仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第305話

 1935年(昭和9年)九月九日

 甲府飛行機工場

 会議室

 「諸君、朗報だ。仏蘭西より我が国の木戦が仏蘭西空軍戦闘爆撃機に正式採用された」

 「所長おめでとうございます。これで、アルミエンジンの大々的な採用が決定ですね」

 「そうだ。高い高価だと言われ続けてきたが、結果が全て。日仏両国で採用されたのだから」

 「仏蘭西なら、原油収入に物を言わせて購入してくれるでしょう。仏蘭西が買うのだからと日本もどしどし製造して、日仏に売り込みましょう」

 「いやいや、諸君、もう一国、木戦を購入してくれそうな国がある。すぐさま、仏蘭西空軍で納品実績をもって露西亜帝国に売り込みをかけたまえ」

 「それはすばらしい。ぜひとも成功させましょう。で、露西亜って、仏蘭西より航空先進国でしたっけ?」

 「それがかの国でも液冷エンジンの製造がはじまったときく。AM-34が昨年から製造されているときく」

 「となれば、我が国だけですか、九気筒エンジンどまりの国は」

 「露西亜に売り込みをかけるのであれば、十気筒以上のエンジンも現在生産中ですよという押しが欲しい」

 「となれば、すぐさま関係部署に十気筒以上のエンジンを製造させましょう」

 「そうできれば、仏蘭西ももっと購入してくれるでしょう」

 「ともあれ、今夜は祝杯だ」

 「街に繰り出しましょう」

 「では、私は場所を押さえておきましょう」

 

 

 

 同開発部

 「どうする?木戦は、時代遅れだってさ」

 「どうもこうもない。引き込み脚はすぐさま採用だ」

 「エンジンはどうする?液冷それとも空冷?」

 「どっちが簡単?」

 「もちろん空冷、どうしてもっていうのなら、試作機は七気筒エンジンを二つつなげてなんちゃって十四気筒でいくさ」

 「ま、軽金属会社にはそうしてもらおうか」

 「そうなると、エンジン重量はどこまで膨らむんだ?」

 「鋳鉄で作れば、空冷十四気筒なら五百キログラム、液冷十二気筒ならば六百キログラムだ」

 「アルミニウム合金ならばその半分か」

 「問題は、機体ですよ。ついに千馬力級となれば、機体の剛性をあげなければなりません。何か手はありますか?」

 「そんな物すべて使ってる。あえていえば、新素材か、画期的な製造法が必要だ」

 「ま、これは開発員すべてが背負う宿題っていうことで」

 「今日は飲むけど、お題はどうする?」

 「祝杯っていう気分じゃない」

 「そうだな一番近い気分は、受験勉強これから一年頑張りましょうっていう遊び納めで飲むか」

 「でも、飲むならうまい酒にしたい」

 「だったら、これで解禁だろ。金属翼より木製翼の方が空気抵抗が少ないっていう」

 「それは俺も確認している。十四気筒なら、時速六百キロも可能ではないか」

 「だよな、素人でもわかる。漆を塗った御盆なら鉄板より表面が平滑だ」

 「よし。だったら、今日の飲み会は時速六百キロを目指す壮行会だ」

 「ふふ。とっとと、十四気筒エンジンを完成させて全ての戦闘機を置いてけぼりにする戦闘爆撃機を完成させるよ」

 「おっと、忘れちゃいけない。空気抵抗が小さい機体ってな。当然、燃費もいいんだぞ。航続距離も二千五百キロをカタログにのっけてやるよ」

 「これって、最強の機体ができるんじゃない」

 「よし。エンジン開発部署を突っつくぞ。とっとと、千二百馬力エンジンを作れって」

 「おう、俺らの茨の道につきあわせてやる」

 「いや、エンジンが完成しないと俺らの機体ができても飛行機として完成しないから。さあさあ、俺たちより一年先にエンジンを作ってもらいましょうと押し掛けません」

 

 

 中山軽金属工業

 「諸君、我々には朗報と凶報がもたらされた」

 「よい知らせとは?」

 「日仏で木戦が採用された。場合によっては露西亜も採用されるかもしれない」

 「常務、おめでとうございます。これで会社として稼働率が跳ね上がりますね」

 「ああ、これで胃の痛い日々を過ごさなくてすむ」

 「では、悪い知らせとは?」

 「仏蘭西と亜米利加の最新鋭機がそれぞれ十二気筒、十四気筒エンジンだった。だからこれまでの成功は成功だが、これから我々の作る部品は十四気筒エンジン用の部品が主体となるだろう」

 「えー、つまり、十四気筒エンジンが設計されないと我々の仕事はそうそう増えないのですか?」

 「そう、いまだ、空手形でまわっているようなものだ」

 「難しい仕事をありがとう。ってな感じで仕事を回せってせっつく会でしょうか。今日の飲み会は?」

 「ま、開発資金は豊富になるんだから。開発費をありがとう会でいきましょう」

 

 

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