仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第265話
1926年(大正十五年)一月二十五日
ニューヨーク ルーズベルト飛行場
「ここに、仏蘭西語の話せる人はいるか」
「呼んで来よう」
「それまで、トイレを教えてくれ」
「待ってくれ。あの後ろの仏蘭西軍飛行機が着陸してからだ」
「了解。とりあえず、飛行機からは降ろしてくれ」
「では、改めて言おう。私は、大西洋無着陸横断に挑戦していたポールだ」
「ほう、それはすごい。で、それを証明するものはあるのか」
「この挑戦は、仏蘭西空軍並びに海軍が後援している。私の後に降り立った二人の仏蘭西空軍飛行士がそれを証明してくれる」
「それでは、二人の飛行士にきこう。ポール飛行士は、パリからニューヨークまで無着陸大西洋横断飛行に成功したのか」
「はい、仏蘭西空軍がそれを証明します。私ども仏蘭西空軍は、ニューヨークを目指した飛行士の護衛として、三編成でそれを支援しています。第一部隊はパリの飛行場を飛び立って四千キロを飛行し第二空母に着艦。第二部隊は第一空母を飛び立った我々がこうして、ポール飛行士の護衛にあたっていました。第三部隊は、第二空母を飛び立ち行方不明者の捜索を重点的にあったっています」
「では、間違いなくポール飛行士は、パリとニューヨークを無着陸飛行した最初の男性飛行士ということでよろしいですね」
「「はい」」
「やった。これで名誉も金も花嫁も私のものだ」
「飛行場管理官として、それに関して質問があります。我々は、ポール飛行士がこの飛行場のたどり着いた最初の男性飛行士だと認定しました。では、それより先着の二人乗り飛行機があったが、サリー並びにローズ両飛行士に面識はございますか」
「ある。パリから私の護衛をしてくれた仏蘭西空軍の飛行士だ」
「両名は、仏蘭西空軍に所属していることを我々が証明いたします」
「では、ポール飛行士にきくが、彼女たちを最後に確認したのはいつか」
「第二空母に接近する前だ。私は一人で飛行していたのでしばらくウトウトしていたがその前までは、彼女たちの飛行機が私の飛行機を護衛していた」
「なるほど、この証言で彼女たちの証言と一致したことを確認できた。並びに、ポール飛行士の証言から第二空母手前まで、彼女たちの飛行機が無着陸で飛行したいたことを証明できた。さらに、彼女たちの先着した時間であれば、給油している暇はなかったと言える。よって我々は、世界初大西洋無着陸飛行に成功した人物は、サリー並びにローズ飛行士であることを承認する。よって、ポール飛行士は、世界初男性大西洋無着陸飛行に成功した人物であり、世界で三番目にことをなしたものと承認する」
「何、私は世界で三番目か。この場合、少なくとも彼女たちの飛行機をみせてくれ。なぜ私の五気筒星型空冷飛行機に先着できたのか納得させてくれ。どうみても彼女たちが乗っていたエンジンは水平対向エンジンにしか見えない。通常なら私の飛行機の方が巡航速度は速いはずだ」
「この機体は、後で展示予定なのでお先にどうぞ」
「ふむ、これくらいの燃料タンクがあれば六千キロを飛行できるだけの継続能力があるな。そして、二人乗り飛行機に徹するために、後部座席からも操縦可能か。では、肝心のエンジンをみせていただこう。水平対向エンジンか、そして、気筒数が片側三気筒。合計六気筒。そうか、エンジンをみせてもらうまで、六気筒だと気付かなかった。もしかして、四気筒エンジンの設計箇所に六気筒エンジンを搭載か。最小限の設計変更で巡航速度をあげたか。さすがは欧州大戦を乗りきった仏蘭西空軍か、恐れ入ったよ。俺の飛行機より速いわけがわかった。納得させられたよ。俺は三番目の男だと」
「では、亜米利加市民は、彼女たちの栄誉をたたえるためにパレードの準備だ。これから忙しくなるぞ」
「サリーとローズは、賞金をもらって勲章をもらって、戦闘機乗りになれそうだけど、私たちの女教官は、第三の男と結婚するの?」
「さあ、教官次第かな。第三の男では不足だといって、今度は太平洋無着陸横断飛行に成功するまでお預けをくらわすかも」
「いやどうかな。結婚したくないのならそれもありだけど、さすがに婚期を逃すぞ」
「だったら、好きな男と結婚するのもありかもね」
「そうか、主導権は逃さずか」
一月二十八日
カフェ モンブラン
「アンナ=アンドリュー令嬢、自身の空軍副官と結婚へ」
「ついに、ヒロインが結婚か」
「自分が育てた後輩が太平洋無着陸飛行に成功したんだ。その最大の貢献者である空軍学校の教官と結婚するのであれば世間は納得するだろう」
「誰も世界初大西洋無着陸横断に女性が初となるとは予測できませんでしたからねえ」
「ますます、女性解放論者が強くなるねえ。女性の方が優秀であると」
「一部のやっかみは、これはアンナの謀略だといっている連中もいるね。女性解放に最大の貢献をしたのはアンナだと。名声も広報も彼女一人が組み立て、男どもはそれに踊らされただけだと」
「別な観点で述べている連中もいる。軍隊にとって上官下官は絶対であると。副官と結婚するのならば、女性上位に立つために最もくみしやすい相手だってね」
「深読みする連中だな。それは男女平等が進むのをよしとしない男性優位論者の悲鳴だろうな」
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