仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第281話

 1929年(昭和3年)十一月十一日

 テキサス州ダラス ホーク映画館上映中

 火星に到着した五忍ジャーは、苦闘の末、ついに地球征服をたくらむボスを退治した。

 「一足遅かったな、五忍ジャー。我々は戦闘に敗れはしたが、地球消滅はすでに達成されたぞ」

 「なに、お前を退治すれば終わりではなかったのか」

 「我々は、地球にいる人類を消滅させた後、火星人を地球に移住させることが目的だったのだ。そこで、火星の衛星ダイモスをすでに地球に衝突させるために地球に向けて推進させている。なに、お前達に火星の地面を踏ませたのは、ダイモスの軌道変更を邪魔させないためだったのだ。ふふふ、ダイモスはすでに自動推進で我々のコントールを離れている。戦闘には負けたが戦略で我々の勝ちだ。グハッ」

 「本部、本部、至急、火星の衛星ダイモスの軌道分析をお願いします。敵のボスを倒しましたが、敵はダイモスを地球に衝突させる手段を取った模様、なおすでにダイモスのコントロールは出来ないようで、それをこれより確認いたします」

 「本部、ダイモスの解析をおこないます。現在のダイモスは火星を回る公転軌道を離れ、このままでは一年後、地球に衝突する見込みです」

 「ダイモスの質量は?」

 「直径二十キロメートルの塊です。地球に衝突した場合、火星表面にみえるクレータが地球にできる見込みです。その直径は二十キロメートルの巨大な穴となって大津波と巨大地震を巻き起こし、津波の被害だけで人類は二割、巨大地震に伴う寒冷化により、七割が死亡することが予想されています」

 「我々がすべきことは?」

 「残念ながら、宇宙船に搭載されている反重力装置一個ではダイモスを止めることはできません。しかし、これが五個となれば話は別です。もちろん、地球衝突軌道を反重力で打ち消すことはできませんが、ほんの少し、軌道をかえることは出来ます。軌道をずらし、火星に衝突させるために必要な計算を我々はこれからします。五忍ジャーは、すぐさま準備に入ってください」

 「了解」

 「五忍ジャー、宇宙船に登場いたしました」

 「五忍ジャー、最終形態に入ってください」

 「了解、五忍ジャー、先頭車両にレッド、以下、二号車、三号車、四号車、五号車にそれぞれが搭乗して分離に入ります」

 「本部、五忍ジャーに解析結果をお伝えします。反重力装置五台をダイモス推進方向にから直角に三十秒間作動させてください」

 「そうすれば、火星に衝突させる軌道に動くのですか?」

 「はい、最大出力で三十秒作動させれば一年後、火星衝突軌道を取らせることができます。ただし、三十秒までですよ、みなさん。それ以上となりますと反重力装置が持ちませんからね」

 「了解、五忍ジャー全機、ダイモスに対し反重力装置を作動させます」

 「ラジャー、出力全開を確認。カウントダウンを始めます。30、29、‥‥‥、1、0。反重力装置を停止してください」

 「了解、反重力装置、すでに停止させています」

 「ダイモスの軌道計算をします。やりました。ダイモスは一年後、火星衝突を果たします。火星にバウンドした後、ダイモスの軌道に戻る見込みです。ダイモスはその衝撃で直径十三キロの一回り小さな衛星となることでしょう」

 「了解、五忍ジャー、帰路につきます」

 こうして、人類消滅の危機は回避されました。地球征服をたくらんだ火星人はダイモスを一年後、火星に落とされ、消滅したのでした。

 「いやー、最後までハラハラドキドキしたね」

 「火星人っているの?」

 「どうだろ、今度、火星をのぞいてみたら?」

 「望遠鏡を買ってね」

 「仕方ないな」

 「で、天体望遠鏡を買ったら、次は和食レストランね」

 「しょうがないな、ま、いっか、チップフリーだし」

 「チップって、仲居さんに渡しちゃ駄目なの?」

 「それがお店の規則だし」

 「僕が個人的に渡したいの」

 「そっか、その仲居さんのファンか。しかたないな、天体望遠鏡をあきらめるというのなら、その仲居さんにプレゼントを渡すのは認めてやろう」

 「しょうがない。今日のこれからの行き先は雑貨屋さんね」

 「了解、進路変更だな。で、雑貨屋さんの次は和食レストランでいいか」

 「駄目駄目、次はおもちゃ屋で銀河鉄道の模型を買うの」

 「そっか、でも、鉄道模型より、父さんに欲しいものができたな。だから、鉄道模型を今日は買わないよ」

 「えーーーー、父さんずるい」

 「ずるいといってもだな。蒸気機関車そのモノを買いたくなったんだが、息子よ、駄目か」

 「賛成、何はともあれ賛成。僕絶対、ママを説得してみせるよ」

 「よし、それなら、ママの好物を買って帰ろう」

 「うん、竜田揚げだよね」

 

 

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