつ飛行できるだけのガソリンを積んでと頼むのよ」

 

 

 

 整備部

 「はあー、星型五気筒エンジンより高性能でいてかつ低燃費なエンジンを仏蘭西空軍護衛機にのせてくれって」

 「そうなの。お願いできるかしら」

 「確約はできないが、それは六千キロを飛行できるだけの性能が必要なんだろ」

 「ええ、私たちは二人乗りで護衛にあたっているから、今まで通り後部座席でも操縦できるようなところは継承したままで」

 「空間をそれだけ、エンジンタンクにあてつつ、なおかつ六千キロを飛ぶとなれば、普通は水平対向四気筒エンジンといきたいが、それでは駄目なんだろ」

 「巡航速度で負けてるわ。それだと、私たちが唯一ニューヨークに到着する場合以外駄目だわ」

 「考えてみるわ。とりあえずそれだけ返事しておくよ」

 「うん、無理いってごめんね」

 

 

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