仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第302話
1934年(昭和8年)十一月十一日
甲府飛行機工場
「博士、現在の科学水準でできる限り磁性を排除した二人乗り磁性探査飛行機の開発が可能ですが、なぜこのような課題を我々に」
「それは、科学進歩を加速させるために相違ありません」
「科学進歩を進めるとおっしゃいますが、では、どのような手順で磁性探査が進むと思われていたんでしょうか」
「現在の磁性探査機は、どうみても小型化が進んでいません。その最大の原因は、磁性感知器とそれを数値化する計測機を一つにできないからです」
「確かにどうみても検出器は鉄製飛行機では、感知機と距離を置かなければならないでしょう」
「それに検出器と感知器を引き離さなければならないのであれば、感知機を飛行機本体から外に出してしまわなければならないでしょう」
「ですから、木製でできた飛行機が開発中で聞きつけた時のそれだと思った私の気持ちがわかるか」
「そうですね。これで俺の野望が達成できるという推進力なったということでしょうか」
「そうなのです。磁性探査機を飛行機にのせて世界中を調査するのを思い立ったのですが、従来方式であれば、世界最大級の飛行艇を必要とします」
「それほど、難しいのですか」
「飛行機から感知器をぶら下げるのは、機体の均衡を保つのにも支障をきたします。本来、ひと固まりですむ検査器を二つに割るわけですから、それを接続するケーブルを機外にまで引っ張ってゆくほか、飛行機の外は氷点下も考えられますから、検出器を防寒仕様、減圧仕様とああ、何でこんなに不必要な部品を抱えこまなきゃあいかんと消沈していた時だったわけですよ」
「なるほど、磁性を排除する機体というのは、相当たくさんの利点があるわけですね」
「ええ、最大の利点は、早いの安いのおいしいのという点でしょう」
「早いというのは、検査器が小さければ、研究員分検査器を用意して一度に多数の飛行機を飛ばせます。そうすれば沢山の資料が最速で手に入れることができます」
「安いというのは、小さな機体に小さな検査機ですから、海軍も検査費をけちったりしません。世界中の磁性検査を我々はしますよ」
「おいしいというのはどういう意味で?」
「では、磁性のない機体を他の国が用意できるでしょうか」
「少なくとも日本より十年ほど遅れそうですが」
「そして、この機材を活用するには検査器と機体の二つを用意しまければなりません。つまり、この二つがそろっているのは日本だけ。おいしい海底調査は我が国が独占しておこないます」
「なるほど、研究者にとって独占的な活用ほどおいしいものはないと」
「で、この磁性検出器って潜水艦探査に限定されたものですか、さっきから世界中でやるといってられますが、どうも検査対象が複数用意されているような話しぶりですが」
「磁性の対象は、何も潜水艦だけではありません。わかりやすい例はですね、山師が二つの金属棒をもってそれがぐっと交差したところを掘るというものがあるでしょう」
「ああ、あの胡散臭い一発当ててやろうと言わんばかりの山師ですか」
「ではそれを科学的に考証してみましょう」
「えっ、あれって科学的なのですか?」
「ええ、科学的にここほれワンワンを解説いたしましょう。要は、ここに金がある。だから掘れを理解していただければよいわけですよね」
「ええ、あんなの山師の勘というかいい加減なものでしょう」
「では、そこに磁性の出番です。金鉱山というのは、経済性から成り立つには一トン中一グラム以上含有されていれば成立します。もちろん、副生成物の銀、銅が含有されているからですが。ここで、金が析出するのは熱水鉱床で噴出するのが通常ですが、わかりやすい例として秋田の花岡金山を例として取り上げましょう」
「確か、露天掘りでしたか」
「ええ、ここでとれる鉱石は、閃亜鉛鉱といいまして硫化物であり、化学式では (Zn,Fe)S と表記されます」
「おや、鉄を含む鉱石ですか」
「ええ、だから、磁性をもっている鉱山もあります」
「なるほど、天然磁石の上で鉄棒をもっていると、磁石の力で鉄棒が振れるというわけですか」
「ええ、しかも磁石というのは、中心が一番強く反応します。だから、ちょうどその真上に位置した場合、砂鉄が描く砂絵のように、右手と左手にもつ鉄棒の反応が割れるわけですよ」
「そういわれると、あの胡散臭い山師も科学者ということになるわけですか」
「そうなりますが、あれで石炭や石油も出てくるとなれば私には説明できません。私が説明できるのは、あくまで地殻含有比率で第四位の鉄族を含有する鉱石の場合に限定されます」
「なるほど、磁石一つをとっても世の中の仕組みは複雑怪奇というわけですね」
「ええ、なぜ山師を例にとって説明したかといわれるかと実は、地球の陸地は三割。私が探索したい海洋部は七割。未開の地である海の方が広いわけですよ」
「なるほど、教授にしてみれば世界一広い海という未発見の鉱山を発見できる可能性がこの海軍仕様二人乗り飛行機に詰まっているわけですね」
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