仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第276話

 1928年(昭和2年)九月二十九日

 テキサス州ダラス ホーク映画館会議室

 「諸君、弁士の活動を脅かす物が二つある」

 「そのうち、展開が遅く脅威は第一の難敵を撃ち果たした後やってくるカラーフィルム化は、今回の議題から除外してもよろしいかと」

 「カラー化は、一枚ずつモノクロフィルムに絵筆で色をつけるというものだ。マスターフィルムはカラーに出来ても、そのコピーはモノクロのままだから、商業ベースに乗るまでも猶予はでかい」

 「というわけで、我々の危機は、サイレントムービーからトーキーに技術進歩することに直面していることだ」

 「トーキーが幅を利かせるようになると、我が町の弁士、カレン嬢が失業を余儀なくされる」

 「この危機を救う良案を挙げてくれ」

 「はい。俺がカレン嬢と結婚すれば問題はありません」

 「「「ボコボコボコボコ」」」

 「えー、こういった下策を例示すれば神の裁きが下るかもしれませんので、皆のもの、真剣に考えたまえ」

 「要するに、カレン嬢がわが町のアイドルでいて、なおかつみんなが納得する案を出せというのだな」

 「そうだ、アイドルは一人のものにならない。これは不滅の鉄則だ」

 「で、トーキーがカレン嬢の仕事を奪うようになるまで猶予はどれくらいいとみる」

 「後五年とみる」

 「うーん、それはすぐさま対策を取らねば命取りになるな」

 「はい。カレン嬢をラジオDJに転職させればよいかと」

 「それは、AMか」

 「いや、ダラスをカバーするだけだと、今開発途上のFM放送が望ましいのだが」

 「両者の違いは?」

 「簡潔にいえば、AMは、受信範囲が広い。FMは、音質が良い」

 「カレン嬢の華麗な声をきくなら、FM放送だな」

 「しかし、FM放送は理論上成り立っているだけで、実用化まで後、五年から十年かかると言われてるぞ」

 「だとすれば、開設はAMで、黒字化したらFM局併設ってなものでどうだ」

 「誰か反対意見はあるか」

 「はい。猶予は五年あるんですよね」

 「ある。最低限五年、最長十年といったところだ」

 「敵が映画フィルムならば映画に攻め込みませんか」

 「映画会社の買収か。それとも映画作品をつくるのか」

 「映画作品を作りたいと思います。主演の一人にカレン嬢を採用して」

 「長編なら、予算が足りないぞ」

 「それは一つの映画館で対応しようとするからです。ここテキサスにある五つの映画館で共同作品を作り上げれば、予算は五倍。リスクは五分の一です」

 「それはそそられる案だけど、脚本次第だろ」

 「五か所の弁士を使うとなると、ヒロイン、ヒーロー、準主役男役、準主役女優ときても一人たらん」

 「いっそのこと、五人目に悪の親玉を使うつもりか」

 「映画の題名はどうするんだ。それももめるだろ」

 「これは、日本の組織である五人組にヒントを得ました。隣に住む五組の家族のうち一人が刑罰をおかせば共同責任になるそうで、一つの課題にあたる際も一人が成功すれば全員の成功になるそうです」

 「なるほど、五人の主役というわけだ。で、題名と脚本は?」

 「五人組にヒントを得たので、題名は『五忍戦隊』。脚本は、宇宙から降り立った悪の宇宙人を五人が協力して退治してゆくわかりやすい作品です」

 「なるほど、それなら五人でなく十人で主役を張れないか?」

 「はあー、悪の戦隊も五人ですか」

 「違う。忍者だから素顔を隠すんだろ。だから、殺陣のできる運動神経抜群な弁士五人を変身後の忍者として使い、モデル体形の五人を変身前の人として使えば、十人で映画ができる」

 「なるほど、そうすれば十の映画館が協力して、資金集めできますねえ」

 「うむ、これを使えばテキサスのヒーローが誕生できる」

 「はい、その中でカレン嬢が主役を張れれば、カレンの世界進出がかなう」

 「カレンの世界進出の日が来るとは、夢のようだ」

 「テキサスを意識した作品となれば、戦場は乾燥した砂漠。攻めてくる宇宙人は、火星人ですか」

 「あのう、忍者の区別はどうやってつけるのですか」

 「ふむ、体格で分ける手もあるが、モノクロだもんな、色によって区別はつかんわな」

 「単純に、数字の一から五をふればよろしいでしょう」

 「忍者戦隊一号、、、、五号集合。全員集合というやつですか」

 「では、これよりテキサス中の弁士を抱えた映画館を口説くぞ」

 「はい、目標は九館制覇。夢はでっかく映画作品への投資とお抱えの弁士の世界デビューだ」

 「「「おーー、俺はやるぞ」」」

 

 

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