仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第296話
1933年(昭和7年)八月八日
甲府飛行場飛行研究室
「磨り磨り、すりすり」
「どうだ、左右の均等は」
「右が少し重いです」
「ほう、このへんかな」
「そこが的確ですね」
「では、そのへんを擦るか」
「うーん、まずは機体の全体図から明らかに出っ張ったところを削るか」
「やり直しがきかない点は、どのやすりでも一緒ですねえ」
「金属ならパテをあててその部分を再び削り出すことができるが、圧縮木材の場合、反対側を削るのが早い」
「けれど、日本も自動車製造にとりかかったんでしょ」
「仏蘭西製のエンジンは優秀だからな」
「普通に鉄板を加工したものだが」
「だったら、やすりも金属やすりがあるでしょ。なのに何が悲しくて国家軍機に紙やすりをあてなくっちゃならないんです」
「なぜかといわれれば、木星の方が軽いからだ」
「エンジンとプロペラ以外、木なら確かに軽いですけど、べつに金属やすりでもかまわないでしょう」
「確かにやすりの歴史は古い。金属を使い始める前から、木を黒曜石で削ったことに始まる」
「金属器が発明されて以降、やすりといわれる物は通常その時代で一番硬い金属が通常該当する」
「もしくは硬度の高い石だ」
「だが、硬度の硬い石は鋼鉄に対しては、切断機だ。硬度の高い石が使われるのは、超硬度を誇る金属を削るためにある」
「で、飛行機を紙やすりで擦っている理由につながるんだ」
「人が余っているからだ」
「日本はたくさんの島を抱え、大量の家具を受注しているんだろ。仕事はたくさんあるだろ」
「熟練の職人は、余ってるんだ」
「ほう、紙やすり職人ですか」
「正確には、手作業で刷っていた浮世絵職人だ」
「そっか、今の浮世絵は印刷機世代だからな」
「だから、軍需産業で浮世絵職人の救済を図っている」
「そんなに奥が深いのか?木製軍機」
「さあ、理由は後付けばかりだろ」
「それよりそんなに生産上がっているのか?木星?」
「日本は広い。なおかつ、島だらけ」
「滑走路つけられないけど、海を使って飛行場代わりが成り立つ海域多し」
「では、元浮世絵職人さんも大活躍?」
「してるよ。熟練の技は、今もすごい」
「どのへんが?」
「髪の毛一本、太いとか狭いとかを調整してくれる」
「それってもはや職人芸を超えてる?」
「どうだろ、模型機を作っている時が一番、熟練技が必要だけど」
「木の木目を見切り、乾燥後の完成図を再現できる技は他国にはあるまい」
「でも紙やすりでできる戦闘機って強そう?」
「ほらほら、自重にしてはたくさんの装着品をつけれることが判明したよね」
「うん。戦闘機ながら二百キロの装着枠がるけど」
「というわけで、機関銃を強力にできますよ」
「十三ミリ機関銃ですか、それは強力ですね」
「二声足りません」
「では、二十ミリ機関銃?」
「いえ、もう一声」
「では三十ミリですか」
「ええ、三十ミリ機関銃搭載可でいきたいと思います」
「それで、機体運動に問題がないの?」
「ええ、二丁装着しても問題がないようにできますよ」
「強いんか弱いんか、ようわからんなあ」
「いえ、四百五十キロ制限は解決してませんから、ほめられたことではありませんよ」
「なんか、ごまかし技能があがったような」
「どうしましょう。木戦の鑑査の時は、三十ミリ機関銃で標的に穴を開けますか」
「実際そうなるでしょうねえ」
「あたれば強いんですよってか」
「もしくは情に訴えますか」
「浮世絵職人救済のための機体だと」
「ますます正当進化から外れてゆきますね」
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