仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第309話
1936年(昭和10年)八月十五日
英国情報部
「我々にとって、中国とは如何?」
「三方を敵国に囲まれた虎の巣」
「やみ込むに攻め込むと、第二の亜米利加独立戦争」
「あの時は、仏蘭西一国が歴然と大英帝国に反抗的な態度を取ったばかりに負け戦に突入した」
「中国の場合、仏露日の三国が協力してきたら、英吉利は香港から出陣するのもままならなりそうだ」
「中国は、我々がのどから欲しい原油を産出しない国、その他どこにでもありそうな二流国家」
「原油さえあれば、政官学そろい踏みで中国を乗っ取る理由になるんだが」
「それを言ったらインドも原油が出てこないわ」
「今のところ、英吉利はインド支配で良い生活をしている国家」
「原油がないと植民地間を輸送する手段にも欠く世の中になったか。この世の不条理だな」
「おまけに、スエズ運河支配は、仏蘭西。パナマ運河支配は、仏蘭西から亜米利加に変更されるも、有事の際には、世界中の輸送時間が二倍になることを前提に戦略を練らねばならない」
「今のところ、原油を獲得するには、中立国とは仲良くする前提で亜米利加から仕入れるのが一番効率的だな」
「そうそう、レギュラーはインドネシアを制した阿蘭陀から仕入れてもいいのだが、いかんせん戦争というものは最高の質を要求するものが多々ある」
「その筆頭は、ロールスロイス製のエンジンを積んだbf109だな」
「なんせ、目指す目標が亜米利加のハイテクエンジンを積んでいる戦闘機p-36」
「千二百馬力を目指すには、ハイオクガソリンでないと困るのだがね」
「そのため、独逸は来るべき戦争に備えて、エンジンをダイムラーベンツ製に変更いたします」
「それって、中国内戦で使えるの?」
「申し訳ありません。中国内戦での戦果を反映させたbf109Eから採用となります」
「となると、独英の主力戦闘機がぶつかる中国内戦では、ロールスロイス製のbf109で空中決戦か」
「これって、独逸は相当不利じゃあない?英吉利はスピットファイアでくるみたいだけど、ロールスロイス製のエンジンを使用している限り、ほとんどエンジン性能がばれているってことでしょう」
「ええっと、向こうの仕様書をみた限り、ドングリの背くらべで双方、六百馬力の液冷エンジンを採用しています」
「なるほど、天の配剤か。少なくとも機体性能で勝負がつくわけだな」
「ま、やれるだけやるわ」
「てなわけで、中国内戦の戦いは世界最先端の実験場」
「二の舞はあかんぞ、意気揚々と仏蘭西製戦闘機のお披露目をおこなうはずが、亜米利加と日本製に遅れを取ってしもうて、一国の軍需産業が壊滅状態になるようなまねはしたらあかんで」
「ま、最悪でも勝利を狙っていきましょう。独逸製のモーターカノンに英吉利が追随してくるとは思えんし」
「ただな、整備士に不安がある」
「えーと、英吉利は香港に近い方の現政権につくんでしょ。独逸はどうするんで」
「そりゃ敵対勢力の共産党につくしかあるまい」
「そりゃ、きついな。独逸が農民に飛行機整備をやらせるとしたら」
「英吉利は、紡績機械を使っている機械工に整備をさせることになるんだから」
「ねじ一本閉めたことがない人間に戦闘機乗りの命を預けさせるのと、日々世界に輸出する紡績機械を手入れしているエンジニアに戦闘機を預けるのとでは、天と地の差がある」
「これって、独逸が負けた時に言い訳になるか?」
「わかったわかった。整備兵の分も全部、経費で出す。絶対、英吉利なんかに負けんじゃないぞ」
「それはそれで、整備兵も御苦労さま」
「わざわざ、地球の裏側で独英の運命を決めるのは、誰も予想できまい」
「となると、独逸で作った戦闘機を中国まで運ぶわけだけどどういった方法を取るんで?」
「紙の道こと、シベリア鉄道はどう?」
「却下、露西亜に機密がただ漏れ」
「上官、それ以外だと、中国の内陸部に輸送しなければなりません」
「そっか、沿岸部を支配しているのは現体制派か」
「何かいい手はないか」
「船で運んでも、香港もしくは上海どまりですね」
「やもうえん。どこからか飛行機を組み立てて、中国大陸を横切れ」
「とすれば、大連ですかね」
「妥当なところかな。そこなら、内陸部が近い」
「なあ、今からでも欧州で模擬戦闘をしないか」
「私見ですが、英吉利は欧州大戦の経験がありません。それに英吉利は、露西亜を相手にするわけですから陸上輸送に精通してくれなければなりません。英吉利国内のような補給態勢が万全ではない状態で戦闘を継続してもらう必要があるわけで、中国大陸は疑似的な欧州大陸に見立てて戦争経験を積んでいただく必要があります」
「うーん、実戦経験とは積みがたいものだな」
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