仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第292話

 1932年(昭和6年)九月二十三日

 甲府飛行場飛行研究室

 「『亜米利加で、蒸気機関車による親子四人によるクラシック蒸気機関車登坂レースは、母息子チームが父娘チームを決勝にて破る手に汗を握る大会となった』ときたか、亜米利加の金持ちはスケールが大きいねえ」

 「それだけじゃないぞ。お金が循環する好循環が生まれ、亜米利加の景気は一種のバブルといわれている」

 「確かに、クズ鉄同然の打ちひしがれた錆びまみれの蒸気機関車が売れれば、鉄道会社はウハウハ」

 「そして、売れた代金で設備投資に向ければ、鉄道の線路や機関車が売れ関連産業として、機関車製造会社や鉄鋼業がもうかるという好循環が生まれます」

 「つまり、経済が上向き好景気が持続するということだな」

 「ええ、それも損をした人物がいないんですよ」

 「ええと、それに該当するのはクズ鉄同然の中古機関車を購入したアメリカンドリームをつかんだ金持ちでは?」

 「金持ちは投資家という面も持っています。機関車が売れた鉄道会社や鉄鋼業の株主でもあります。それらの株価が上昇しているわけですから、資産を膨らませた金持ちは損をしてないんですよ」

 「では、株をもっていない機関車購入をした金持ちは損をしただろ」

 「まあ、まじめに機関手の技能を向上させようとする方々はレースにも強いですよ。そんな人たちは観客レースですから、賞金と名誉を得ることができます」

 「ほらほら、亜米利加のバブルにうつつを抜かしてばかりでは駄目ですよ。幕府の公式飛行機開発が行き詰ったって、逃避行ばかりしていては駄目ですよ」

 「でも絶対越えられない壁が」

 「四百五十キロの壁ですか。確かに難問ですね」

 「まだ、飛行機の最高速は時速四百キロ程度ですが、降下速度になれば時速五百キロメートルを超えます。しかし、機体が持ちません」

 「気持ちはわかります。いくら圧縮木材を使用しているといっても、時速四百五十キロを超える機体を作れないということですよね」

 「ええ、金属翼を使えば、そのような限界はないのですが、木戦をつくるといって予算をもらった手前、十年先を見据えた飛行機にしないといけないんですよ」

 「今から、金属翼を取り付けるか」

 「いえ、それだと研究は失敗だと認めるようなものです。研究開発が止まります」

 「それにいくら圧縮した木材といっても金属翼に比べ空気抵抗が大きいんです。材料を補強する意味で主翼を厚くしようとすると、浮力が増します。浮力が過剰になると飛行機は、まっすぐ進まなくなって、前方空中回転をしてしまいます」

 「浮力が大きいのはいいことなんだが、それを生かす方向というのが見つからないんだわ」

 「いいことが生きるその利点として、初心者に優しい飛行機になってしまう」

 「極めて短距離で離着陸ができます」

 「空母搭載機として売り込めます」

 「通常では考えられないほど小さい飛行場ですみます」

 「搭載する装着物を大きくできます」

 「具体的にはどれくらいの荷物が積めるの?」

 「これからの主要エンジンを予定している空冷九気筒を取り付けると一人乗りでも二百キロの爆弾を抱え込むことができます」

 「二百キログラムを抱えることができる戦闘機ねえ。もうそれって爆撃機だろ」

 「長所を伸ばすしかないよな」

 「火力をあげますか。搭載量に余裕がありますから」

 「それには問題が。欧州の戦闘機が素直に的になってくれると思う?」

 「あっちは、金属翼の九気筒エンジンだとすると、こちらよりスピードがでるぞ」

 「うーん、簡単に後ろにまわられそうですね」

 「その前提で進化させろよ」

 「後ろを取られても立て直せる飛行機なんて、無理でしょう」

 「無理に無理を重ねろよ。そうしないと木戦はここでお払い箱にされるぞ」

 「はい。では、僭越ながら私信を述べさせていただきます。極めて短い離直陸距離なのならば、水上機をつくるべきです」

 「なるほど、少なくとも偵察につかえるな」

 「はい、錆びる部分がエンジンとプロペラだけというのならば、長い期間にわたって離島での使用が可能です」

 「よし、早速水上機を設計しろ」

 「了解しました。水上機ならば、自重が少ない点は利点ですねえ」

 「足回りも木でいけます」

 「タイヤも必要ないしな」

 「とりあえず、木戦は日のめをみれそうだな」

 「水上機だと最高速が伸びないのも許容してもらえますよ」

 「この場合、搭載できる荷重は少なくなるの?」

 「なりますよ、水上に浮かぶ必要がありますから、爆撃機ではなくなるでしょう」

 「いや、五十キログラムは可能にしておくわ」

 「さあさあ、水上機として実験機を作りますよ」

 

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