仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第301話

 1934年(昭和8年)十一月十一日

 甲府飛行機工場

 「監察官の言ったことは正論だ」

 「軍需工場だから、戦時体制に移行して増産体制を敷く用意が必要だと」

 「で、浮世絵の版元にいた連中にごっそり頼っていた体制を四機種体制で量産体系を構築するのが今科せられた命題ですか」

 「まずは人材の確保だな。老兵にばかり頼っていてはいざ増産体制構築の時に馬力が出ないぞ」

 「だとすれば、新人の確保は普通の方法でいくが、新人教育はどうするんだ?」

 「それは、難題だな。老兵たちに新人教育ができると思うか」

 「無理だろ。孫と老人くらい差があり、二世代の壁は大きすぎる」

 「てなわけで、中間に両者をつなぐ中間を入れなければならん」

 「条件は?」

 「木材加工に対する愛情もあり、なおかつ初心者に対する技能を伝承するために固有技能を有するもの。さらに、老兵に気にいられるほど優秀でなければならん」

 「となれば、各地にある木材加工業者の師匠とよばれる連中を引き抜いていいかな」

 「駄目だ。木材加工業者は世界輸出に向けて過剰なほどの受注を抱えている。だから、優秀な連中でおじさん世代は現役で手をつけられないから、今は印刷機に職を奪われた浮世絵師を雇用したんだぞ」

 「悩みは、中間管理職かあ。だれか、あてはない?」

 「そうですね。組織に属していない木の達人となりますと、やはり根付けあたりがよろしいかと」

 「それ以外のあては?」

 「各地にこけし職人がいますが、最近のあれ、ひたすら回転体に横から刃物をあてるだけの中心軸に対し面対称なものになっていますから、技能は押してしかるべき段階のものですし」

 「やはり、目が鍛えられていなければ、木製飛行機の製作には不向きかと」

 「だとしたら、根付け職人に声をかけるとしますが、採用基準はどこに置きますか?」

 「一次審査は、自身の作品を送っていただきましょう。それでかなり技能を把握できます」

 「二次審査は、会話力で決めましょう。老兵の技能を自身でなく新人に伝授する実技試験でいきましょう」

 「なるほど、中間管理職というものは、調整力が一番大事というわけですね」

 「さて、業界より監査をくぐりぬけた我々ですが、今度は違う方面から横やりが入りました。皆さん、これから与えられた命題を克服する二人乗り木星飛行機の設計に派生作品を作っていただきます。命題は、飛行機から強磁性の物質を完全排除していただきます」

 「ええと、今の木星で強磁性のものは何かありましたか」

 「エンジンとプロペラがそれに該当します」

 「それというのは、結論からいいますと全て木でできた飛行機になるんでしょうか」

 「違います。強磁性の物質というのは磁性のそろった物質で、一方方向にスピンが紡がれた物質です。広範囲には、固体酸素も含まれますが、室温で気にする必要のある金属は鉄、コバルト及びニッケルの三種類を含まない金属であれば問題ありません」

 「つまり製鉄所でなく、銅かアルミでできていれば問題ないというわけですね」

 「となると、飛行機に使われる用途だと軽い方がいいわけで、エンジンとプロペラをアルミに変換すれば一件落着ですか」

 「大体のところはそれで済む。研究者は、操縦士の装備からも鉄を禁ずることにしてほしいそうだが」

 「それほど、難題でもなさそうですからやりますけど、それって費用がまた跳ね上がるわけで、費用対効果は保障されているのでしょうか」

 「されがな。上役に対してその科学者は見事な実演演習をおこなった。だから、こんな難題が通った。だから、その場面を再現してやる」

 

 

 

 「それでは、なぜ私が強磁性の全くない二人乗り飛行機が欲しいかその実演とまいります。ではここに、二つの机を用意しました。一つはどこの会社にでもありそうな事務机、これは鉄製品です。その机の中心に紙でできた箱を二つ置かせていただきました。中身は、鉄棒と鉛筆を置いています。それでは、助手に糸で釣った永久磁石でどちらに鉄棒があるのか探査していただきます。さあ、助手君やってくれたまえ」

 「はい教授」

 「ま、当然の結果ですな。鉄でできた机の上では、磁石は机そのモノに吸引されますから、鉄の棒を探査することができません。では、改めて、机を木製に変更して同じことを助手にやってもらいましょう」

 「はい、教授」

 「皆さん、今度は助手が鉄棒を見事、箱に触ることなく鉄棒を探査してくれました。つまり、私が磁性のない飛行機が欲しいといったのは、磁性探索機を設計するにあたり、空飛ぶ飛行機そのものが磁性をもっていては、探知器に誤作動となる要因をもちこむことを危惧したわけです」

 「では、教授。あなたの公演はものすごくわかりやすかったですが、我々はそれで飛行機を探査できるといいたのですか」

 「いえ違います。あくまで目に見えない物体を探すために磁性を利用するのです。そして我々は飛行機からは磁性を追い出すことができるでしょう。ですから飛行機を探査することは私の本意ではありません。我々が磁性で探し出すことを目的にしている敵兵器は、この机を海にたとえ、紙でできた箱を水に例えます。それではこの鉄の棒といいましたが、実はこの紙箱の中に兵器模型が入っています。それではみなさんにその兵器を言っていただきましょう」

 「「「潜水艦」」」

 

 

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