仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第303話
1935年(昭和9年)三月二十一日
富士山頂
「ひゅんひゅん、きーーん」
「ダダダダ、プルプルプル」
「うーん、試作木製戦闘機の木戦の対戦相手が木星というのはどうよ」
「戦闘機と水上機でしょ。対戦結果はみえていますよ」
「エンジン性能が等しいのなら、水上機は水上スキーの部分だけ空気抵抗が大きいですからね」
「それに、水上艇の中心部でなく端部に重しをのせているわけですから、小回りが利きません」
「ていうことは、対戦相手に不足があるかな?」
「とはいいますが、九気筒エンジンを積んでいる機体で日本にあるのは、この二機、他は七気筒エンジンで五年遅れといってもいいですよ」
「この味気ない大戦を中身のあるものにする手を連中は用意しているのか」
「どうでしょう。木戦で陸軍の戦闘機を配備しましょうという趣旨ですから、その主役を食ってしまうのは開発者どもの首を切ってしまうのと同意義だぞ」
「今のところ、木戦が木星に対し三戦三勝。後の二回は格闘戦でも消化試合だろ」
「あることはあるよ。亜細亜にはやはり敵はいないけど、航空先進国となればやはり欧米だな」
「どこもこの時代に寄せられる情報では、どの国でも戦闘機は空冷九気筒の時代」
「一応、次世代はどうなるか聞いておこうか」
「九気筒の次は、十二と十四がある。両方ともそれぞれ短所と長所がある」
「うーん、空冷というのは奇数でなかったのか?」
「円筒の三百六十度を使うなら、奇数で間違っていないけど、さすがに場所が取れなくてな。十四気筒の方は、七気筒エンジンを実質二つ並べた形。だから、使う角度は七百二十度で計算してくれ」
「そりゃ、頭部の重たい機体になるんだ」
「それを回避するなら、空冷でなく水冷の十二気筒V字型エンジンを使う」
「そりゃ、機体中心部にエンジンをもってくるから、駒のように回転できるのか」
「できるかどうかは、その機体の性能次第だな。水冷というのはエンジンの冷却に液体を使うわけで、その分エンジンが重くなるわ。整備が難しくなるわ。新設計エンジンだから今までの空冷の蓄積が使えんわと三つの難関を抱え込むわけだ」
「で、この結果がみえた対戦を実のある物にする方法として、仏蘭西に売り込むという方法があります」
「なるほど、たとえ採用されなくとも航空先進国仏蘭西と日本との差がはっきりわかるわけで」
「欧州大戦を経験した仏蘭西に売り込むというのはいいな。ちょうど、仏蘭西から国外に向けて買いますという話があがっている。仏蘭西も国産機の性能を知りたいという時期になっているから」
「それは、主に飛行機生誕の国亜米利加に向けての話でしょうが、別に日本が売り込んでも問題ないだろ」
「それに、エンジンの性能はほとんど差がないですね」
「どの国も空冷九気筒一千馬力未満で差が見受けられないんだわ」
「では、手はずを取りましょう。開発者にとってもいい弾みとなるでしょう」
「残り二戦となりましたが、ここに従来型ではなく木戦に対戦する木星も試作機に変更させていただきます」
「へっ、隠し玉?」
「九気筒の海軍仕様整備士がいじったものか?」
「わからん。でも、意味ある対戦となるのか?」
「ひゅんひゅん、きーーん」
「ダダダダ、プルプルプル」
「おいおい、攻守入れ替わりってどういうことよ。水上艇である木星が二勝ってどういうことだ」
「ひとつ言えることは、改良型木星の格闘性能は小回りがきいた軌道を描くことだな。軽量化のせいか?」
「後ろを取られても旋回軌道が小さいから反対に後ろを取り返せるぞ」
「何が違うんだ?」
「今発表があった、エンジンまでアルミ製だとさ」
「なるほど、そりゃ軽量化のおかげっていうやつか」
「海軍で磁性のない機体を作れっていう命題でアルミエンジンを造っていたら、試作エンジンができたから木星にのっけて、鉄製エンジンの木戦にぶつけたと」
「これで木戦にアルミエンジンをのっけたら、結構いい線いきそうだ」
「待った。その機体は高い。予算が足りん」
「ふふふ、ならば外圧を利用しましょう。仏蘭西に売り込みましょう、勝算はこれで二割上昇しましたよ」
「仏蘭西の戦闘機として採用されたら、日本に配備する機体もアルミ仕様にするしかないでしょう。さあ、仏蘭西に機体を運びますよ。そしてその成果をもって幕府に掛けあいましょう。高性能の機体は正義だといって」
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