仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第307話

 1936年(昭和10年)二月十一日

 甲府工場開発室

 「中国で、清帝国の流れを引き継いだ現体制派は、地主層の支持を受ける」

 「農民層の支持が厚い反体制派は共産党を名乗り、内陸部に支配権をもつ」

 「幕府は、南部の仏蘭西植民地、北部の露西亜帝国と共同して、香港側から北上する英吉利勢力の拡大を阻止すべく三国による連携を強化」

 「しかし、英吉利はこの流れを察知し、独逸を引き込む検討をした。というものの、列強に囲まれた国家と認識し、タイと同様、中国を中立国家として戦争に関与しない方針を取った」

 「これって、英吉利が戦争を推し進めていけば、兵站線が長い分だけ英吉利に不利というだけだろ」

 「その陰に日本がいるわけだ。中国までの兵站線は日本が一番短い。日本の戦争継続能力に英吉利は警戒したわけだ」

 「正確には、日本を取りこんでいる露西亜とインドシナ半島の仏蘭西植民地に英吉利はひいたわけ」

 「というわけで、中国は内戦状態にもかかわらず、列強は戦争に関与しない」

 「中国にある生糸や鉱産資源と引き換えに武器は渡すバーター取引に徹しているがな」

 「その中国の色分けは、貧困層を抱える内陸部を共産党が支配権に。裕福な沿岸部を現体制派が握る」

 「面積比でいうと、七対三」

 「しかし、現体制派が領有する土地ではそのまま、現体制派が有利に統治を進めている」

 「その原因を作ったのは、主犯日本、従犯露西亜となっている」

 「中国の土地支配を決定づける物は何か?そんなもの、周と言われた時代から変わりはない」

 「衣食足りて礼節を知る」

 「これを現代風にいいかえると、仕事を与える支配層が歓迎される」

 「そのきっかけとなったのは、日本が仏蘭西に仕事を割り振った浮世絵印刷事業。これをきっかけに中国沿岸部でも意欲的な資本階級は生産委託性を採用。世界中から強みのある事業で生産を請け負い、製品を納める事業を展開」

 「そのため、その生産委託事業に雇用された従業員は、中国国内では高給取りに位置し、共産党支配下の農民でさえ、コネクションさえあればその従業員に採用されることを夢見る」

 「つまり、仕事を与え外貨を獲得している現体制派は資金面で共産党を圧倒している」

 「そらそうや、現体制派は、金に物を言わせて、共産党の軍人に引き抜きをかけている」

 「ただ、中国は人が多すぎて共産党の軍人は農民層からいくらでもわいてくるそうだが」

 「で、従犯の露西亜というのは二つの面でそう言われている」

 「一つは、社会主義の生まれた国。貧乏人にすぐさま浸透する教義、それが社会主義」

 「もう一つは、中国との取引において、共産党には資金がまわっていないということ。物々取引相手は双方、資本主義国家間が主体となっている」

 「共産党が支配している鉱山で産出する鉱物は、相対的に露西亜が必要とする物が少ない。そのため、中国の共産支配地域は、中国の七割を支配しているにもかかわらず、資金繰りに窮している」

 「その最大の理由は、社会主義の生まれた国家である露西亜から中国共産党への国外援助が全くないこと。共産主義というものも戦争をしている限り、国外援助をあてにしなければ、戦争を仕掛けるのは極めて難しい」

 「よって、両者の勢力図を決めるのは、国外からえることができる外貨」

 「もっと端的にいえば、中国が獲得できる生産委託で必要とする従業員数が中国人の半分までという点だということだ」

 「ということは、単純に中国沿岸部の人口密度は内陸部の二倍?」

 「そういうこと、面積比で共産党が上回り、人口比で現体制派が上回っている」

 「ということは、両者間の勢力拡張戦争はは膠着状態?」

 「だが、そうなってしまうと新しい需要が生まれるわけで、両者間が均衡を保っていれば、世界中の軍需産業が目をつける」

 「その理由で大きいのは、欧州戦争が終結してから二十年。武器の更新されているわけで、列強はその試験使用を中国でしている」

 「俺たちもその中に加わりたいね」

 「十四気筒エンジンはまだ何とかなりそうだが、機体を構成する木材加工にめどが立たない」

 「では、九気筒エンジンで中国に売るか?」

 「少しばかり、他国と仕様が違いすぎるから戦闘機は駄目だな」

 「機関銃といった陸軍兵士仕様の武器を試す場となるだろう」

 「だとしたら、戦闘機を売りに出す国はないのか?」

 「旧式戦闘機の放出は、生産国ならどの国でも考えるだろう」

 「もちろん、旧式戦闘機を一新したい裕福な国家も飛びつくだろう」

 「だとしたら、中国で出てくる戦闘機の最新情報は何になりそう?」

 「九気筒式は現役と考えると七気筒まで」

 「木製戦闘機の在庫一掃かな」

 「いやいや、貴重な戦時情報だよ。ベテランを含めて一国の精鋭戦闘機乗りが乗って情報収集でしょう」

 「旧式に古参兵か」

 「だとしたら、宙返りとか空中動作に注目してみるか」

 「ほらほら、いくら開発に行き詰っていますといっても現実逃避がひどすぎるぞ」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

humanoz9 + @ + gmail.com

第306話
第307話
第308話