仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第266話
1926年(大正十五年)一月二十八日
パリ カフェ=モンブラン
「サリー、ローズ両空軍隊員は、亜米利加中でパレードか。いつになったら仏蘭西に戻ってこれることやら」
「金のことなら心配するな。ゆく先々でマスコミが待ち構えている。それをさばくだけで一時間はかかるって話だ」
「二人とも女性だろ。来月号のファッション誌では、それぞれがモデルデビューだとさ」
「ほうほう。それは、世界中で売れるだろうな」
「そんなわけで、亜米利加中で大歓声が上がる二人なのだが、やっぱり一番得をしたのは誰かという点に注目が集まるが、誰だと思う?」
「まず、航空機産業が大儲けだな。亜米利加の航空機産業で五割増し」
「え、自国民の偉業でもないのに?」
「飛行機の未来は明るいと判断されたわけだ。大西洋横断路線を構築できれば、ニューヨーク発パリ行きの路線など、今後十年以内に一大産業になること間違いなしとアナリストが太鼓判を押しているねえ」
「仏蘭西空軍も株をあげたね。飛行機産業の先進国は、発祥の亜米利加に、欧州大戦の対戦国である仏蘭西に独逸。それに産業革命発祥の英吉利で覇を争っているわけだが、世間的には、欧州大戦で仏蘭西と独逸が抜けだしたわけだ。愚直に二空母を大西洋に繰り出し、何度となく無着陸大西洋横断飛行の護衛を務めているうちに、空軍乗りは、技能を引き上げ、開発部は飛行機乗りの要望をくみ上げるだけの飛行機を開発したわけだ」
「空冷水平対向六気筒エンジンは、これ以上気筒数をあげることができないけどね。なんせ、両端の気筒に比べ、中間に配備される気筒はどうもこうにも気筒を冷やすことが難しいわけで、八気筒エンジンに利点なし。六気筒エンジンの場合、エンジン振動の点で完全バランスをとれる利点があったが」
「だが、その柔軟な思考を評価することは出来る。少なくとも競合国の独逸空軍と英吉利空軍の地団駄ぶりはすさまじかったな」
「後は、女性解放主義者には男女平等なんてとんでもない。飛行機乗りに関しましては、女尊男卑で構いませんわと触れまわっていることだな」
「世界的に女性解放路線が強いのは、仏蘭西、露西亜、亜米利加ときたわけだが、その風潮はますます強くなるだろう」
「仏蘭西も戦闘機乗りに女性を採用することは既定路線となったわけで、露西亜もこれに追随するだろうな」
「と、世界的な流れはさておき、誰が一番をしたかと言われれば、AA航空を率いるアンナ=アンドリュー一族だろうな」
「そういえば、仏蘭西では航空機産業の株は二倍に急騰したんだっけ」
「気の早い連中は、パリ発ニューヨーク行きの一番航空機に乗りたいからと予約を出したという話だ」
「女の一生をチップにして、大西洋横断飛行を達成するものを待ち焦がれた結果は、女性解放路線の優位と持ち株資産が二倍になった大勝というやつか」
「だとすれば、後男性優位を主張できる分野って何だ?」
「北極点は攻略されたが南極点は未開の地だ」
「エベレスト山頂も攻略されたな。どっちも女の影はない」
「英吉利と独逸並びに亜米利加も巻き込んで無着陸太平洋横断飛行の初を巡る激しい競争となるかもな」
「世界初を競うなら、世界的名声を得た女性浮世絵師になればいいんだと息巻く男性優位論者がいるよ」
「さすがに、オタクの女の子を探すのは難しいだろ」
「なんせ、体力と知力、画力の極限で頑張れる人材となると」
「欧州に浮世絵が広まってから七十年になろうとしているが、女性は名声を獲得できない」
「出るとしたらどこになるだろう?」
「優位なのは、ジャポン、仏蘭西、伊太利といったところか」
「個人でできるのだから、小国でもあなどれないが」
「では、女浮世絵師が出た国は真の女性解放国と認定されるんですか、男性優位論者によって」
「なんといってもな、北極点到達とかいっても、飛行機でその上空を通過したと女飛行機乗りに主張されてみろ。わざわざ観測者がいない場合なぞ、眉唾なものと切り捨てるわけにはいかんが、きちんと証明できなければ未確認と認定するのが正しい対処というべきだろう」
「大空は、女のものか?」
「空は平等だ。しかし、航空会社も女性飛行士を拒むことは出来ない」
「結局、男尊女卑と男女平等のどちらが正しいのか?」
「それは後の歴史が決めてくれるだろうが、間違いなく生産性は後者が高い」
「離婚は前者が低い」
「社会が安定というか、保守的なのは前者」
「ふーむ、革新的なんのは後者か。なるほど、大西洋横断飛行に成功したのもそのおかげ?」
「否定は出来ない。第三の男も単独飛行に成功したからその賞金は貰っている」
「第三の男も仏蘭西人だしな」
「これから十年、欧州大戦の戦後が整備される期間だ」
「その一つは、欧州復興により過剰生産が見受けられるようになってくるその影響力をどう受け流すかだな」
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