仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第304話
1935年(昭和9年)六月六日
仏蘭西空軍参謀本部
「はあ、どうしてこうなった」
「我が国は、最新機MS406を送り込んだんだぞ」
「他国より一足先に液冷十二気筒、単葉、引き込み脚、密閉風防、最高速度486km/hとくれば、亜米利加と同等、おまけの参加国ジャポンには一蹴と踏んでいたんだが」
「カタログ通りなら、出力860馬力ですよ」
「亜米利加はわかる。さすがわ、航空機の発祥国だと」
「亜米利加は、カーチス製のp-36だったな。確かに大きな出力を誇り、我が国の見本となる戦闘機だ」
「世界最先端の空冷十四気筒エンジンに物を言わせた1184馬力で押してくる」
「最高速度501km/hは脅威だわ。さすがに重たい機体だが」
「総重量は双方変わらん、二トン半ば」
「とくれば、馬力で勝る亜米利加だが」
「同じ全金翼で引き込み脚となれば、飛行機乗りの最大懸念事項、どこまで機体の頑丈性を与えられるかで決まってしまう」
「亜米利加のp-36(愛称ホーク)は、亜米利加国家そのものである鉄人を思わせる安心感だな」
「満場一致で、主力戦闘機に採用されるのはわかる」
「これにケチはつけられん」
「だが、誤算はジャポンにある」
「空冷九気筒七百馬力は、いかにもジャポンらしくある」
「おまけに、固定脚だ。これで勝負あったなと思わせたんだが」
「とてつもなく軽い総重量千二百キログラム」
「どんな魔法を使ったんだと思ったら、エンジンがアルミ製だった」
「それに、機体が全て木でできている」
「普通なら、アルミニウムの方が軽くて強靭なんだが」
「そこは、浮世絵三百年の歴史ある国家。国家秘密級だった圧縮木材による強靭と軽量化による世界中には未知の技術で補う戦術ってどうよ」
「おかげで下克上よ下剋上、MS406の採用見送りってとんだ想定外」
「主戦戦闘機p-36(ホーク)これには異議はない」
「で、戦闘爆撃機木戦って何なの」
「それはだな。馬力を機体重量で割ると出てくるよ
ホーク 0.47 (1184/2500)
MS406 0.34 (860/2500)
木戦 0.58 (700/1200)
軽いから、機体重量をぐいぐいと上昇させることができるんだ」
「あれはある意味脅威だわ。なにあの旋回性。後ろを取ったら、普通は勝負ありだろ。だが、小さく旋回して後ろを取り返すってどういうことだ」
「そして、軽いから好き勝手に武器を選べるってどういうことよ」
「三十ミリ機関銃まで対応可。今日は、二十ミリ機関銃搭載してたけどね」
「ちなみに、ホークは、13ミリ。それに対し、MS406の二十ミリ機関銃ね」
「三十ミリ機関銃なら、戦車を撃ちぬけるという理屈で陸軍が一押ししたね」
「そして、搭載爆撃量300 kgって、反則だろ」
「いや、機体に余裕があるんだから、それでも問題ないだろ、実際に
700 / (1200 + 300) = 0.47
だから、爆弾を搭載したところでホークと同等の加速力だぞ」
「でも、弾が当たんなきゃあ、ただのくずだろ」
「それを言っちゃあおしまいだ。仏日の格闘戦の最中、少しばかり戦闘時間が延びたかって、MS406 が整備不良で不時着しっちゃってはね」
「お偉いさんの信用力がガタ落ちしたわ。さすがに」
「仕方ないだろ。無理に無理をした設計になってんだよ」
「予定では、これから不具合を訂正してゆくことになってたんだ」
「それにジャポンが割り込んできたばっかりに、406の予算がつかない。早いとこ次の設計図を描きなさいって言われる始末さ」
「406の回収がつかなきゃあ、新型機の設計もおぼつかんないんだが」
「欧州大戦栄光の仏蘭西が没落してゆく」
「それは言うな。木製飛行機に負けたなんて、他人に知られたくない」
「機関銃で簡単にぶちぬかれそうな機体に乗れというのか」
「けどな、MS406の信頼性も地に落ちている。木戦の離着陸しやすさは初心者用にはいけるだろ」
「へいへい、MS406 は、そりゃ乗りにくいですよ」
「栄光の仏蘭西なら、金にあかしてやり返せよ。金はあるだろ」
「確かに、石油には苦労してませんので、その点では独英より恵まれてますけど」
「その金で戦闘機を買ったことにしておけ」
「わかりました。亜米利加に原油を売って戦闘機を買ったことにします」
「でこの事件をどう端的に表すかだ、軽量飛行機に対する脅威だからどうしよっか」
「素早く後ろを取られたってことで、忍者ショックにしておきましょうか」
「忍者なら世の中が納得してくれるかな」
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