仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第295話

 1933年(昭和7年)八月八日

 富士山頂

 キャンプタウンの淑女が歌を歌う

 デゥダーデゥダー

 キャンプタウンの飛行場は長さが一キロさ

 オーデゥダーデイ

 俺は外套をつかんでそこへゆく

 デゥダーデゥダー

 成果を残して甲府に帰るぞ

 オーデゥダーデイ

 一晩中でも働くぞ、毎日研究だぞ

 俺は木氷に賭けたぞ他人はその手伝いだ

 (原文は S.C.フォスター downtown race)

 

 二人乗りの木担にこれから造る木氷

 デゥダーデゥダー

 いつか二台が並走できる滑走路にするぞ

 オーデゥダーデイ

 それまでに雪の滑走路造り

 デゥダーデゥダー

 スキーのない木戦は滑走路で墜落さ

 デゥダーデゥダー

 二メートルの積雪でも着陸さ

 オーデゥダーデイ

 一晩中でも働くぞ、毎日研究だぞ

 俺は木氷に賭けたぞ他人はその手伝いだ

 

 雹が工事現場を襲う

 デゥダーデゥダー

 目前は視界不良

 オーデゥダーデイ

 俺たちは小屋に避難だ

 デゥダーデゥダー

 富士山頂は戦場だ

 オーデゥダーデイ

 一晩中でも働くぞ、毎日研究だぞ

 俺は木氷に賭けたぞ他人はその手伝いだ

 

 この先、滑走路は寒さとの戦いさ

 デゥダーデゥダー

 滑走路を走るぞ、そして戻るぞ

 オーデゥダーデイ

 俺は富士山頂で働かされている

 デゥダーデゥダー

 金は使い道がない

 オーデゥダーデイ

 一晩中でも働くぞ、毎日研究だぞ

 俺は木氷に賭けたぞ他人はその手伝いだ

 

 「隊長、歌でも歌っていなければやってられません」

 「同感だ、今気温は?」

 「摂氏五℃です」

 「富士山頂標高 3776 m 。標高差による気温下降 0.6 × 3776 / 100 = 23 」

 「ということは、三保の松原は摂氏二十八度というところか」

 「隊長、休憩時間に海水浴がしたいです」

 「頑張って、雹を溶かしたら風呂にでも入れるだろ。良かったな」

 「我々は、避暑に誘われたのではなかったのでしょうか」

 「俺は嘘を言ったか?」

 「たしか、高原でお庭造りに参加者募集とありました」

 「現状は?」

 「富士山頂に雹が降っているので山小屋に避難しています」

 「そのままだろ」

 「あのう、富士五合目なら高原ですが。富士山頂は高山にしてください」

 「いやあ、それだと募集人数に達しないだろ」

 「確かに寒冷地手当が出ています」

 「そういうことだ、寒冷地手当が出ているんだから高原に冬が来たと思ってくれれば間違いではない」

 「我々は売られたのでありますか」

 「それはやめておこうな、ドナドナと歌うのは」

 「いえ、雹がやんだらその歌を歌ってやります」

 

 

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