仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第277話
1928年(昭和2年)十二月十二日
ニューヨーク市 リサ=リー市長事務所
「テキサスの地域俳優五人組によるアクション映画への評価をお聞きいたします。来年、映画が公開されますが、その流れに対するリサ=リーニューヨーク市長の関心度はいかがなものがあるのでしょうか」
「まだ、公開されていない映画への評価をお聞きされるのですから、その公開に至るまでの流れに対する評価を中心にお答えしますね」
「もちろんです。シナリオはまだ一部の人間にしか渡されていないのですから、そのあたりを中心にお答えしていただければ十分です」
「少ない予算を最大限に利用しているす手法は素晴らしいと思えます。主役が五人というのも斬新ですねえ。観客をファミリー層にまで広げるのですから、映画のすそ野を広げる方法としても期待がもてます」
「主役が五人という発想は亜米利加映画にはなかったのでしょうか」
「映画が白黒であることを考えますと映画は発展途上にあるわけですから、少し近未来的な感もします。映画がカラーになるまで待てなかった作品といわれる可能性も捨てきれません」
「なるほど、白黒映画では登場人物の見分けがつきにくい点も考慮しなければならないといわれるのですねえ」
「それと悪役が火星人となり、宇宙人を相手にアクションをするわけですから今までの常識が通じない作品となるでしょう。個人的には、宇宙人といわれて違う銀河からきた宇宙人というのもありかと」
「そのへんは、想像力の限界といいますか、人類は月にも到達していないわけで太陽系外はサイエンスフィクションでも通常、取り扱いがありません」
「そういえばそうでした。飛行機が飛ぶようになってまだ二十年。大気圏脱出方法も模索中ですよね」
「はい。そういった意味で大気圏を脱出する宇宙船として蒸気機関車が作品中で登場するわけですが、そのへんは古めかしいかもしれません」
「そうですねえ、世界最古の文学作品として有名な竹取物語が欧米に紹介された時、十九世紀の半ばでしたが、その時も作品の最後に登場する月の住人の乗り物は蒸気機関車でした。最もその当時の最新技術でした。なんせ、飛行機が発明される前の話ですから」
「だとしたら、宇宙船が蒸気機関車というのはその流れでしょうか」
「それは、演出家の手腕でしょうねえ。宇宙船を蒸気機関車にして映画監督からボツを食らってもスポンサーを獲得してリターンしてくるわけですから」
「そのへんは、強情な演出家ですねえ」
「組んだ相手が大陸横断鉄道会社ですから、テキサスらしいといえばらしいですよ」
「そうですよね。大陸横断鉄道の一つはテキサスに本社を置き、映画公開中は大陸横断鉄道から大陸銀河鉄道に改名させる努力はすごいものがあります」
「そのへんは、営業努力でしょうねえ。大陸横断をする手腕は、鉄道が独占していた時代と異なり、バスも競争相手ですし、時間があれば自家用車という方法をとる人までいますよ」
「しかし、演出家が宇宙船に蒸気機関車を用いる理由は大きく分けて二つあるとか」
「一つは、蒸気機関車がテキサスの撮影場で登場しても不自然でないことですねえ」
「ええ、サイエンスフィクションで登場する宇宙船でしたら、撮影中、テキサスの風景と合致させるのが難しかったでしょうし」
「なぜ、蒸気機関車が宇宙船なんだと言われたら、石炭をくべつつ作品に登場しても不自然でないからだといいはった演出家の勝ちですか」
「そうかもしれませんが、エネルギー源が斬新かもしれません」
「もう一つ、我々が想像する宇宙船はロケットエンジンですけど、それでは火星にまで行けないというのが演出家のこだわりですか」
「火星にまで行くメインエンジンとして反重力装置を採用しているから、蒸気機関車でいいといいはりましたよね」
「エネルギー源に太陽でおこなわれている核融合反応により、反重力エネルギーを得ていると」
「しかし、反重力エネルギーとはそれほどすごいものなのでしょうか」
「そうですねえ。磁力で正極と正極が反発することにより物質が浮かぶことができるわけですけど、仮に重力を反対方向の加速度で加速するとしますと、空気抵抗を無視できるとして、四十秒加速できたら音速を超えますよ」
「それほどすごい推進力ですか」
「すごいのでしょうけど、核融合エネルギー自体、未知なるものですから反重力装置の開発を手掛けるまでには至りませんよ」
「だとしたら、我々は太陽をみて核融合反応を眺めるしかないのでしょうか」
「演出家のこだわりは、二段階で我々をけむりにまいている点でしょう。どや、核融合反応さえできないうちは、この宇宙船の批判は許さんぞ」
「でも、核融合反応の原料はどこにあるのでしょうか」
「三重水素ですね。太陽系にあるといいのですが」
「現実世界で三重水素の発見を演出家はまっているのかもしれませんよ」
「えらく科学に詳しい演出家がついた作品になりそうですね」
「反重力装置が取り付ければ、船でも家でも蒸気機関車でもかまわないという主張でしょうねえ」
「本日は、インタビューに答えていただきましてありがとうございました、ニューヨーク市長」
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